睡眠時無呼吸症候群の治療方法について
睡眠時無呼吸症候群(SAS)の治療は、根本原因を取り除く外科的手術と症状を緩和させる保存療法(対処療法)があります。多くの治療方法がありますが、どれが良いという訳でなく原因に応じた治療方法を選択する必要があります。
CPAP療法
CPAPとは「Continuous Positive Airway Pressure」の頭文字をとった言葉で「経鼻的持続陽圧呼吸療法」のことです。
閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA)に有効な治療方法として普及しています。
ここでは、CPAP療法の方法や効果、注意点について解説します。
CPAP療法の方法
CPAP療法は、特殊なマスクを装着し、睡眠中に気道に空気を送り続けて気道が塞がらないようにする治療法です。
一般的にはCPAP装置を医療機関からレンタルして自宅で使用します。自宅で使用する際には、当然ですが自分で装着しなければいけません。そのため病院で正しい使い方を教えてもらい適切に使用することが大切です。
CPAP療法の効果
CPAP療法を行うことで、寝ている間のいびきや無呼吸状態を減らす効果が期待できます。
いびきや無呼吸状態が減ることにより、血圧の改善効果や朝すっきりと目覚めることができ、昼間の眠気が軽くなることもあります。
CPAP療法の注意点
CPAP療法は、対症療法であり睡眠時無呼吸症候群の根本的な治療ではありません。
CPAPを使用している間は、睡眠時に呼吸がしやすく症状が治まることがありますが、やめてしまうと症状がまた出てしまいます。そうならない為にもCPAP療法は継続することが重要です。
また、睡眠中にマスクを装着し続けなければいけない為、神経質な方は眠りにくくなることがあるため注意が必要です。
マウスピース治療
睡眠時無呼吸症候群(SAS)を治療するためにマウスピースを使用するケースもあります。マウスピースをつけて寝るだけなので、手軽で楽なイメージを持たれるかもしれませんが、すべての睡眠時無呼吸症候群に有効な治療ではありません。マウスピース治療の対象になるのは、基本的にはいびきや症状の軽い睡眠時無呼吸症候群の人です。重症の方に向いている治療ではないので必ず医師と相談しましょう。
ここではマウスピース治療の方法や効果などについて解説します。
マウスピース治療の方法
睡眠時無呼吸症候群(SAS)の治療に使用されるマウスピースは、スリープスプリントと呼ばれています。睡眠時に無呼吸なる原因は、太り過ぎでのどの周りに脂肪がついたり、あごが小さかったりすることで仰向け状態のときに舌や軟口蓋が沈下して気道を狭くしてしまうことです。そこでマウスピースを使用し、寝るときに下あごを少し前に突き出すようにして、仰向けの状態でも気道が広がるようにします。そうすることで口呼吸をしても空気が通りやすくなり、睡眠時の無呼吸を防止する効果があります。
マウスピース治療のメリット
マウスピース治療のメリットは、寝るときにマウスピースを装着するだけなので、寝ている間にマスクをするCPAP療法や外科手術に比べると負担が少なく、手軽に出来ることです。また、睡眠時無呼吸症候群を引き起こす原因の一つに口呼吸をしていることがあります。口呼吸をやめて鼻呼吸を習慣づけることが睡眠時無呼吸症候群を改善するために必要なのですが、マウスピースを装着している間は口呼吸がしにくいため鼻呼吸への習慣づけにも役に立ちます。
もう一つのメリットは、マウスピースは小さく持ち運びが出来るので出張や旅行などの外出時でも使用できることです。出張先で一人で寝るときの無呼吸が不安なときや、いびきで他の人に迷惑をかけないかが心配な時などにも使用できます。
マウスピース治療が出来ないケース
重症の睡眠時無呼吸症候群には使用できません。その他には残っている歯が少ない方や慢性的に鼻の通りが悪い方はマウスピース治療を受けない方が良いでしょう。
マウスピース治療は、あくまでも軽症から中症の改善を目的として使用されるのが一般的です。その理由としては、マウスピースを使用している間はいびきが小さくなり、無呼吸も改善されるかもしれませんが、根本的な原因の改善にはなっていないからです。
またマウスピースは歯を固定源にするために、歯が少ないと固定できませんし、口呼吸がしづらいので鼻呼吸に移行しやすくなる反面、鼻の通りが悪いと息がしづらくなってしまいます。
簡単ないびきの予防や、鼻呼吸への習慣づけとしては使用できても重症の睡眠時無呼吸症候群には対応できないため注意が必要です。
マウスピース治療の効果
いびきや睡眠時無呼吸症候群でも軽度から中程度の症状にマウスピースを使用すると、いびきの軽減や無呼吸の予防につながることが期待できます。
しかし効果を得るためには、自分にあったマウスピースを使用しなければいけません。マウスピース治療は一人ひとりの骨格にあわせて、下あごの微調整が必要になるため経験豊富な専門医に診てもらったほうが良いでしょう。
マウスピース治療は、あくまでも「いびき」や「無呼吸」の予防であって、根本的な治療ではないということを覚えておきましょう。
マウスピース治療は歯科医院でもできる?
睡眠時無呼吸症候群の治療は歯科院で出来ます。ただし事前に病院での検査が必要です。
まずは病院で診断してもらい、その診断書を持っていけば歯科院でのマウスピース治療を受けられます。
保険適用かどうかは気になるところですが、睡眠時無呼吸症候群の診断書があれば保険適用となります。保険適用となるのは、あくまでも睡眠時無呼吸症候群と診断された場合のみで、「いびき」の症状だけでは保険適用にならないので注意してください。
睡眠時無呼吸症候群は、内科、呼吸器内科、循環器科、耳鼻咽喉科、睡眠外来など多くの診療科で検査や治療が可能ですが、治療にあたっては専門的な機器や技術が必要なため専門的な病院を受診することをおすすめします。
マウスピース治療については、こちらのコラムで詳細に解説しているので、ぜひ参考にしてみてください。
外科手術
外科手術は対症療法に比べると、より根本的な治療が出来ます。
しかも対症療法の場合は患者さんの協力が不可欠で治療までに長時間かかるというデメリットがありますが、外科手術の場合は患者さんの協力態度に影響されずに治療できるというメリットがあります。
外科手術というと「費用が掛かる」「痛い」などのイメージがあるかもしれませんが、最近では痛みの少ない治療方法もあり手術のハードルが下がっているので、中程度から重症の方は治療の選択肢として覚えておいた方が良いでしょう。
ここでは外科手術についての解説をします。
外科手術が必要な人
外科的な手術が必要な人は次のような人です。
- ・扁桃肥大やアデノイド肥大
- ・CPAPはマウスピースなどがあわない人
- ・症状が重く出来るだけ早く治療しなければいけない人
子供が睡眠時無呼吸症候群になっている場合は、アデノイド肥大や扁桃肥大が原因の可能性があります。その場合は外科手術が一番の理療方法です。
また、アデノイド肥大や扁桃肥大は大人の場合でもなる可能性があります。気道閉塞の原因がアデノイド肥大や扁桃肥大の場合や他の治療方法では、うまく治療できなかった時などは手術が必要となることがあります。
外科手術の方法
睡眠時無呼吸症候群の外科的手術には以下の方法があります。
- ・口蓋垂軟口蓋咽頭形成術
- ・扁桃腺摘出術
- ・鼻中隔湾曲症
- ・鼻茸(鼻ポリープ)切除術
- ・下鼻甲介手術
睡眠時無呼吸症候群の原因により手術方法が選択されます。
ここでは、それぞれの手術方法について紹介します。
口蓋垂軟口蓋咽頭形成術
睡眠時無呼吸症候群の最も一般的な手術方法は「口蓋垂軟口蓋咽頭形成術」です。別名UPPPと言われています。この手術は口蓋垂、口蓋扁桃、軟口蓋の一部を切除して、気道を広げ睡眠時の無呼吸を治療します。外科的手術で睡眠時無呼吸症候群の根本原因を切除するので上手くいけば再発する可能性を低くすることが出来ます。
デメリットは手術の傷が治るまで、のどの痛みが起こりやすいことです。ただし最近では、いびきを和らげる効果のある、痛みの少ないレーザーによる口蓋垂軟口蓋咽頭形成術も行われるようになっています。
扁桃腺摘出術
扁桃腺が肥大することで気道を塞いでしまい睡眠時無呼吸症候群やいびきの原因になっているときは扁桃腺の摘出手術を行います。主には睡眠時無呼吸症候群の中でも中等度以上の症状がある場合にすることが多い手術です。1週間程度入院する必要があります。
鼻中隔湾曲症矯正手術
鼻中隔湾曲症手術とは、鼻中隔の湾曲した(曲がった)部分の骨を切除する手術です。
鼻中隔とは鼻の穴を左右に隔てている壁のことで、この壁が強く曲がっていると、鼻呼吸がしづらくなり、いびきや鼻づまり、嗅覚障害が起こってしまいます。このような症状が慢性的に起こるのが備中格湾曲症です。
風邪やアレルギーでもないのに、慢性的に鼻づまりに悩んでいるという人は鼻中隔湾曲症矯の可能性があるので、一度診察を受けることをおすすめします。
鼻茸(鼻ポリープ)切除術
鼻茸(はなたけ)とは鼻ポリープとも呼ばれ、鼻や副鼻腔の粘膜が炎症によって垂れさがり、キノコ状にたれさがったものです。これを切除するのが鼻茸(鼻ポリープ)切除術です。
鼻茸が出来ると呼吸がしづらくなり、いびきや睡眠時無呼吸症候群の原因になることがあります。その他の症状としては、鼻づまり、嗅覚障害、集中力低下、口呼吸をすることによる口臭など様々な障害がおこります。日常生活に支障をきたす場合があるので、治療してもなかなか治らないときには手術が必要になります。
下鼻甲介手術
鼻の中には下鼻甲介と呼ばれる粘膜のひだがあります。このひだが腫れると鼻の通りが悪くなり、鼻づまりの原因となってしまいます。鼻づまりが起きると口呼吸になり、睡眠時無呼吸症候群やいびきにつながります。下鼻甲介手術は下鼻甲介骨を手術によって減らすことで鼻の通りが良くなる手術です。
外科手術の効果
外科手術は、マウスピースなどの保存療法よりも効果が出る可能性が高いと言われています。口蓋垂軟口蓋咽頭形成術(UPPP)の有効率は50%という報告もされており、最近は効果や合併症などの点も考慮してさらに優れたUPPPが広がっているようです。
外科的手術の注意点
外科的手術を受けるためには、睡眠時無呼吸症候群の原因を特定することが大切です。専門の病院で検査を受けることをおすすめします。
また保存療法による治療を行っていても効果が得られない場合は、鼻中隔や鼻茸などが原因の可能性もあります。その場合も専門の病院で一度診察してもらった方が良いでしょう。
生活習慣の改善
睡眠時無呼吸症候群の多くは生活習慣を改善することで改善する可能性が高くなります。また、せっかく治療したとしても生活習慣を変えなければ再び睡眠時無呼吸症候群になる可能性があります。
睡眠時無呼吸症候群を予防するためにもまずは生活習慣の改善に取り組みましょう。
ダイエットをする
睡眠時無呼吸症候群の方は、ダイエットをすることが有効な治療となることがあります。
肥満体形の人は、上気道周辺にも脂肪が溜まりやすく、その脂肪が気道を塞ぎやすいため睡眠時無呼吸症候群になりやすくなります。
ダイエットをすることで気道周辺の脂肪を減らすことで気道を確保することが出来るため、いびきや無呼吸の予防につながります。
アルコールを控える
お酒を飲んだ後に寝ると、いつもより「いびき」をかくという人も多いのではないでしょうか。アルコールを摂取すると、上気道を広げる筋肉を弛緩させてしまいます。その結果、舌がのどに落ち込みやすくなるなどして気道を塞いでしまい「いびき」や「無呼吸」の原因になります。
健康な人であれば問題ないのですが、睡眠時無呼吸症候群の人は症状を悪化させる可能性があるためアルコールは控えましょう。
鼻呼吸をする
鼻が詰まっている時などは鼻呼吸よりも口呼吸の方が楽に感じるかもしれません。しかし口呼吸のほうが上気道は狭くなりいびきの音が大きくなり、無呼吸になるリスクが高まります。また口呼吸をしていると、舌の付け根がのどに落ち込んでしまい上気道を塞ぐ可能性もあります。
鼻呼吸をするためのテープなどを使用し改善することが睡眠時無呼吸症候群の予防につながります。
中枢性睡眠時無呼吸の治療
中枢性睡眠時無呼吸症候群とは脳の呼吸中枢から呼吸の指令が出なくなり呼吸が止まってしまう病気です。睡眠時無呼吸症候群のなかの数%がこのタイプに該当します。
また心不全などの心臓病との合併症が多いのも中枢性睡眠時無呼吸症候群の特徴です。
外科的手術による治療
高血圧や心筋梗塞などが原因で心臓の動きが悪くなると、全身に十分な血液を行きわたらせることが出来ずに、中枢性睡眠時無呼吸症候群と合併することが多いと知られています。
その他には脳出血や、脳梗塞など脳の病気によって、呼吸中枢がうまく働かない場合も中枢性睡眠時無呼吸症候群になることがあります。
心臓や脳などに原因がある場合は、その病気を治療するために外科手術を行うことがあります。
保存療法による治療
中枢性睡眠時無呼吸症候群の症状に合わせた治療を段階的に行います。
治療方法としては閉塞性睡眠時無呼吸症候群と同じで、生活改善やマウスピース療法、CPAP療法などがあります。
その他には心臓病や脳の病気と合併している場合には薬による治療を行います。
中枢性睡眠時無呼吸症候群が疑われる場合は、病院で検査をして治療をするようにしましょう。
薬による睡眠時無呼吸症候群(SAS)の治療は下記の記事でもまとめているので、ぜひチェックしてみてください。
まとめ
この記事では睡眠時無呼吸症候群の治療について解説しました。
以下のことを主な治療方法としてあげています。
- ・CPAP療法
- ・マウスピース療法
- ・外科的手術療法
- ・生活習慣の改善
睡眠時無呼吸症候群は、合併症を引き起こしやすい恐ろしい病気です。睡眠時無呼吸症候群が疑われる場合は直ちに専門の病院で検査をしてもらい適切な治療を行いましょう。
よくある質問
Q.無呼吸症候群の治療をしないとどうなりますか?
A.無呼吸症候群は治療をしないと高血圧や糖尿病、心疾患、脳卒中、交通事故のリスクが高くなります。また集中力の低下や頭痛なども引き起こし日常生活に悪影響を及ぼすので早めに治療をしましょう。
Q.無呼吸症候群の治療方法はどのようなものがありますか?
A.CPAP療法・マウスピース療法・外科的手術療法・生活習慣の改善などがあります。症状や原因に合せて適切な治療を行うことが大切です。睡眠時無呼吸症候群について詳しい病院で診察を受けることをおすすめします。