いびきをかく仕組みとは?
まずは、いびきをかく仕組みからお伝えします。そもそもいびきとは、空気の通り道である気道が何らかの要因によって呼吸をした時に音が鳴るものです。
「たかがいびきだ」と思う方も多いかもしれませんが、睡眠の質が低下して日中も眠くなったり、うるさいことから家族や友人との関係が悪化してしまったりなど、様々な弊害があります。
いびきをかいてしまう要因としては、以下のようなものが挙げられます。
- ・喉や首周り、舌の脂肪がつく(肥満)
- ・加齢による喉周りの筋肉の緩み
- ・顎が小さい
- ・首が短く太い
- ・ホルモンバランスの変動
- ・生活習慣
誰でもいびきをかく可能性がありますが、特に注意しておきたいのは「肥満によるいびき」です。
肥満が原因でいびきをかきやすくなるのはなぜ?
肥満になると、いびきをかきやすくなります。太っている人ほど首周りや舌に脂肪がついてしまうため、いびきの頻度が高くなったり、いびきの音も大きくなったりしてしまいます。
太ってきて首周りに脂肪がつくと、気道の周辺にも脂肪がつき、気道が狭くなるのがいびきの原因です。
また、脂肪は舌にもつくため、舌が大きくなってくると舌の根の部分が喉の奥をふさぎやすくなり、いびきが発生しやすくなります。
そもそもどのくらいの体重で肥満と判断される?
肥満が原因でいびきをかきやすくなりますが、そもそもどのくらいの体重で肥満だと判断されるのか気になる人も多いのではないでしょうか?
肥満かどうか判断するには、主にBMIという体格指数で判断します。このBMIの数値が高いほど肥満体型ということになります。
BMIの数値が18.5未満であれば低体重、18.5以上25未満であれば普通体重ですが、25以上は肥満1度、2度、3度、4度と数値が高くなるほど肥満指数が高まります。
軽度の肥満でもいびきをかく頻度が高くなるので、最近太ってきたと感じたらいびきをかいたり、睡眠時無呼吸症候群を併発したりする可能性が高くなることに注意しましょう。
肥満を放置するとどんな影響がある?
肥満を放置した場合、以下のような影響があります。
- ・血糖値や脂質、尿酸値が高くなりやすい
- ・高血圧になりやすい
- ・狭心症、心筋梗塞、脳梗塞を発症しやすくなる
- ・肝臓の病気を発症しやすくなる
- ・月経に異常が起こりやすい
- ・睡眠時無呼吸症候群を起こしやすい
- ・変形性関節症を起こしやすい
- ・腎臓の機能に異常が出やすくなる
このような悪影響が現れやすくなるため、肥満体型を改善するに越したことはありません。
血糖値や脂質、尿酸値が高くなると様々な病気の原因になりますし、狭心症や心筋梗塞などの重篤な病気の原因にもなる以上、命の危険に繋がる恐れがあります。
肥満とメタボリックシンドロームとの関係は?
肥満とメタボリックシンドロームは、密接な関係があります。
メタボリックシンドロームは内臓脂肪が蓄積している状態かつ、高血圧や高血糖値、脂質代謝異常などが重なっている状態を指した病態です。
一般的な肥満であればメタボリックシンドロームと診断されることはありませんが、睡眠時無呼吸症候群を引き起こしている場合、メタボリックシンドロームを併発している可能性が高くなります。
睡眠時無呼吸症候群が重症になるほどメタボリックシンドロームの併発率も上がるため、寝ている間に呼吸が止まっているようであればメタボリックシンドロームを疑った方が良いでしょう。
逆にメタボリックシンドロームだと診断された場合も、睡眠時無呼吸症候群を疑った方が良いです。
肥満体型に起こりやすい軽度~重度のいびきの特徴
肥満体型に起こりやすいいびきは、軽度、中程度、重度で大きく違います。
基本的に仰向けで寝るといびきをかきやすくなったり、狭い気道を空気が通るようないびきが出たり、いびきが出たり入ったりするのを繰り返したりするのが特徴です。
軽度
肥満体型に起こりやすい軽度〜重度のいびきの特徴は、以下の通りです。
- ・BMIの値が25以上ある
- ・仰向けで寝ている時にいびきが出やすくなる
- ・いびきの音が大きい
- ・寝ている時に無呼吸になる
- ・鼻で呼吸しづらくなり、口呼吸になっている
- ・最近しっかり寝ているはずなのに疲れやすかったり、集中力がなかったりする
軽度の肥満体型でも以上のような状態になりやすいため、無呼吸を中心に注意するべきでしょう。
上気道が狭くなるといびきが出やすくなるだけでなく、呼吸が苦しくなりやすいので口呼吸の頻度が増えるのも特徴です。
中程度~重度
中程度~重度の肥満におけるいびきの特徴は以下の通りです。
- ・BMIの値が30以上
- ・寝ている間に呼吸が苦しくなる
- ・無呼吸の頻度が高くなる
- ・大きないびきの後に突然いびきが止まり、また大きないびきをかくのを繰り返す
- ・熟睡できない
- ・起きた時に頭痛に悩まされやすい
- ・日中に耐え難い眠気が襲ってくる
- ・夜間にトイレに行きやすい
特に危険なのは就寝中に息が苦しくなることと、無呼吸の頻度が高くなることでしょう。1時間の間に数十回ほど無呼吸を繰り返すようになるため、熟睡できないのはもちろん頭痛に悩まされやすく、日中に強烈な眠気が襲ってくるようになります。
睡眠時無呼吸症候群を放置していると命に関わる状態になりかねないので、無呼吸を繰り返しているようであればすぐに病院を受診しましょう。
肥満と睡眠時無呼吸症候群(SAS)との関係性
睡眠時無呼吸症候群(SAS)には様々な原因がありますが、その中でも最も多い原因として肥満が挙げられます。
睡眠時無呼吸症候群を持つ人の約70%が肥満であり、逆に肥満を持つ人の約40%が睡眠時無呼吸症候群に罹患すると言われているため、肥満と睡眠時無呼吸症候群には強い相関性があることが分かります。
国民の肥満の割合は約20-30%と言われており、もはや睡眠時無呼吸症候群は身近な病気なのです。
しかし、なぜ肥満によって睡眠時無呼吸症候群に罹患しやすくなるのかご存知ない方も少なくありません。
そこで、肥満で睡眠時無呼吸症候群になるメカニズムについて分かりやすくお伝えします。
睡眠時無呼吸症候群とは?
睡眠時無呼吸症候群とは、眠っている時に何度も無呼吸になる病気です。呼吸をしていないということは、新しい酸素を体内に取り込むことができなくなってしまいます。
睡眠時無呼吸症候群を放置していると命に関わる状態になりかねないので、すぐに病院を受診することが重要です。
肥満で睡眠時無呼吸症候群になるメカニズム
肥満で睡眠時無呼吸症候群になるメカニズムは、肥満によって首回りに脂肪がついてしまうため、空気の通り道である気道が狭くなってしまうことが原因です。
特に、睡眠中は舌の筋肉が弛緩することで徐々に舌根が落ちてしまい気道が狭くなり、空気が通りにくくなって呼吸が減る、もしくは一時的に止まりやすい状態になります。
そこに肥満が加わってしまうと気道がさらに狭くなってしまうので、睡眠時無呼吸症候群の併発に拍車をかけてしまうのです。
舌の落ち込みは「舌根沈下」と呼ばれる現象です。「舌根沈下」については以下の記事で解説していますので、ぜひチェックしてみてください。
また、肥満の場合は腹部の脂肪が多く、仰向けになると腹側から肺が圧迫されるため、呼吸の予備能力も低下してしまいます。
さらに、脂肪細胞から分泌されるレプチンには本来呼吸刺激作用がありますが、肥満の場合レプチンに対する感受性が低下してしまうので、呼吸刺激作用も低下してしまいます。
以上のような理由から、肥満の場合だと睡眠中に呼吸が止まりやすくなってしまい、睡眠時無呼吸症候群を発症してしまいます。
セルフチェック!どれくらいの肥満だと危険?
肥満度と睡眠時無呼吸症候群の発症頻度には正の相関関係にあるため、肥満であればあるほど発症リスクや重症度も増悪してしまいます。
肥満度は主にBMI(kg/㎡)で考えられ、BMIとは「体重(kg)を身長×身長(㎡)」で除した数値です。例えば体重60kg、身長160cmの方であればBMIは60÷1.6÷1.6=23.4になります。
BMI25以上を肥満1度、30以上を肥満2度、35以上を肥満3度、40以上を肥満4度と言い、日本人男性で約30%、女性で約20%が1度以上の肥満だと言われています。
過去の研究によれば、肥満2度の26%に中等症、60%に軽症の睡眠時無呼吸症が認められ、肥満4度では33%に中等症、98%に軽症の睡眠時無呼吸症が認められたそうです。
また別の研究では、体重が10kg増えるごとに睡眠時無呼吸症候群の発症リスクが2倍に、BMIが6増えるごとに4倍、腰回り、おしり周りの長さが15cm増えるごとに4倍増加すると報告されています。
つまり、肥満度が高ければ高いほど睡眠時無呼吸症候群の発症頻度や程度は悪化していくということになります。
BMIは誰でも簡単にチェックできるため、ぜひ計算してみてください。
もしBMIが25以上であれば、睡眠時無呼吸症候群のリスクに注意する必要があります。
睡眠時無呼吸症候群も防げるいびきの治療・改善方法
睡眠時無呼吸症候群を防ぐいびきの治療および改善方法は、以下の通りです。
体重を減らす
いびきの治療および改善方法として、まず行うべきは減量です。
過去の研究では体重が約15%減量すると気道が広がると報告されており、特に肥満度の高い方においては非常に有効な予防法となります。肥満を認める方であれば、10-15%程度を減量の目安にしましょう。
睡眠時無呼吸症候群は睡眠の質の低下を招くだけでなく、長期的には心臓や脳などの重篤な病気の原因になるため、早期から対策を打っておくことが大切です。
また、睡眠時無呼吸症候群で発症リスクが上昇する糖尿病や高血圧などの生活習慣病の予防にもなるため、予防は非常に有効な治療法です。
体重を減らすには、運動と食事を見直すことが重要です。
運動療法
運動療法には大きく分けて有酸素運動と無酸素運動の2つがあります。
有酸素運動とは、マラソンやランニング、水泳のように長時間、低負荷の運動を繰り返す運動のことです。
それに対し無酸素運動とは、ダンベルやマシンを使って短時間で筋肉に高負荷をかけるような運動のことです。
有酸素運動では脂肪細胞が燃焼されることで、無酸素運動では呼吸筋が鍛えられることで、どちらも睡眠時無呼吸症候群に効果を示すと言われています。
それぞれ単独でも効果を示すと言われていますが、どちらも行うことが最も推奨されています。
しかし、実際には運動だけで体重を減少させていくことは難しいため、運動療法と同時に食事療法によってカロリー制限を行うことが重要です。
食事療法
食事療法の基本は、脂肪の元となる糖質や脂質を最低限に抑えて、ビタミンやミネラルなどが豊富に含まれる高タンパクな食事を摂取することです。
つまり、豆腐な納豆などのタンパク質や、糖質の少ない緑黄色野菜、肉ではなく魚を中心とした食事が好ましいです。
しかしながら、運動療法を行いつつ食事療法を続けるのはそう簡単ではありません。ある程度の目標や目安を持ってダイエットに挑んだ方が効果的です。
痩せていてもいびきをかくことはある
いびきの治療および改善方法として減量とお伝えしましたが、いびきをかくのは肥満の方だけではありません。痩せていてもいびきをかくことはあります。
口蓋垂(こうがいすい)が大きい方や軟口蓋(なんこうがい)が狭い方は、喉の気道が狭く呼吸音が共鳴していびきをかきやすいです。また、アレルギー性鼻炎や花粉症などが原因で、鼻の息の通りが悪い方は、口呼吸になりいびきをかきやすい傾向にあります。
いびきの原因は人それぞれなので、適切な治療をするために、いびきの診療を行っているクリニックの受診が重要です。
いびきの治療に必要な料金が気になる方は、以下の記事を参考にしてください。
医師と相談して精神安定剤の服用をやめる
睡眠導入剤や抗不安薬などを初めとする精神安定剤は喉の筋肉を緩めてしまうため、気道をふさぎやすくなります。無呼吸の頻度が増えるだけでなく、脳の目覚めも悪化するでしょう。
とはいえ、いきなり服用をやめてしまうと身体に反動が起こる可能性があるので、医師と相談して服用を徐々に抑えられるようにするのがおすすめです。
マウスピースを装着する
肥満ではなく顎が小さかったり、舌が大きかったりすることで睡眠時無呼吸症候群を発症しているのであれば、マウスピースを装着して治療を行います。
マウスピースを装着することで下顎を前方へ移動させることでいびきを防ぐのが目的です。
CPAP療法
CPAP療法とは、寝ている最中に鼻に装着したマスクから適切な圧力をかけた空気を送り込み、気道を広げる方法です。
確実に気道が広げられるため、睡眠効果が高まる可能性が高いです。ただ、根本的な問題を解決する方法ではないので、治療中に食生活や生活習慣を見直すなど、様々な対策を行う必要性があります。
まとめ
肥満体型の場合、いびきをかいたり睡眠時無呼吸症候群に罹ったりするリスクが高くなります。様々な悪影響が考えられるので、「たかがいびきだ」と軽視せずに改善に取り組みましょう。
また、肥満体型の方は減量が効果的だとされていますが、いびきの原因は人それぞれです。適切な治療を受けたい、本格的に治したいと考えている方は、いびきの診療を行っているクリニックを受診しましょう。