【危険】高齢者のいびき
まずは、高齢者のいびきの特徴について解説していきます。
高齢者はいびきをかきやすい
そもそもいびきは、睡眠中にさまざまな原因によって気道が狭くなり、呼吸のたびに気道の粘膜が振動することで発生する異常音です。
本来、起きている間の気道は筋肉によって支えられているので、スムーズな呼吸が維持されています。ですが、寝ている間は筋肉が緩むため、舌が喉の奥に落ち込み気道を狭くします。これによって、空気が通るたびに周辺の粘膜を振るわせるので、大きな音が出るのです。
そして、高齢者は加齢によって、気道を広げる筋力の低下や、コラーゲン減少による気道の弾力性の低下、肺活量の減少などが起こるため、若い頃よりも気道が狭くなりやすくなり、よりいびきをかくようになります。
高齢者はいびきに気づきにくい
高齢者は、いびきをかいていることに気づきにくい傾向があります。眠りが浅く熟睡感がないことでいびきを自覚する方もいますが、そもそも年を重ねると眠りが浅くなってしまうからです。
高齢になると、なぜか早寝早起きになりますよね。これは、加齢とともに体内時計が変化することで、睡眠時間が前倒しになることが影響しています。
さらに、睡眠ホルモンと呼ばれるメラトニンの分泌量も減少するため、ノンレム睡眠(深い睡眠)よりもレム睡眠(浅い睡眠)の時間が長くなります。すると、尿意や小さな物音でも目を覚ましやすくなったり、夜中に何度も起きてしまったりします。
このような背景によって「眠りが浅い=年のせい」と見過ごされ、いびきに気づかないことが多いのです。
もしかすると脳卒中のサインかも?
ですが、どうしていびきをかくことがそれほど問題視されているのでしょうか?それは、高齢者におけるいびきは、脳卒中などの危険な疾患を知らせるサインの可能性があるからです。
脳卒中といびきの関係
「脳卒中」とは、血管の閉塞や破綻などによって脳の働きに異常が発生した状態の総称です。
代表的な疾患として、脳の動脈が詰まり、血流が途絶えてしまう「脳梗塞」や、脳の細い動脈が破裂して出血を起こす「脳出血」、脳動脈瘤の破裂によって脳にあるくも膜下腔に出血を起こす「くも膜下出血」などがあります。
ちなみに、卒中とは「突然(卒)、倒れる(中)」という意味で、突然倒れる脳の病気のことを表します。
そして、睡眠中に脳卒中を発症すると、脳の働きが低下して舌の根本である舌根(ぜっこん)が落ち込みます。すると、気道を塞いでしまうので、大きないびきをかくのです。
高齢者のいびきがすべて脳の異常によるものというわけではありませんが、普段はいびきをかかないのにある日突然大きないびきをかき始めた場合には、脳の働きの低下を疑う必要があるでしょう。
脳卒中を知らせる特徴的な呼吸パターン
中にはいびきではなく特殊な呼吸パターンが見られることで、脳卒中の発症を疑うケースがあります。
それは、中枢性睡眠時無呼吸症候群を発症したケースです。
中枢性睡眠時無呼吸症候群とは、脳の呼吸中枢に異常が起こり、呼吸が制御できなくなったことで発症する呼吸器疾患です。
慢性的な睡眠不足を引き起こす睡眠時無呼吸症候群には、気道が閉塞することで呼吸が妨げられる「閉塞性睡眠時無呼吸症候群」と、呼吸を制御する大元の脳の異常によって起こる「中枢性睡眠時無呼吸症候群」があります。
患者数が多いのは閉塞性睡眠時無呼吸症候群で、発症すると睡眠中はほぼ毎回大きないびきをかくので、同居する家族や周りの人が容易に気づくことができます。ですが、中枢性睡眠時無呼吸症候群はいびきをかかないことに加えて認知度も低いため、気づかれにくい傾向があります。
しかし、中枢性睡眠時無呼吸症候群では「チェーンストークス呼吸」という次のような特徴的な呼吸パターンが見られます。
- 1.無呼吸になる前に、呼吸音がだんだんと小さくなる
- 2.小さい呼吸がしばらく続いた後、徐々に大きくなる(このとき、胸やおなかが大きく動くのが確認できる)
- 3.その後、徐々に呼吸は弱まり、最終的には止まる
- 4.1〜3までの呼吸パターンをおよそ1分間から2分間程度継続する
このチェーンストークス呼吸は、中枢性睡眠時無呼吸症候群において非常に重要な鑑別ポイントです。
中枢性睡眠時無呼吸症候群で最も多い原因は心不全ですが、脳の働き自体が低下してしまう脳卒中も要因のひとつとなります。もし、家族やベッドパートナーがこのような呼吸をしていたら、速やかに医療機関を受診することが大切です。
放置するとどうなるの?
では万が一、脳卒中によるいびきを見逃し、放置してしまったらどうなるのでしょうか?
脳卒中はかつて死因第1位の疾患だった
脳卒中(統計上、脳血管障害に区分される)は、1950年代から1970年代まで日本の死因別死亡率で第1位でした。現在は、治療法の進歩や改善によって死亡率は低下し、令和2年の調査では悪性新生物(がん)、心疾患、老衰についで第4位になっています。しかし、未だに脳卒中で亡くなる人が多いのは確かです。
そして、厚生労働省の調査によると、脳卒中は要介護になる原因の第2位で、認知症の18.1%に次いで15.0%の割合を占めています。死亡率は低くなってはいるものの、治療が遅れると最悪寝たきりになり、生活の質を著しく低下させます。
脳卒中の後遺症
脳卒中は、どの血管が損傷したかによって現れる障害や後遺症が異なりますが、下記のような症状があります。
- ・片麻痺
- ・顔面麻痺
- ・痺れ、感覚障害
- ・視野障害(半盲)
- ・失語
- ・失認
- ・構音障害(言葉を理解しており、伝えたい言葉もはっきりしているのに、発音がうまくできない状態)
- ・頭痛
- ・意識障害
- ・悪心、嘔吐
脳卒中かもと思ったら
ここからは、もし自分や家族が脳卒中を発症したときにどうすれば良いか、脳卒中を見極めるサインや、対処法を紹介していきます。
FAST(ファスト)の確認を
脳卒中を鑑別する際によく用いられるのが、「FAST(ファスト)」の確認です。
FAST(ファスト)とは、脳卒中で見られる特徴的な初期症状の頭文字をとって作られた言葉で、当てはまる症状があれば脳卒中を起こしている可能性が高いことを示しています。
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F(Face):顔
→顔のゆがみを指し、顔の片側、特に口角が下がったり、左右で顔の動きに違いが見られたりする。「イー」と笑ってもらうと、左右非対称な動きをするのでわかりやすい。
A(Arm):腕
→腕の片麻痺を指す。両手を胸の高さまでまっすぐ挙げてそこで保持してもらうと、麻痺している腕が下に落ちてくる。両腕ではなく片側だけに麻痺が起こっているようであれば、脳卒中の可能性が高い。また、普段は持つことができていた箸や茶碗が持てなくなって気がつくこともある。
S(Speech):言葉や話し方
→言葉に障害があるかどうか確認する。主に2つの障害があり、1つ目が「ろれつが回らない」、2つ目が「言葉の名前などが出てこない」「思ったことと違った返答をする」など。
T(Time):時間
→2つの意味があり、1つ目は脳卒中の症状があれば「すぐに病院に行く」こと。 脳卒中は、治療の遅れが患者の生死や後遺症にかかわるため、少しでも異常を感じたらすぐに病院に行くことが大切。そして2つ目が、「何時に症状が出たかを記録しておく」こと。症状が出始めてからどれくらい経過しているかも、治療においては重要な判断基準になるため、いつ症状が出たか、いつまで元気だったかを忘れずメモをしておくと良い。
突然のいびきにも要注意
脳卒中は、突然のいびきにも十分注意する必要があります。
脳卒中に関連するいびきは、普段はいびきをかかないのに突然発症するという特徴があります。もし、起こしても反応がないときは、脳卒中やそれに関連した脳の異常が起きている可能性があるので、速やかに救急車を手配しましょう。
また、中枢性睡眠時無呼吸症候群によるチェーンストークス呼吸も、心不全など命にかかわる疾患の発症に起因するものかもしれません。こちらも見つけたら、なるべく早く医療機関を受診するようにしてください。
異変を感じたら速やかに救急車を
これが最も重要なことですが、何か異変を感じた場合はすぐに医療機関の受診をしましょう。
上記で紹介した「FAST」やチェーンストークス呼吸、そして突然のいびきに気づいたら、躊躇なく病院を受診してください。
特に、脳卒中はとにかく迅速な治療・処置が患者さんの命を守ることにつながります。
また、高齢者はいびきに気づきにくい上に、いびきが病気のサインになることを知らない人も多くいます。そのため、家族や周囲の人たちが声をかけ、受診を促すことも脳卒中を防ぐには大変重要です。
脳卒中を防ぐには?
最後に、日頃から気をつけたい脳卒中を防ぐ4か条を紹介していきますしょう。
栄養バランスの取れた食事
まずは食事です。食事は、炭水化物・糖質・脂質をバランス良く、毎日3食きちんと食べましょう。
最近は、食の欧米化に伴い、食事の内容が脂質多めや糖質過多になりがちです。昔ながらの和食や一汁三菜を基本に、どれかひとつの食材に偏りすぎないようにしましょう。
適度な運動
脳卒中の予防には、適度な運動が欠かせません。
特に高齢になると体を動かす機会が減り、運動不足に陥りやすくなります。運動と言っても、たくさん走ったり、筋トレをしたりする必要はありません。
おすすめは、会話を楽しめる程度の軽いウォーキングやジョギングなどの有酸素運動です。天気が良い日はできるだけ外に出て軽く近所を散歩するだけでも、気分転換にもなって一石二鳥です。
ただし、既往歴によっては運動を控えた方が良い場合があるので、かかりつけ医に相談してから行うようにしてください。
喫煙はNG
喫煙は、脳卒中の発症率を上げるNG習慣です。
タバコに含まれるニコチンには、血圧を上昇させたり、動脈硬化を進行させたりといった作用があります。これらの疾患は脳卒中を誘発するばかりか、他の生活習慣病の原因にもなるので、健康維持のためにも禁煙するようにしましょう。
定期的に脳ドックを受ける
脳卒中の予防において、定期的な脳ドックも大変効果的です。
脳ドックとは、頭部のMRI・MRA、ならびに頸部超音波検査などを用いて、脳に関する疾患の診断やリスクを早期発見する健康診断のひとつです。
脳卒中は、脳の血管が破れたり閉塞したりすることで発症しますが、脳の血管に負担がかかっていることには残念ながら気づけません。ですが、脳ドックを受けることで脳血管の健康状態を調べることができ、ときにはごく初期の脳卒中や自覚症状の出にくい脳血管障害を早期発見することにつながります。
対象は中高年以降で、特に高血圧や糖尿病、肥満気味の人は発症リスクが高いとされているため、定期的に検診を受けることをおすすめします。
まとめ
今回は、高齢者のいびきの危険性や適切な対処法について解説しました。
高齢者は若い人よりもいびきをかきやすい上に、なかなか自覚することが難しいため、治療が遅れがちになります。
しかし、ときにいびきは脳卒中などの脳の病気を知らせるサインの可能性があるので、放置は厳禁です。突然のいびきやチェーンストークス呼吸、そして脳卒中の初期症状であるFASTが確認できた場合は、躊躇せず医療機関を受診することが大切です。
そして、高齢者のいびきでは周囲が違和感に気づくことも重要です。いびきも脳卒中も、第三者に症状を指摘されて病院を受診するケースが非常に多いです。
もし、自分の家族や友人、同居人に症状が疑われる場合は、ぜひ受診を促してあげてください。
よくある質問
Q.高齢者にとってどうしていびきは危険なのですか?
A.すべてではありませんが、高齢者は脳卒中などの脳の異常によっていびきを発症することがあるためです。
Q.脳卒中を伴ういびきはどのように対処すれば良いですか?
A.脳卒中を起こしているか判断するときは、FASTを用いて初期症状の確認をすると良いでしょう。また、突然いびきをかき始めた場合も脳の働きが低下している可能性があるため、なるべく早く救急車の要請をしてください。
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