そもそも睡眠障害って何?
まずは、睡眠障害とはどのような病気なのか解説していきましょう。
睡眠障害とは
睡眠障害とは、睡眠に何らかの問題があり、生活に支障をきたしている状態の総称です。本来、睡眠には次のような働きがありますが、十分な睡眠がとれなくなると、日中の活動だけでなく心身の健康にも影響を及ぼします。
- 1.脳を休ませて体の疲労を回復する
- 2.自律神経やホルモンバランスを整える
- 3.記憶の整理と定着
- 4.免疫力の向上
- 5.脳の老廃物除去
睡眠障害にはさまざまな種類がある
そして、睡眠障害と一口にいっても、その種類や症状は多岐にわたります。
「睡眠障害国際分類第3版(ICSD-3)」によると、現在睡眠障害には次の6種類があり、それぞれに症状も違えば、原因、治療法も異なります。
- 1.不眠症
- 2.中枢性過眠症
- 3.睡眠関連呼吸障害
- 4.概日リズム睡眠・覚醒障害
- 5.睡眠時随伴症群
- 6.睡眠関連運動障害群
詳しくは次章から解説していきましょう。
【睡眠障害①】不眠症
不眠症は、日中の眠気や集中力の低下、慢性疲労などを起こす疾患です。日本における睡眠障害の中で一番罹患者が多く、現在は約5人に1人が不眠症で悩んでいるといわれています。
不眠症には主に4つのタイプがあります。
- 1.入眠困難:寝床に入ってから30分〜1時間以上眠れない
- 2.中途覚醒:いったん眠りについても、夜中に何度も目が覚める
- 3.早朝覚醒:起きたい時間よりも、2時間以上早く目が覚める
- 4.熟眠障害:睡眠時間は十分確保しているのに、眠りが浅く、熟睡した感じが得られない
これらの症状は、どれかひとつだけ発症する場合もありますが、複数の症状が同時に発生することもあります。また、年齢によっても発症パターンは異なり、入眠してから起床するまでの間、どこのタイミングで症状が現れるかは人によるところが大きいです。
また、不眠症の原因も下記のようにさまざまです。
原因 | 詳細 |
---|---|
心理的原因 | 何らかのストレスに関連して起こる睡眠障害 例)家族や親友の死、仕事のミスを引きずるなど |
身体的原因 | 痛みや痒みを伴う身体的疾患による睡眠障害 例)外傷、関節リウマチ、湿疹、蕁麻疹、喘息発作、頻尿、花粉症など |
精神的原因 | 精神的な疾患に伴って現れる睡眠障害 例)不安、うつ病、統合失調症など |
薬学的原因 | 服用している薬やカフェインなどが原因の睡眠障害<br例)抗がん剤、自律神経・中枢神経に働く薬、ステロイド、アルコール、カフェイン、ニコチンなど> |
生理学的原因 | 睡眠環境や生活習慣の乱れによる睡眠障害 例)受験勉強やシフト勤務による昼夜逆転など |
不眠症の一般的な治療法
不眠症の治療で最も多く用いられている方法が、睡眠薬による治療です。薬を服用することで、脳内の睡眠ホルモンの働きを促し、覚醒を抑えます。
ですが、不眠症治療のゴールは、薬に頼らずとも十分な睡眠をとれるようになることです。
そのため、まずは睡眠習慣の改善を行った上で、補助的な役割として薬物療法を行うのが望ましいとされています。治療の際は主治医の指示に従い、根気良く症状を改善していくことが大切です。
不眠症のさらに詳しい解説は、以下の記事に記載されています。
【睡眠障害②】中枢性過眠症
中枢性過眠症は、中枢神経系の異常によって、日中に激しい眠気が現れる睡眠障害です。
ナルコレプシー
ナルコレプシーは、食事中や歩行中など、通常は眠らない状況での突然の居眠りを特徴とする睡眠障害です。
居眠り自体は長くても30分以内と短く、居眠り後はすっきりとした感覚を得ることができます。しかし、状況や本人の意思に関係なく突然眠り込んでしまうため、日常生活に著しい影響が出ます。
また、ナルコレプシーは、情動脱力発作(カタプレキシー)と呼ばれる一時的な脱力を伴うことも特徴です。
大笑い、驚き、怒りなどの激しい感情をきっかけとして発生し、数秒から数分で自然に回復します。そのほか、入眠時幻覚や睡眠麻痺(金縛り)などの症状を伴うこともあります。
特発性過眠症
特発性過眠症は、ナルコレプシーと同様、日中の強い眠気と居眠りを主症状とする疾患です。
ナルコレプシーの居眠りは約30分と短時間だったのに対し、特発性過眠症の居眠りは1時間以上と長時間に及びます。
また、居眠り後も眠気はほぼ改善されず、脱力発作や入眠時幻覚、睡眠麻痺などの出現もあまり見られません。
特発性過眠症については、下記の記事でも解説しています。
クライネ-レビン症候群(反復性過眠症・周期性傾眠症)
クライネ-レビン症候群は、過剰な眠気と睡眠状態が繰り返し現れる疾患です。
だいたい3日〜5週間程度(平均で10日間)、強い眠気を感じる傾眠状態が続き、毎日16〜20時間ほど昼夜を問わず眠り続けます。このような状態を、過眠病相期と呼びます。
過眠病相期は通常1年に1回以上、およそ3ヶ月に1回のペースで出現し、このときは周囲が起こしてもなかなか目を覚さないことが多いです。
他にも、認知機能障害や食行動異常(無茶食いや食事を取らないなど)、脱抑制行動(子供じみた行動)が見られることもあります。
中枢性過眠症の一般的な治療法
中枢性過眠症の治療は、生活指導と薬物療法を組み合わせて行います。
患者の中には、「日中どうせ居眠りするから、夜いくら眠っても無駄」と考えて、十分な睡眠時間を確保しない人もいます。それでは、薬物療法をしても、効果が得られません。
そのため、普段の睡眠習慣が適切かどうか、チェックするところからはじめます。
また、昼寝の活用も行います。特にナルコレプシーの人は、短時間の昼寝が眠気の軽減に非常に有効です。そのため、昼休みなどを使って20分程度の計画的な睡眠がとれるよう工夫します。
しかし、クライネ-レビン症候群については原因がわかっていないため、明確な治療法が確立していません。
ですが、過眠病相期以外の時期は、傾眠状態は見られず通常通りの生活ができます。この時期に薬物療法と生活習慣の改善を行うことによって、過眠病相が生じないよう予防を行います。
【睡眠障害③】睡眠関連呼吸障害
睡眠関連呼吸障害は、睡眠中に何度も呼吸が妨げられることで、深刻な睡眠不足や健康被害をもたらす疾患です。
睡眠関連呼吸障害の代表的な疾患は次の通りです。
名称 | 症状 |
---|---|
閉塞性睡眠時無呼吸(OSA) | 舌や喉の筋肉が睡眠中に緩むことで、気道の閉塞もしくは狭窄を発生させる |
中枢性睡眠時無呼吸症候群(CSAS) | 何らかの原因で睡眠中に脳の呼吸調節システムにエラーが生じる |
いずれのタイプでも、体は酸素を補おうと中途覚醒を繰り返します。そのため、睡眠が障害されて慢性的な睡眠不足に陥り、日中の強い眠気や居眠りを生じさせます。
また、OSAでは呼吸のたびに狭くなった気道の粘膜がふるえるため、大きないびきをかくのも特徴です。
そして、睡眠時無呼吸を長く患うと、高血圧や糖尿病などの生活習慣病を併発し、脳卒中や心筋梗塞など死に直結する病気の発症率を高めます。
睡眠関連呼吸障害の一般的な治療法
無呼吸症状の治療には、CPAPが用いられます。
CPAPとは、鼻に装着したマスクから空気を送り込むことによって、舌や喉の筋肉の落ち込みを防ぎ、呼吸を助ける装置です。
症状が軽症の場合は、歯に装着して使用するマウスピースや、鼻腔内に挿入するナステントなどを使用することもあります。
【睡眠障害④】概日リズム睡眠・覚醒障害
私たちの体には、約24時間周期で生理機能や行動を調節する体内時計が備わっており、これを概日リズム(サーカディアンリズム)と呼びます。睡眠・覚醒のリズムを概日リズムに合わせることで、学校や仕事などの社会活動に無理なく参加することができています。
しかし、この概日リズムがさまざまな原因によって地球の明暗周期に合わなくなると、望ましいタイミングで寝起きすることができなくなり、日常生活に著しい悪影響が出ます。これが、概日リズム睡眠・覚醒障害です。
概日リズム睡眠・覚醒障害は、次のようなタイプに分けられます。
名称 | 症状 |
---|---|
睡眠・覚醒相後退障害 | 極端な遅寝遅起きが特徴。夜遅くまでの残業や勉強などが原因 |
睡眠・覚醒相前進障害 | 極端な早寝早起きが特徴。患者の多くは高齢者で、加齢に伴う体内時計の機能変化が原因と考えられている |
不規則睡眠・覚醒リズム障害 | 1日の中で、睡眠と覚醒が不規則に出現。一部の遺伝疾患に合併して発症するほか、発達障害を持つ子供によく見られる |
非24時間睡眠・覚醒リズム障害 | 入眠・起床時間が毎日1〜2時間ずつ後ろにずれ、1日24時間のリズムと合わなくなった状態。患者の多くは全盲者で太陽光の刺激を受けないため、体内時計がずれたままになることが原因 |
特に、近年は若い世代で睡眠・覚醒相後退障害を起こす人が増えています。その背景には、夜更かしや24時間営業のサービスの充実、残業、シフト勤務、夜遅くまでのスマホやゲームなどがあると考えられます。
こうした症状を起こさないためには、次のような対策を行い、予防することが大切です。
- ・夜間のブルーライトは最小限に
スマホなどのデジタルデバイスからは、覚醒を促すブルーライトが多く発せられており、これが概日リズムを狂わせるひとつの要因になっている。そのため、夜間のスマホは最小限にとどめ、使い過ぎないことが大切。 - ・朝起きたらカーテンを開ける
朝起きたらすぐにカーテンを開けて日光を浴びると、ずれた概日リズムが修正され、覚醒が促される。天気などにかかわらず、朝起きたらカーテンを開け、日光を数分間浴びると非常に効果的。 - ・日中もできるだけ日光を浴びる
日中にしっかりと太陽光を浴びることで、夜間に睡眠を促すメラトニンが分泌されやすくなり、夜に眠りやすくなる効果が期待できる。
概日リズム睡眠・覚醒障害の一般的な治療法
概日リズム睡眠障害の治療法としては、次の治療法があります。
名称 | 詳細 |
---|---|
薬物療法 | 睡眠時間が毎日同じになるように、メラトニン作動薬(ラメルテオン)やビタミンB12製剤(メコバラミン)を使用する。また、睡眠導入剤を用いて入眠時間を固定する治療も行う |
高照度光照射療法 | 毎朝一定の時間帯に、2500ルクス以上の光を2時間以上浴びることによって、体内時計をリセットする |
生活習慣の改善 | 睡眠時間や入眠時刻、起床時刻などを毎日記録する睡眠日誌をつける |
【睡眠障害⑤】睡眠時随伴症群
睡眠時随伴症群は、睡眠中に体が勝手に動いてしまうなどの症状を伴う睡眠障害です。
名称 | 詳細 |
---|---|
ノンレム睡眠から生じる睡眠時随伴症 | 睡眠中に突然叫び声を上げる夜驚症(やきょうしょう)や、寝床を出て歩き回る夢遊病などが見られる。本人には活動した自覚がなく、周囲が行動をやめようとしても難しいのが特徴 |
レム睡眠行動異常症 | 高齢者に多く、レム睡眠中に夢と連動した行動を取るのが特徴。睡眠中に突然大きな声を出したり、ときには隣で寝ている人を叩いたりするため、本人や周囲が怪我をする危険がある。しかし、声をかけると比較的簡単に覚醒し、夢の内容もしっかり覚えている場合が多い |
他には、夜尿や歯ぎしり、悪夢も睡眠時随伴症群に含まれます。これらの症状は子供によく見られ、成長に伴って自然と回復します。
睡眠時随伴症群の一般的な治療法
ノンレム睡眠から生じる睡眠時随伴症は、主に小児で発症し、成長と共に自然と改善していく場合がほとんどです。
しかし、中には成人期になっても症状が見られる場合もあるので、その際は薬物療法を行います。
また、レム睡眠行動障害はパーキンソン病やレビー小体型認知症、多系統萎縮症といった神経疾患の将来的な発症に関わっていると考えられているため、まずこれらの症状の有無をチェックします。
そして、レム睡眠中に筋緊張の低下を確認したら、寝室環境の安全を確保した上で、薬物による治療が検討されます。
【睡眠障害⑥】睡眠関連運動障害群
睡眠関連運動障害は、睡眠中や睡眠前後に出現する睡眠障害です。
名称 | 詳細 |
---|---|
むずむず脚症候群(レストレスレッグス症候群:RLS) | 就寝中に足がむずむずするなどの不快感を感じ、睡眠が妨げられる |
周期性四肢運動障害(PLMD) | 睡眠中に、四肢(主に下肢)の筋肉が勝手に収縮や弛緩を繰り返すことで、中途覚醒を起こす |
このほかにも、睡眠中のこむら返りや繰り返し生じる歯ぎしりも、睡眠関連運動障害群に含まれます。
睡眠関連運動障害群の一般的な治療法
いずれの疾患も、鉄不足によるドーパミン産生の阻害が原因だと考えられています。
ですので、鉄分不足を補うための鉄剤や、ドーパミンの分泌を促す薬剤を用いた治療が行われます。
睡眠障害かな?と思ったら
自分の睡眠に違和感を覚えた人は、以下の記事に記載されているセルフチェックをしてみましょう。
チェックの結果、数値が高い(不眠症の可能性が高い)と判定された場合は、速やかに医療機関を受診し、治療を受けるようにしてください。
睡眠障害の治療で大切なこと
最後に、睡眠障害の治療を受ける上で大切なことを2つお伝えします。
正しい睡眠習慣
睡眠障害にはさまざまな種類があり、発症の原因や治療法も異なります。しかし、どんな睡眠障害においても、正しい睡眠習慣を送ることができなければ、治療の効果を十分に発揮することはできません。
「最近寝ても疲れがとれない」、「熟睡した感じがない」など、不眠症状が現れたときは、自分の睡眠習慣が適切なものか、見直しを行いましょう。
医師の指導のもとで行う薬物療法
不眠の治療というと、無闇に睡眠薬を服用する人がいますが、睡眠薬は正しく使用しなければ本来持っている効果を発揮することができません。そして、闇雲な服用は逆に昼間の居眠りを発生させ、交通事故や労働災害の原因となる恐れがあり大変危険です。
ですので、睡眠薬は専門医を受診して適切なものを処方してもらってください。その際は、医師から指導された用法用量を必ず守り、自己判断で服用するのは絶対にやめましょう。
まとめ
今回は、睡眠障害の種類について徹底解説しました。
睡眠障害は、種類によって原因や治療法も違います。また、睡眠障害はただの疲労や寝不足と判断され、放置しているうちにどんどん慢性化していくパターンが多いです。
今回紹介した症状に心当たりのある人は、ぜひ一度お近くの睡眠外来を受診してみてください。
A.睡眠障害とは、睡眠に何らかの問題があり、生活に支障をきたしている状態の総称です。さまざまな種類があり、それぞれ原因や治療法も異なります。
A.睡眠障害は、放置するとどんどん悪化し、治療が難しくなることがあります。ですので、少しでも症状に心当たりがある場合は、速やかに睡眠外来などを受診することが大切です「【どうしたらいい?】睡眠障害の対策方法4選」
にて、医療機関の受診するときの目安を確認できるので、ぜひ参考にしてください。
よくある質問
Q.睡眠障害って何?
Q.睡眠障害になったらどうしたらいい?