そもそもどうして人は夢を見る?
そもそも、どうして人は睡眠中に夢を見るのでしょうか?まずは、夢のメカニズムから解説していきます。
夢のメカニズム
人が夢を見るメカニズムには、脳が情報を記憶するプロセスが大きく関係しています。
人間は、新しい情報を記憶する際に次のようなプロセスを踏んでいるのです。
- 1.脳に入った情報は、脳内の「海馬」にて一時保存される
- 2.必要と判断された記憶だけが、「海馬」から「大脳皮質」に送られる
- 3.「大脳皮質」に転送された記憶が、長期記憶として保存される
そして現在の研究で、夢は「海馬」から「大脳皮質」へ記憶が転送される際に脳内で映し出された断片的な映像ではないかと考えられています。
例えば、昔家族で行った旅行の夢を見たとしましょう。これは、自分が実際に旅行で見たり聞いたりしたことが記憶の整理の際にこぼれ落ち、断片的に現れて映像になったと考えられます。基本的に、自分が体験したことがストーリー化されて夢になるとされているため、このようになった可能性が高いです。
では、「空を飛ぶ」や「憧れの芸能人と会う」など、現実では起こり得ない夢の場合はどうでしょうか。この場合も、テレビや映画などの影響を受けて、想像したことが他のストーリーと組み合わさって夢になったと考えられます。
なぜ夢を見る必要があるの?
では、なぜ私たちは寝ている間にわざわざ夢を見る必要があるのでしょうか?
残念ながら、夢についてはまだ研究段階で、分かっていないことも多いのが現状です。ただ、現在有力な説として、覚醒直前のレム睡眠時に見る夢には、「起きる準備」という役割があるとされています。
人間の睡眠は、深い眠りのノンレム睡眠と浅い眠りのレム睡眠を交互に繰り返し、明け方近くになるとレム睡眠の出現時間が長くなるのです。このようなプロセスには、定期的にレム睡眠で脳を活性化させて交感神経を優位にすることで、「目覚め」とそれに伴う「覚醒」の準備を行っていると考えられています。
ですが、別の研究で夢はレム睡眠時に限らずノンレム睡眠時にも見ていることも判明しているため、「夢=覚醒の準備」という理論に疑問を呈する研究者もいるのが現状です。
今後、夢に関する更なる研究が進められることが期待されます。
どうして怖い夢を見てしまうのか
では、なぜ楽しい夢ばかりではなく怖い夢や恐怖を覚える夢を見てしまうのでしょうか?
【科学的】悪夢の原因
上記で説明した通り、夢は海馬から大脳皮質へ記憶が転送される際に脳内で映し出された断片的な映像で、過去に経験したことが夢の内容に影響を与えることが多いとされています。
そして、記憶にはポジティブなものもあれば、ネガティブなものもあります。
例えば、上司や学校の先生に怒られ、ひどくショックを受けたことがあるとしましょう。すると、その記憶が処理される際に「怒られる」という夢になって現れたり、「怖い」という感情と別の記憶が融合して悪夢になって現れたりするのです。
悪夢=悪ではない
私たちは悪夢を見ると、「縁起が悪い」や「何か良くないことが起こる」と考えて不安になってしまいます。ですが、悪夢にはネガティブな感情を適切に処理する役割があるため、悪夢は決して悪いものではありません。
しかも、「悪夢ばかり見てしまう」と自分で思っていても、実はそうではないケースも多いです。
突然ですが、ここで質問です。私たちは、寝ている間に何種類の夢を見ているでしょうか?
正解は7〜8種類で、レム睡眠とノンレム睡眠が入れ替わるごとに、夢の内容も切り替わっている可能性が高いと言われています。しかも、明け方近くになるとさらに細かくレム睡眠とノンレム睡眠が入れ替わっているため、実際はもっと多い可能性も示唆されています。
ゆえに、一晩中悪夢でうなされることはほぼ起こり得ないといえるでしょう。
さらに、悪夢のようなネガティブなことは人間の記憶に残りやすい性質があり、逆にポジティブな良い記憶は忘れやすい性質があります。
つまり、実際は良い夢をたくさん見ているにもかかわらず、私たちはその大半をすっかり忘れてしまっているのです。ゆえに、悪夢ばかりが記憶に残っていても問題ないといえます。
あまりにも悪夢が続くときは
上記のように、悪夢にはネガティブな記憶を適切に処理するという役割があり、なおかつ記憶に残りやすい性質があるため、悪夢ばかり覚えていても問題はありません。
ですが、それでも悪夢ばかりが連日のように現れるときは、悪夢障害に陥っている可能性があります。
悪夢障害とは
悪夢障害は睡眠障害のひとつで、「悪夢が怖くて眠れない」「悪夢のせいで憂うつな日が続く」「日中の行動が悪夢に影響され、おろそかになる」といったことが主な症状です。
特徴として、悪夢の内容をしっかりと思い出すことができ、寝ぼけなどの症状もなく頭もはっきりしていることが挙げられます。
悪夢障害の主な原因はストレスで、心理的に追い詰められるような強い不安感が夢となって現れるケースが多いです。また、トラウマになり得る強烈な出来事によって心的外傷後ストレス障害(PTSD)を発症していると、それが睡眠中に悪夢として出現する場合もあります。
あわせて、悪夢障害の裏には精神的な疾患(うつ病や不安障害、統合失調症など)が確認されるケースもあるので注意が必要です。
睡眠外来に相談を
このような悪夢障害に悩んでいる場合は、睡眠外来に相談するようにしましょう。
睡眠外来は、睡眠障害をはじめとした睡眠の問題に特化して治療を行う専門外来で、近年日本全国で開設が進んでいます。悪夢障害はもちろん、睡眠に関する些細な悩みにも対応してくれるため、安心して相談することができます。
近所に睡眠外来がない場合は、一般内科や脳神経内科、精神科、心療内科でも悪夢障害について相談することは可能です。
悪夢障害を伴う不眠は、夢と現実の区別がつかなくなったり、抑うつ状態に陥ったり、自殺の原因になったりする可能性もあるため放置は厳禁です。なるべく早く、専門の医療機関を受診して治療を受けるようにしましょう。
悪夢を減らす対処法
ここまでの内容を踏まえて、悪夢には大切な役割があることはおわかりいただけたと思います。
ですが、やはり悪夢を見ると目覚めも悪くなるため、できることなら悪夢は見たくないと思うでしょう。
ここからは、日常生活でできる悪夢を減らす対処法について解説していきます。
ストレスの原因を明らかにする
まずは、ストレスの原因を明らかにすることです。悪夢をはじめとしたネガティブな記憶は、人間の記憶に残りやすいうえに、ストレスなどで精神的に追い込まれている状況ではさらに深く記憶に刻み込まれる傾向にあります。
そのため、最近悪夢が続いていると感じたときは、ストレスの原因を明らかにすることが重要です。
質の良い眠りに導く快眠スイッチ
ストレスの原因を明らかにしたうえで、そのストレスをできる限り減らすことが悪夢を見ないようにする近道になります。
そこで役に立つのが、ストレスを遠ざけて質の良い眠りへ導く3つの快眠スイッチです。
副交感神経を活性化してリラックス
ストレスを遠ざけるためには、副交感神経を活性化させてリラックスすることが必要です。
過度なストレスに長期間さらされていると、私たちの体の中では交感神経が活発になり、不眠やイライラ、不安、集中力の低下、情緒不安定などの精神的な不調に見舞われます。
他にも、過剰な交感神経優位は内臓や血流にもダメージを与え、頭痛や動悸、めまい、肩こり、倦怠感などの身体的な不調も引き起こします。
こうした状況を解消するためには、副交感神経を優位にして体をリラックスモードにすることが大切です。
最も簡単な方法は、入浴です。一日の終わりにぬるめのお湯(40℃前後)に10〜15分ほど浸かることでリラックス効果を高めます。さらに、深部体温(脳や内臓など体の内側の温度)に働きかけて眠りやすくなる効果も期待できるのでオススメです。
他にも、ゆったりとした音楽を聴いたり、アロマを炊いて芳香浴をすることでもリラックスできます。
下記の記事でも紹介しているので、ぜひ参考にしてください。
体内時計のズレをリセット
質の良い睡眠をとるためには、正常な体内時計が欠かせません。
私たちが朝になると目が覚めて、夜になると眠くなるのは体内時計が正常に働いているからです。
しかし、この体内時計が正しいリズムで働かなくなると、夜になってもなかなか寝つけなかったり、朝になっても目覚めが悪かったりなど睡眠に影響を及ぼします。しかも、体内時計は日々少しずつずれる性質があるため、毎日そのズレを修正し、正常なリズムを刻むようにしなければいけません。
そこで必要になるのが、太陽の光です。太陽光に含まれるブルーライトには強い覚醒作用があり、体内時計のズレを修正して正常なリズムに整えてくれます。
朝起きたらまずカーテンを開けて、太陽の光を全身に浴びるようにしましょう。
その際の注意点は以下の通りです。
- ・朝起きたらカーテンを開け、太陽光を数分間浴びる
- ・曇りや雨で太陽が見えなくても、覚醒に必要な光は届いているので問題なし
- ・太陽の光を直接見るのは、目を痛める可能性があるのでNG
不安を招く情報をOFF
夜寝る前に不安を招く情報を見るのは、質の良い睡眠の妨げになるのでNGです。
特に、最近はスマホを開けばSNSやニュースサイトで世界各国のあらゆるニュースを読むことができます。
ですが、中には心に重く響くような痛ましい事件や事故の情報もあります。こうした情報を寝る前に見てしまうと、不安を招いて眠れなくなるばかりか、ネガティブな記憶として悪夢の原因にもなります。
そのため、寝る前はなるべく不安を招く情報をOFFにすることが大切です。その代わり、その日にあった楽しいことを思い出したりそれを日記に書いたりすると、心の整理にもなって気持ちよく眠りにつくことができるでしょう。
次の記事でも快眠を促す睡眠法を解説しています。
まとめ
今回は、人が悪夢を見てしまう原因と悪夢が続いたときの対処法について解説しました。
悪夢は、ネガティブな記憶の整理をしているときに脳内で再生される映像だという説が有力です。そのため、悪夢を見ること自体は正常な脳の働きによるものなので、心配する必要はありません。
ですが、連日悪夢を見続けて日常生活に影響が出ている際は注意が必要です。原因となるストレスを減らし、質の良い睡眠を取れるよう工夫しましょう。
症状がひどいときは、迷わず睡眠外来を受診してください。悪夢をはじめ、あらゆる睡眠の悩みに対応してくれます。
よくある質問
Q.どうして人は悪夢を見るのですか?
A.悪夢は、脳がネガティブな記憶の整理をしている際に脳内で再生されていると考えられています。記憶については、「【受験生必見】記憶の定着と睡眠の関係性について」でも解説しています。
Q.連日悪夢を見るときはどうすれば良いですか?
A.連日悪夢を見ることで日常生活に影響を及ぼしているときは、睡眠外来を受診して治療を受けることを推奨します。
参考文献