うつ病と不眠症の関係
うつ病と不眠症は、強い相関関係にあります。うつ病患者の多くに睡眠障害が発生し、睡眠障害の中でも、特に「眠れない」などの不眠症を抱える人が多いと言われています。
うつ病の人は不眠症になりやすい
うつ病と診断された方の多くに「眠れない」や「寝付きが悪い」などの睡眠障害が出ることがわかっており、うつ病患者の80%以上が不眠症に悩まされているとデータもあります。
うつ病患者が抱える睡眠障害には、なかなか眠れない「入眠困難」、睡眠の途中で何度も目を覚ます「中途覚醒」、眠りが浅い「熟睡障害」、もっと眠りたいのに朝早く目が覚めてしまう「早朝覚醒」など様々な症状があります。
うつ病の場合は、これらの睡眠障害のうちいずれかが現れるわけではなく、いくつも併発してしまう可能性があるのです。うつ病の人は、「眠りたいのになかなか眠れず、ようやく眠れたと思ったら何度も目を覚ましてしまう」というようなことが起こってしまいます。
このような状況に陥ってしまうと、本来は睡眠により身体の疲労を回復させなければならないのに、十分な睡眠をとることが出来ないため、疲労回復することが出来ずに、日中の疲労感や倦怠感などにつながってしまいます。
うつ病の人は寝付けず、朝早く目が覚める
うつ病の睡眠障害で特徴的な症状は、「なかなか寝付けないこと」と「もっと寝たいのに朝早く目が覚めてしまうこと」です。
なぜ、このようなことが起こるのでしょうか?その原因について説明します。
- 『うつ病患者の睡眠特徴』
- ・睡眠効率の低下
- ・徐波睡眠(ノンレム睡眠)の減少
- ・レム潜時(入眠後最初のレム睡眠までの時間)の減少
- ・レム活動の亢進
レム睡眠とは、脳が活発に働いていて、記憶の整理や定着が行われる睡眠のことです。レム睡眠中は、目がぴくぴく動いたりし、「夢を見ている睡眠」と言われています。もう一方で、脳が休息し、脳や身体の疲労回復のための深い睡眠はノンレム睡眠と呼ばれています。
眠りは、ノンレム睡眠が始まって一気に深い眠りに入り、その後、徐々に眠りが浅くなり、レム睡眠に移行。そして、またノンレム睡眠に戻ります。このように約90分後にレム睡眠に切り替わるという睡眠の周期を3~5回繰り返しながら眠っているのです。
うつ病になると、まず深い睡眠であるノンレム睡眠が減少します。そして浅い眠りであるレム睡眠増加します。そうなると必然的にレム睡眠が早い時間に出現し、浅い眠りの時間帯が増えるわけです。この結果、寝ている間に夢ばかり見るようになり、睡眠の途中で何度も起きてしまうことにつながります。
レム睡眠時は、悪夢をみやすいと言われています。うつ病患者が悪夢を見やすいというのは、レム睡眠の時間が増えることに起因している可能性があります。
ノンレム睡眠は、脳や身体を回復させるために必要です。しかし、うつ病によりノンレム睡眠が減少してしまうと、脳も体も休むことが出来ずに色々な不調につながる恐れがあるため注意が必要です。
不眠症はうつ病になりやすい
うつ病が不眠症を引き起こしやすいのと同時に、不眠症もうつ病を引き起こしやすいと言えます。
不眠症患者に最も高い頻度で認められる精神疾患はうつ病です。報告によると、アメリカの地域住民約8,000人の調査をしたところ、10%の人(約800人)が慢性的な不眠症を訴えていたということです。さらに、その800人の40%がなんらかの精神疾患を合併していたと報告されています。
また、PSG(睡眠時ポリソムノグラフィー)という睡眠時無呼吸症候群の検査で診断された不眠症患者を対象とした調査でも、35%がなんらかの精神疾患で、さらにそのうち50%が、うつ病を含む気分障害であったと報告されています。
以上のことからわかるように、不眠症はうつ病を引き起こす原因になると考えられ、不眠を訴える患者は、うつ病を合併している可能性を疑う必要があります。
慢性的に、寝付きが悪い、睡眠中に何度も目が覚める、朝早く目が覚めるなどの症状がある場合は、うつ病の可能性があるので一度医師に相談してみましょう。
不眠症はうつ病の再発リスクが高い
せっかく「うつ病」を克服しても、不眠症が継続していると、うつ病の再発リスクが高くなるので注意が必要です。
うつ病の治療は長期間にわたることが多くあります。うつ病は、主に抗うつ剤などの薬で治療します。しかし、うつ病の薬は、症状を抑えたりすることが出来るものの、完全に治療することは難しいのが現状です。そのため完治には至らずに、一部症状が残ってしまう可能性があります。
うつ病軽快後には、様々な症状が残る可能性がありますが、その中でも残る可能性が高いのが「不眠」です。
うつ病が軽快になったとしても、完治には至らず不眠などの症状が残ってしまった場合、うつ病が再発するリスクは3~6倍高くなると言われています。
うつ病の人が不眠症により受ける悪影響
うつ病の人は、不眠症による悪影響を受けやすいと言われています。不眠症が改善しないとうつ病を悪化させることにつながり、他の病気を合併する可能性が高くなるので注意が必要です。
うつ病の症状が悪化
睡眠障害により、睡眠の質が低下してしまうと、日中に眠気に襲われるなどして集中力が低下し、うつ病を悪化させる可能性があります。また、うつ病を発症していなかったとしても、睡眠障害がある人はうつ病の症状が起こりやすいそうです。
睡眠時間が不足し、睡眠の質が低下しているとうつ病を悪化させる可能性があるので、うつ病の症状、または睡眠障害の症状があったら専門医に相談した方が良いでしょう。
うつ病以外の不調が出る
睡眠時間が不足し、睡眠の質が低下するとうつ病以外の病気や身体の不調が出る可能性が高くなります。睡眠障害が引き起こしやすい病気や身体の不調には、次のような病気があります。
- 『睡眠不足が引き起こす病気』
- ・高血圧症
- ・心疾患
- ・糖尿病
- ・筋骨格系疾患
- ・胃潰瘍
- ・十二指腸潰瘍 など
また、睡眠障害による身体の不調としては次のようなことがあります。
- 『睡眠不足が引き起こす症状』
- ・腰痛
- ・認知機能低下
- ・体重減少
- ・肥満
- ・頭痛
- ・疲労
- ・心配
- ・いらいら
- ・興味の喪失 など
不眠障害や、身体に表れる不調を対処せずに放っておくと、重篤な病気につながる危険性があります。身体に不調を感じたら、決して放置せずに病院に行きましょう。
不眠症
うつ病は不眠症を引き起こし、不眠症はうつ病を悪化させるなど、うつ病と不眠症は関連性の高い病気です。
ここでは、不眠症についての説明をします。
不眠症のタイプ
うつ病患者の多くが睡眠障害を合併していますが、睡眠障害の中でも最も多いのが不眠症です。不眠症には、主に4つのタイプがあるので紹介します。
- ・寝付きが悪い「入眠障害」
- ・途中で目が覚めてしまう「中途覚醒」
- ・早く目が覚めてしまう「早朝覚醒」
- ・眠りが浅い「熟睡障害」
これら4つとも、うつ病患者に起こりやすい不眠症です。この中でも、うつ病を特徴づける
不眠症タイプは、「早朝覚醒」です。「早朝覚醒」で悩む人は、寝てから3時間くらいで目が覚めてしまいます。そのため十分な睡眠時間を確保することが出来ずに、疲労感の強いまま日中過ごすことになります。
不眠症の患者数
日本における不眠症の罹患率は6%~8%という報告がされています。
また、厚生労働省「令和3年健康実態調査結果の報告」によると、「夜間、睡眠途中に目が覚めて困った」という人の割合は44.6%、「睡眠全体の質に満足できなかった」という人の割合は34.7%、「寝付き(布団に入ってから眠るまでに要する時間)に、時間がかかった」という人の割合は28.9%と回答しています。
また睡眠時間については、3人に1人は6時間未満という結果が出ています。
日本人の多くが、満足な睡眠をとることが出来ず、日中に眠気やストレスを抱えながら生活している状態なのです。
不眠症の原因
不眠症といっても、色々な症状があるため、原因も症状によって変わってきます。
身体的な原因
- ・睡眠時無呼吸症候群
- ・高血圧症
- ・心臓病
- ・糖尿病
- ・レストレスレッグス症候群
- ・気管支喘息
- ・うつ病 など
これらが原因の場合は、睡眠薬では治らないため、専門的な治療が必要になります。それぞれの専門医に診てもらった方が良いでしょう。
環境的な原因
- ・時差
- ・寝具や枕が変わる
- ・寝室の温度や湿度
- ・騒音
- ・室外からの光や室内の光 など
環境的な要因は、工夫次第で解決出来ることがあります。睡眠を妨げる要因は排除するようにしましょう。
うつ病とは
うつ病は、気分障害という病気の一つです。気分障害とは、気分が変わることにより日常生活に支障をきたしてしまう病気の総称です。気分が落ち込み憂うつな気分が続くのが「うつ病」、興奮したり、怒りっぽくなったり活動的になる躁状態とうつ状態を繰り返すものを「双極性(そうきょくせい)障害」と言います。「うつ病」と「双極性障害」では治療方法が異なるため、区別して治療することが大切です。
うつ病の症状
うつ病の症状は、身体と心の両方に表れます。以下の項目を確認して、症状が続くようであれば、うつ病(気分障害)の疑いがあります。
- ・一日中気分が落ち込んでいる
- ・何をしても楽しめない
- ・物事に興味を持てなくなった
- ・集中力がなくなった
- ・自分に自信が持てない
- ・体がだるく疲れやすい
- ・食欲がない
- ・体重が減った
- ・性欲がない
- ・眠れない、朝いつもより早く目覚めてしまう
うつ病と診断された場合は、まず休養をとるようにしましょう。うつ病を改善するためには、まず心身の休養がとれるようなストレスの少ない環境を作ることが大切です。職場がストレスに感じるのであれば、距離をとることも必要です。どうしても仕事を休むことが出来ない場合は、会社と相談をして仕事量を減らしたり、業務内容を変更したりして可能な限り、ストレスがかからないような環境を整えるようにしましょう。
うつ病の人が眠れないと時の対策
うつ病と睡眠は、非常に深い関係性があります。しかし、うつ病を改善するために睡眠は必要なのは理解していて、早く寝ようと思っても、なかなか眠ることが出来ないこともあるでしょう。そうならないための対策について紹介します。
生活習慣の改善
うつ病や睡眠障害を自分で改善するために基本になるのは、生活習慣の改善、規則正しい生活を送ることです。生活のリズムが崩れると、心身の不調が起こりやすくなります。日ごろから以下のようなことを心がけて規則正しい生活を送るようにしましょう。
早寝早起き、出来るだけ毎日同じ時間に起きる
朝日を浴びて日照時間にあわせて行動することで、体内時計の調整がしやすくなります。もしも、翌日までに片づけなければいけない用事があるのなら、夜更かしをするのではなく、朝早く起きてする習慣をつけましょう。
運動をする
運動は、ストレスを和らげうつ病のリスクを減らすということが報告されています。またうつ病の治療にも効果を発揮することがわかってきました。仕事が忙しいとなかなか運動をする時間がとれないかもしれませんが、休日に1時間だけでも運動したり、普段の生活の中ではエスカレーターではなく、階段を上がったりして工夫することが大切です。
ただし、夜遅くに運動すると脳が興奮状態になり眠りにくくなることがあるため、運動は睡眠の4∼5時間前までにするようにしましょう。
栄養バランスの整った正しい食生活
食事は、健康的な生活を送るために欠かせないものです。朝昼晩の3食食べる、好き嫌いせずに栄養バランスの整った食事をとるなどの習慣を身につけましょう。
また、夜にコーヒーなどでカフェインをとると興奮状態になるため眠りを妨げる原因になります。その他には、アルコールにも注意が必要です。アルコールは酔いが回った時には眠くなるのですが、酔いがさめた段階では、かえって脳が活性してしまい睡眠の途中で目が覚めてしまいます。
うつ病や睡眠障害で悩む方がアルコールの摂取を言換えた方が良いでしょう。
意識を変える
無理に眠ろうと思うと、それが逆効果になりストレスになることがあります。睡眠がとりやすい環境を整えることは大切ですが、最初の内は、睡眠時間にこだわる必要はありません。眠くない時は、無理に寝ようとするのではなくリラックスすることを心がけましょう。
薬による治療
セルフケアをしても眠れない場合は、医師に相談しましょう。そうすると医師が症状に合わせた薬を処方してくれます。うつ病や不眠症の薬は、依存してしまうのではないかと抵抗感を持たれている方も多いと思いますが、そのまま病気を放置しておくと他の病気のリスクが高まります。最近は、副作用や依存度の低い薬も増えていますので、医師に相談することをおすすめします。
まとめ
この記事では、うつ病になると眠れなくなる理由について解説してきました。うつ病と睡眠障害は密接な関係にあります。うつ病は睡眠障害を引き起こし、睡眠障害はうつ病を悪化させる可能性があります。
うつ病と睡眠障害の悪循環は、他の病気につながる可能性があるので、早めに対策をすることが大切です。質の良い睡眠をとるためには、まずは正しい生活習慣を身につけるようにしましょう。それでも、改善しない場合には、医師の診察を受けましょう。
よくある質問
Q.うつ病患者の睡眠の特徴は?
A.睡眠障害には以下のようなものがあります。
・寝付きが悪い「入眠障害」
・途中で目が覚めてしまう「中途覚醒」
・早く目が覚めてしまう「早朝覚醒」
・眠りが浅い「熟睡障害」
うつ病患者の睡眠障害で特徴的なのは「早朝覚醒」です。寝ても3、4時間で起きてしまうなどの症状がある場合は注意が必要です。
Q.眠れないと時の対処方法は?
A.無理に眠ろうと意識せずリラックスすることを心がけましょう。また、就寝の3,4時間前までから興奮するようなことを避け、リラックスできる環境を作ることも大切です。寝る前にスマホやパソコンを見たり、過度な運動をしたり、カフェインをとったりすると、脳が興奮し眠りにくくなるので注意しましょう。