夜間頻尿って何?
はじめに、夜間頻尿の基本情報について解説していきます。
夜間頻尿とは
夜間頻尿とは、排尿のために1回以上夜間に起きる症状のことです。
夜間頻尿に悩む人を性別・年齢別に分けると次のようになります。
<夜間に2回以上の排尿をする人の年齢別頻度>
40〜49歳 | 50〜59歳 | 60〜69歳 | 70〜79歳 | 80歳以上 | |
---|---|---|---|---|---|
男性 | 10.3% | 20.6% | 39.7% | 62.0% | 83.9% |
女性 | 8.5% | 15.4% | 28.6% | 48.3% | 71.2% |
現在、夜間頻尿に悩む人は4500万人いると推定されており、加齢とともに増加する傾向にあります。
表を見ると男性の方が女性より頻度が高く、70歳以上になると半数以上、80歳以上ではほとんどの人が夜間に2回以上排尿のために起きていることがわかります。
夜間頻尿がもたらす健康リスク
上記のように、高齢になるほど夜間頻尿を起こす割合が増加しますが、それに伴い数々の健康被害をもたらします。
転倒・骨折のリスク
まずは、転倒・骨折のリスクについてです。寝起きの状態で夜間に高齢者が1人でトイレに行くと、わずかな段差でつまずいたり、階段を踏み外したりして転倒や骨折を起こす危険性があります。
とある調査では、70歳以上で夜間に2回以上尿意が原因で起きる人は、1回以下の人に比べて骨折を起こす割合が2倍、死亡率が1.6倍になるというショッキングな結果が報告されています。
不眠症・うつ病のリスク
夜間頻尿は不眠症やそれに伴ううつ病につながるリスクがあります。
夜間頻尿を発症している人は、就寝後に何度も尿意で目を覚ましトイレに行かなければいけません。そのため、ぐっすり眠ることができず不眠症に陥ります。
加えて、熟睡できないストレスによってうつ病を発症したり認知症発症にも影響を及ぼしたりなど、夜間頻尿は生活の質を著しく低下させます。
夜に何度も尿意で目を覚ますことで、これだけの悪影響を及ぼす夜間頻尿は、早急な解説が求められる症状です。今後の人生を健康に過ごす上で、夜間頻尿の改善は不可欠といえるでしょう。
【夜間頻尿】基本の3タイプ
夜間頻尿は、排尿の回数が増える原因によって次の3タイプに分けられます。
- ・多尿タイプ
- ・夜間多尿タイプ
- ・膀胱蓄尿障害タイプ
多尿タイプ
まずは、「多尿タイプ」についてです。多尿タイプは、1日の排尿量そのものが多くなったパターンで、1日の尿量が体重×40mL(例:60kgの場合だと、60×40=2400mL)以上のことを指します。
多尿タイプを引き起こす原因は次の通りです。
水分の摂りすぎ
-
- :1日に飲み物だけで1.5リットル以上。
糖尿病
-
- :尿中に漏れ出た糖分を薄めようとたくさん尿が作られるため口が渇き、水分をたくさん摂ってしまう。
尿崩症(にょうほうしょう)
-
- :尿が雪崩のようにたくさん出過ぎてしまう疾患。水分が大量に体外へ出てしまうため非常に喉が渇き、尿量に見合う水分を摂取しないと脱水状態を引き起こす。
-
- 特徴的な症状として「口渇・多飲・多尿」があげられ、腎性と中枢性の尿崩症がある。いずれも難病に指定されているため、非常にまれである。
心因性多飲症
- :ストレスや不安など心理的な問題があるときに、多量の水を飲むことで解消しようとする疾患。とにかく喉が渇くため、それを補おうと水を大量に飲む。ゆえに、渇く・飲むを繰り返してしまう悪循環が起こり、尿量が増える。
こんな人は多尿タイプ
多尿タイプの夜間頻尿では、次のような特徴があります。
- ・飲み物だけで1日に1.5リットル以上の水分を摂っている
- ・朝起きて寝るまでに8回以上トイレに行く
上記に当てはまる人は、多尿タイプの可能性が高いです。
夜間多尿タイプ
夜間多尿タイプは、夜間に出る尿の量が多い状態、つまり1日の総尿量の1/3以上が夜間の就寝中に偏っている状態です。
夜間多尿タイプにもさまざまな原因があります。
水分の摂りすぎ
-
- :多尿タイプと同じように、水分を摂りすぎていることがあげられる。
血液の循環が悪い
-
- :体内の水分量を一定に保つため余分な水分は尿として排出されるが、血液循環が悪くなると血液が下半身にたまりむくみを引き起こす。この状態で就寝時に横になると水分が血管内に戻り、夜間に尿となって膀胱に蓄えられるため尿量が多くなる。
加齢
-
- :加齢に伴って抗利尿ホルモン(尿の排出を抑制するホルモン)の分泌量が減少すると、寝ている間も尿が多く作られて起きる回数が増える。
糖尿病
-
- :多尿タイプと同様に、糖尿病の症状によって口が渇き尿量の増加につながる。
高血圧
- :血液中の塩分濃度が上昇するため、それを薄めようとたくさん水を飲むことで尿量が増える。
こんな人は夜間多尿タイプ
夜間多尿タイプの特徴的な症状は次の通りです。
- ・夜に3回以上トイレに起き、昼間と同じくらいの尿が出る
- ・夕方ふくらはぎにむくみを感じるが、朝にはむくみが改善もしくは解消している
膀胱蓄尿障害タイプ
膀胱蓄尿障害タイプは膀胱に尿をうまくためられないタイプで、いくつかの疾患によって引き起こされます。代表的なものは前立腺肥大症と過活動膀胱で、それぞれの病気に対する治療をすることで夜間頻尿の改善が見込めます。
こんな人は膀胱蓄尿障害タイプ
下記のような症状が見られる人は膀胱蓄尿障害タイプの可能性が高いです。
- ・朝起きてから寝るまでに8回以上トイレに行く
- ・我慢できないほどの強い尿意を感じることがある
夜間頻尿と睡眠障害の密接な関係性
上記のように、夜間頻尿にはさまざまな原因やタイプがあり、それによって発症のメカニズムも異なります。
そしてこれらの基本の3タイプに加えて、夜間頻尿は睡眠障害との関係も非常に密接です。
睡眠障害が先か、夜間頻尿が先か
夜間頻尿と睡眠障害の関係をひとことで表すと、ズバリ「睡眠障害が先か、夜間頻尿が先か」です。
例えば、睡眠障害を発症している患者がいるとしましょう。この患者は眠りが浅いため、ちょっとした物音などですぐに目が覚めてしまいます。すると、患者は目を覚ますたびに尿意が気になり、トイレに行って排尿をするようになります。この状態が睡眠障害により夜間頻尿を引き起こしている、いわば「睡眠障害が先」のパターンです。
また反対のケースでは、夜間頻尿によって何度も睡眠が阻害されると慢性的な睡眠不足に陥り、睡眠障害にまで発展します。こちらはいわゆる「夜間頻尿が先」のパターンです。
このように、睡眠障害と夜間頻尿の関係は表裏一体で、一方をきっかけにもう一方を発症するケースがよく見られます。
夜間頻尿と特に深い関係にある睡眠障害は、次の通りです。
睡眠時無呼吸症候群
睡眠時無呼吸症候群は、睡眠中にしばしば無呼吸状態(呼吸が止まった状態)になってしまう病気で、睡眠関連呼吸障害群に分類されます。特徴としては、睡眠時はほぼ毎回大きないびきをかくことなどが該当します。
本疾患は、無呼吸が起こるたびに睡眠が分断されるため、夜間に何度も目を覚まします。これにより患者は尿意を催したと感じ、夜間の排尿回数が増えてしまうのです。
また、この疾患は糖尿病や肥満、高血圧などの生活習慣病とも関係が深いのが特徴です。夜間頻尿を繰り返すことで無呼吸が悪化し、これらの病状をさらに進ませることもあります。
むずむず脚症候群
むずむず脚症候群(レストレスレッグス症候群)は睡眠関連運動障害群に分類される睡眠障害で、じっと座ったり横になったりすると主に脚を中心にむずむずする、ぴりぴりする、かゆみ、痛みなどの強い不快感が現れます。
特に夕方から夜間にかけて症状が現れるケースが多いため、なかなか寝つけなかったり一旦眠っても脚の不快感で目が覚めたりすることが多くなります。起きるたびにトイレに行くため、夜間頻尿につながってしまうのです。
むずむず脚症候群の原因はまだ明らかになっていませんが、有力な説として脳内の神経伝達物質のひとつであるドーパミンの機能障害や鉄不足が関与していると言われています。
不眠症
不眠症も夜間頻尿に発展しやすい睡眠障害のひとつです。よく「お年寄りは朝が早い」と言われますよね。人間は年齢を重ねると下記のように睡眠が変化します。
<高齢者に現れる睡眠パターンの変化>
睡眠を司る生体機能のリズムが早い方にずれる
-
- →早寝早起きになりがち
睡眠をコントロールするメラトニンの分泌量が低下
-
- →就寝してもすぐに目が覚めてしまう
ノンレム睡眠が短く、レム睡眠が長くなる
- →眠りが浅くなり、ちょっとしたことで目が覚めて熟睡できない
このように、高齢者は睡眠そのものが取りづらくなっているため、目を覚ますたびにトイレに行きたいような気がして夜間頻尿になってしまうのです。夜間頻尿による睡眠不足が不眠症に拍車をかけるケースもあります。
睡眠障害による夜間頻尿に気づいたら
前章の通り、睡眠障害と夜間頻尿は非常に密接な関係にあり、その関係は片方を発症したらもう片方も発症するというネガティブな関係です。
迷わず医療機関へ相談を
睡眠障害による夜間頻尿に気づいたら、迷わず医療機関へ相談しましょう。
夜間頻尿は主に泌尿器科で、睡眠外来は一般内科をはじめ脳神経内科、呼吸器科、耳鼻咽喉科、精神科(心療内科)で診察することができます。また、最近は睡眠の問題に特化して診療を行う睡眠外来も全国的に増えてきています。
もし上記の診療科が近くになければかかりつけ医に相談し、紹介状を書いてもらうなどの対応をしてもらうと良いでしょう。
まとめ
今回は、夜間頻尿と睡眠障害の関係性について深掘りしました。
高齢者に多い夜間頻尿は、転倒や骨折、不眠症、うつ病を引き起こす非常に危険な病気です。その上睡眠障害と夜間頻尿は互いに影響し合い、どちらかを発症すると一方も発症するという負の関係です。治療が遅れると、その後の日常生活に大きな影響を与えることは間違いないといえるでしょう。
したがって「もう年だから…」と治療を後回しにするのは良くありません。夜間頻尿に気づいたらなるべく早く医療機関を受診し、夜間の排尿回数をできる限り少なくするよう治療することが必要です。
よくある質問
Q.夜間頻尿と睡眠障害にはどのような関係がありますか?
A.睡眠障害を発症すると夜間に何度も目が覚めてしまうため、そのたびに尿意を感じて排尿の回数が増えてしまいます。夜間頻尿については、「【夜間頻尿とは?】夜に目が覚めてしまう方の原因をご紹介」でも解説しています。
Q.夜間頻尿に発展する可能性がある睡眠障害にはどんなものがありますか?
A.無呼吸によって睡眠が分断される睡眠時無呼吸症候群や、脚の不快感で目が覚めてしまうむずむず脚症候群、そして加齢に伴う不眠症があげられます。