ただの寝不足じゃない!本当は怖い睡眠負債
「最近寝不足なんだよね…」、「昨日徹夜しちゃったよ」と、誰しもこのような会話を家族や友人としたことがあるでしょう。ですが、睡眠が足りていないことを「たかが寝不足」と甘く考えるのは大変危険です。
このような睡眠が極端に少ない状態を、睡眠を研究する専門家の間では「睡眠不足」ではなく、「睡眠負債」と呼びます。まずは、どうして睡眠不足が危険といわれているのか、ご説明しましょう。
睡眠負債とは
睡眠負債とは、睡眠不足が積み重なって慢性化している状態を指します。専門家の間では、睡眠が足りないことを「眠りの借金」と捉え、睡眠不足を繰り返すことを借金の返済が滞る「負債」と表現します。
つまり睡眠負債は、眠りの借金が気づかぬうちにどんどんと膨れ上がり、首が回らなくなっている状態を表しています。
そして、睡眠負債がもたらす影響は深刻で、ときには命を脅かしかねない危険をもたらします。
- ・居眠りによる交通事故や労働災害
- ・生活習慣病やガン、認知症の発症リスクが高まる
- ・免疫力が低下し、感染症に罹りやすくなる
睡眠負債がもたらすメンタルへの影響
上記のように、睡眠負債は体に不調をもたらすだけでなく、ときには命を落とすことにつながります。そして、睡眠負債がメンタルや心の健康に与える影響も非常に甚大です。睡眠負債がもたらすメンタルへの影響例を、いくつか紹介します。
いやな記憶を忘れられなくなる
睡眠の役割のひとつに、記憶の「整理」と「定着」があります。
脳には日々膨大な量の情報が入ってきますが、すべてを記憶することはできません。そのため、覚えておくことと忘れることを「整理」して、必要と判断したものを記憶として脳に「定着」させます。
この、「整理」と「定着」、そして不要な記憶の「消去」が主に行われるのが睡眠です。そして、記憶の中には辛い経験や悲しい出来事など、ネガティブなものも含まれます。しかし、睡眠が十分に取れないと記憶の消去が正しく行われず、いやな記憶をいつまで経っても忘れることができなくなるのです。
ネガティブな感情に過剰反応する
睡眠不足が積み重なると、ネガティブな感情に反応しやすくなります。
とある実験で、健康な20代の男性14人に、「8時間睡眠を5日間続けたあと」と、「4時間睡眠を5日間続けたあと」で、さまざまな表情をしている人の画像を見せ、脳の活動がどのように変化するのか調査が行われました。
その結果、睡眠時間が短い(1日4時間睡眠を5日間続けた場合)と、恐怖や怒り、不快な表情を見たときに気分を悪くしたり、不安になったりしやすくなることがわかりました。そしてこの実験により、本来脳には感情が暴走しないようにブレーキをかける機能が備わっていますが、睡眠不足の状態ではブレーキが働きにくくなることも明らかになりました。
つまり、睡眠不足だとネガティブな感情に敏感になり、かつ感情を抑えることができないため、些細なことでイライラしたり、周りに怒りをぶつけやすくなったりするのです。
自律神経を乱す
睡眠不足は、自律神経にも影響を及ぼします。
自律神経には、体内の活動を活発にさせる「交感神経」と、落ち着かせてリラックスさせる「副交感神経」があります。健康な状態であれば、体を休ませる睡眠時は、副交感神経優位に自然と切り替わりますが、現代人は常に過度の緊張状態にあるため、交感神経優位の状態が続きがちになって、満足な睡眠が取れなくなります。
すると、1日を通してずっと交感神経が優位になるため、不安を感じたり、イライラしたりすることが多くなってしまうのです。そして、これらの自律神経の乱れや上記のメンタル不調は、うつ病などの精神疾患の原因となることがあります。
このように、慢性的な寝不足は自覚しないままに心と体を蝕んでいくため、決して安易に捉えてはいけないのです。
日本人は眠らなすぎ?
しかし、これほど睡眠不足がもたらす心身への影響が明らかになっているにもかかわらず、私たち日本人の睡眠時間は減少の一途を辿っています。
2020年に行われたNHKの調査によると、日本人の平均睡眠時間は7時間12分で、男性は7時間20分、女性は7時間6分という結果でした。「意外としっかり寝ているじゃないか」と思われた方もいるでしょう。しかし、この結果は、平日と休日の区別をしない睡眠時間の平均です。つまり、仕事をしている平日の睡眠時間はもっと短く、週末に寝だめをすることで何とか帳尻を合わせているというのが実態です。
日本人の睡眠時間減少の背景には、以下の要因があげられます。
- ・働く時間が長すぎる(残業が多い)
- ・24時間営業をする店舗の増加
- ・サービス提供のためのシフト勤務や交代勤務
- ・インターネットの普及による生活の夜型化
眠らないことによる弊害は、さまざまな観点から指摘されていることです。ですが、多くの人は睡眠を「単なる休息」と捉えているため、その大切さが見逃されがちになっています。今一度、睡眠の役割や寝不足の深刻さに目を向け、自分の睡眠習慣を見直すことが重要です。
心と体を整える寝不足解消法
ここからは、寝不足を解消し、メンタルを整える方法について解説します。
質の良い睡眠のカギは「ルーティン」と「モノトナス」
睡眠前に余計な作業や考え事で頭を使ってしまうと、脳の興奮状態が続いてしまい、いつまでも眠気が訪れません。そのため、寝る前はできるだけ何も考えず、ただ寝ることだけに頭を使うことが、質の高い睡眠への近道となります。
その上で重要なのが、「ルーティン」と「モノトナス」です。
睡眠のルーティン化が寝不足解消の第一歩
質の良い睡眠には「睡眠前はなるべく頭を使わない」ことが鍵となります。
しかし、「何も考えるな」といわれればいわれるほど、あれこれ考えてしまうものです。そこで、余計なことには極力頭を使わず、寝ることだけに集中する良い方法があります。それが、睡眠のルーティン化です。
睡眠において「いつものパターン」や「マイルール」を設定することで、無駄なことを考えてしまう前に脳が睡眠モードに切り替わり、スムーズに入眠する効果が期待できます。
日常のモノトナスを有効活用
そして、ルーティンを設定する上で意識してほしいのが、「モノトナス」すなわち「退屈」です。
電車に乗っているときや、難しい本を読んでいるとき、静かな映画を見ているときなどは、なぜか眠たくなりますよね。これは、モノトナス(単調な状態)になることで脳が考えることをやめ、退屈して眠くなることが原因といわれています。つまり、脳にとって退屈は睡眠のスイッチになり得るのです。
そのため、睡眠ルーティンではできる限りのモノトナスを意識しましょう。特別なことはせず、なるべく「いつも通り」にすることで、脳に退屈をもたらし、スムーズな眠りに近づくことができます。
心と体を整えるおすすめの睡眠ルーティン5選
上記を踏まえて、心と体を整えるおすすめの睡眠ルーティン5選を下記にまとめました。どれを心地よいと感じるかは人それぞれですので、自分が実行しやすいと思ったものを取り入れてみてください。
・眠りの定時を設定する
-
- いつも決まった時間に寝ることで、定時になれば自然と眠気がやってきて眠りにつく効果が期待できます。
・1/fゆらぎを取り入れる
寝る前に音楽を聴く人には、脳をリラックスさせる効果のある1/fゆらぎを持つものがおすすめです。
例)クラシック音楽、虫の声、鳥のさえずり、波の音、小川のせせらぎなど
・アロマの香りでリラックス
古くから、アロマは副交感神経を刺激し、リラックスさせる効果があるといわれています。不安で眠れないときなどに使うと、気持ちが穏やかになり効果的です。
例)ラベンダー(高いリラックス効果)、柑橘系(鎮静効果)など
・暖色系の照明で眠りやすさアップ
暖色系の明かりは、LEDなどの白色光よりも睡眠への影響が少ないといわれています。間接照明やキャンドルの明かりで優しく照らすことで、さらに睡眠モードに切り替わりやすくなります。
・寝具は通気性の良いものを
寝具やパジャマなど、肌に触れるものはできるだけ通気性の良いものを選びましょう。通気性が良いと入眠直後から効果的に体温が低下するため、熟睡につながりやすくなります。
どうしても眠れないときは
ですが、さまざまなストレスに晒されている現代社会において、不安や悩みに振り回されず満足に睡眠をとることは、非常に難しくなっています。その中で、どうしても眠れない場面も多々あるでしょう。そんなときは、思い切って寝床から離れることをおすすめします。
思い切って寝床から離れる
睡眠は、メンタルの影響を非常に受けやすく、ほんの些細なきっかけから不眠に陥ってしまうことがよくあります。実際、不眠症状の裏には、何かしらの心理的な不調和が隠れていることは少なくありません。
そのような状態で、「眠らなきゃ…眠らなきゃ…」と無理に眠ろうとすると、不安ばかりが募り、ますます眠れなくなってしまいます。そんなときは、一旦ベッドや布団から離れてみてください。これは、誤った思考のクセ(認知)を修正したり、悪い習慣(行動)を改善したりすることで、不安な気持ちやネガティブな感情が膨らまないようにする「認知行動療法」に基づいた方法です。
今回の場合だと、「眠れないのに寝床に入る」という誤った行動を改善し、無意識のうちに「寝床は眠れなくて苦しいところ」と思い込んでいる思考のクセを修正します。この「認知行動療法」は、睡眠薬のような即効性はありません。ですが、副作用や依存性がないため、安心して行うことができます。
下記に、眠れないときに試してほしい行動と、スムーズに眠るための習慣づけをまとめました。「寝つきが悪くて寝るのが辛い…」と感じている人は、ぜひ試してみてください。
- ・眠くないのに寝床に入るのをやめる
- ・10分ほどしても眠くならないときは、一旦寝床・寝室から離れる
- ・夜中に目が覚めてなかなか寝つけないときも、一度寝床・寝室から離れる
- ・寝床で食事や読書、スマホ、ゲームなどはせず、「ここは寝るための場所だ」と体に覚えさせる
- ・日中の昼寝はなるべくせず、夜の決まった時間にのみ寝ると習慣づける
1人で悩まず医師に相談
もし、長期間不眠症状やメンタルの不調に悩まされているなら、医師に相談することも検討しましょう。
先ほども触れたように、睡眠とメンタルは非常に関係が深いため、治療は慎重に行っていかなければいけません。そのため、一般の人が自己流であれこれ行うと、効果を感じないばかりか、症状を悪化させることになりかねません。
ぜひ一度、内科や精神科、心療内科などを受診し、自分の症状について相談してみてください。
まとめ
今回は、寝不足とメンタルの関係性について解説しました。
慢性的な睡眠不足は、心の健康に与える影響も深刻で、放っておくとうつ病などの精神疾患を発症する可能性があります。
そのため、メンタルヘルスを良好に保つには、質の良い睡眠をとることが欠かせません。睡眠前の行動をルーティン化していつも通りを心がけ、モノトナス(単調な状態)にすることで、睡眠の質改善に効果を発揮します。
そして、症状が長期間続いている場合は、躊躇せず、専門医に相談することも大切です。お近くの内科や精神科、心療内科などを受診するようにしましょう。この記事が、睡眠不足や心の不調に悩む人が症状を改善するきっかけになれば幸いです。
よくある質問
Q..寝不足になると、メンタルにも影響があるのはなぜですか?
A.寝不足になると、いやな記憶を忘れにくくなったり、ネガティブな感情に敏感になったりするため、不安になりやすくなります。また、自律神経にも影響を及ぼすため、イライラしやすくなることも要因のひとつです。
Q.質の良い睡眠をとるにはどうしたら良いですか?
A.睡眠前の行動をルーティン化すると効果的です。毎日同じことを繰り返すことでモノトナス(単調な状態)に近づき、脳が退屈して眠りやすくなります。