金縛りとは
金縛りとは、入眠時もしくは睡眠からの覚醒時に、数秒から数分間、体幹と手足を自由に動かすことができなくなる現象です。
具体的な症状には、次のようなものがあります。
- ・意識があるのに体が動かない
- ・息苦しく感じる
- ・耳鳴りがする
- ・幻覚や幻聴がある
- ・悪夢を見る
突如として自分の体が思い通りに動かせなくなることから、強い恐怖や不安を感じる人が多く存在します。ホラー映画などでも主人公が突然金縛りにあい、目の前にお化けや幽霊が現れるといったシーンがよく描かれています。
実際、医学がまだ発達していなかった時代では、超常現象に近いものと捉えられ、カナダのニューファウンドランド島では「Old hag(邪悪な老婆)」、カリブ海沿岸では、「Se me subio el muerto(わたしの上にのしかかる死体) 」、中国では「鬼圧身」あるいは「鬼圧床」などと言い表されていました。
こうした歴史を見ると金縛りは古くから現れる現象であり、かつ各土地や文化、民族的な背景とも結びつきが強かったことがうかがえますね。
【科学的解説】金縛りの原因
長年「金縛り=心霊現象」と信じられていましたが、最近の睡眠医学の進歩によってその正体が明らかになってきました。
金縛り=睡眠麻痺
金縛りの正体は、規則正しく出現するはずのレム睡眠が不規則に出現してしまうことによって起こる症状で、睡眠医学では「睡眠麻痺」や「乖離したレム睡眠」と呼ばれます。
本来、人間は入眠すると一番深いノンレム睡眠になり、徐々に眠りが浅くなってレム睡眠になります。その後は、ノンレム睡眠とレム睡眠が交互に現れ、最終的にレム睡眠の出現が増えて自然と目を覚ますというのが、通常の睡眠サイクルです。
ですが、この睡眠のサイクルが何らかの要因で乱れ、眠ってすぐにレム睡眠になってしまい金縛りになるというのが現在判明しているメカニズムです。
金縛りの最中は、通常のレム睡眠よりも脳が活発に活動しているため、鮮明な夢をより見やすい状態になり錯覚も起こしやすくなります。また、脳内の恐怖や不安を感じる部分が活発に活動したり、心臓の動きも速くなったりするため恐怖体験をしたり、「胸が苦しい」といった感覚を抱いたりするようです。
金縛りにあいやすい人の特徴は?
とある研究結果によると、金縛り経験者は共通して不規則な睡眠・覚醒をする傾向があるとされています。
つまり、昼寝をしすぎていたり夕方に深い睡眠をとったり、テレビなどを見ながら「寝落ち」したり夜更かしをしたりすると、眠ってすぐにレム睡眠になって金縛りになりやすくなるのです。
また、金縛りは10〜20代の若い世代に多く見られる傾向や遺伝、精神的なストレス、過労が関係する可能性も指摘されています。
金縛りについてはまだまだ不明点も多いため、今後さらなる研究が進むことが期待されます。
金縛りにあったときの対処法
では、もし金縛りにあってしまったときはどのように対処すれば良いのでしょうか?
ゆっくり深呼吸をしてやり過ごす
実際に金縛りにあうと、体は思うように動かせないし声も出ないし、びっくりしてパニックになるかもしれません。ですが、無理に体を動かそうとしても、恐怖が増すだけであまり効果はありません。
最も効果的なのは、金縛りにあったときに焦らずゆっくりと深呼吸をしてやり過ごすこと。
基本的に、金縛りの持続時間は数秒から数分程度しかありません。そのため、その時間さえやり過ごしてしまえば多くの場合は自然と治まり、その後はすっきりと目覚めるかそのまま寝てしまうこともあります。
いずれにせよ、落ち着いてリラックスしていれば、怖い思いを最小限に抑えることができるのです。
金縛りにあったら、「まずはゆっくり深呼吸」を実践してみてください。
金縛りにあわないようにする予防策
日頃どのようなことに気をつければ、金縛りを回避することができるのでしょうか?
生活リズムを整える
金縛りにあわないようにするには、生活習慣を整えることが第一歩です。
先ほど、金縛りは不規則な睡眠や覚醒によってもたらされることがあると解説しましたが、不規則な睡眠や覚醒は昼寝のしすぎ、夜更かし、寝落ちが原因で発生します。正しい睡眠習慣を作り出すことが、金縛りの回避には不可欠です。
特に、下記に気をつけると生活リズムが整い、正しい睡眠習慣を維持することができるでしょう。
早寝早起きを心がける
人間の体には体内時計があり、睡眠をはじめさまざまな生体機能を司っています。そして、体内時計を正しいリズムで動かすことが良い睡眠、質の高い睡眠に近づく第一歩になります。
そのためには、規則正しい生活習慣、特に朝日が登ったら活動し夜になったら速やかに就寝する、という早寝早起きが最も有効な手段です。
逆に、夜になったにもかかわらずいつまでも起きていると、体内時計はまだ昼だと思って眠気を遠ざけて眠りづらくなり、夜更かしやテレビ・スマホを見ながらの寝落ちにつながります。
金縛りの回避だけでなく質の高い睡眠をとるためにも、早寝早起きを心がけるようにしましょう。
朝起きたら日光を浴びる
早寝早起きとあわせて、朝起きたら何よりも先にカーテンを開けて、日光を全身に浴びるようにしましょう。こうすることで、太陽光に含まれるブルーライトが体内時計のズレを修正し、全身に覚醒を促す働きをしてくれます。
太陽光を浴びるときのポイントは、次の通りです。
- ・朝起きたらカーテンを開け、朝日を数分間浴びる
- ・覚醒に必要な光は届いているので、曇りや雨で太陽が見えなくても大丈夫
- ・太陽の光を直接見るのは、目を痛める可能性があるのでNG
朝食をとる
朝起きたら必ず朝食をとるのも、生活習慣の改善には有効です。
朝食を食べると睡眠中に下がっていた体温が上昇し、その後の活動をスムーズに行うことができるようになります。
あわせて、美味しくて温かい朝食をとることで味覚を刺激し、かつ内臓を刺激することで体内時計が正しい時間に修正され、体中に「朝だ!活動しろ!」と指令を送ります。
これにより、体内時計の修正とスッキリとした目覚めを両方手に入れることが可能になります。
普段は忙しくて朝食を食べる暇がないという人は、この機会にその習慣を見直し、朝ご飯を食べるようにしてくださいね。
睡眠の質を高める
規則正しい生活習慣の次は、睡眠の質をより高めるアプローチが大切です。
40度くらいのぬるめのお湯に15分程度浸かる
中でも、特に有効なのが入浴です。
一見、入浴と睡眠には何の関係もないように思えますが、入浴が睡眠にもたらす影響はとても大きいです。
私たちの体温には2種類の体温があります。内臓や組織など体の内側の温度を表す「深部体温」と、体の表面の温度である「皮膚温度」です。
実は、人間の睡眠は深部体温が大きく低下したときに眠気を感じ、スムーズに入眠できることがわかっています。そして、深部体温には大きく上昇すると、その反動で大きく下降する性質があります。
この深部体温の上昇・下降にアプローチできるのが入浴です。
入浴によって深部体温をしっかり上昇させ、それが下降するタイミングで寝床に入れば、自然と眠気が増してきて、スムーズに眠ることができるのです。
多くの方は時間がないからと湯船に浸からず、シャワーだけで済ませてしまいがちです。入浴は睡眠の質を上げるだけでなくリラックス効果も得られるため、この機会に入浴の習慣を取り入れてみてください。
適度な運動をする
睡眠の質を上げるには、適度な運動も有効です。
上記で、入浴による深部体温へのアプローチについて解説しましたが、運動も入浴と同様の効果を得ることができます。
例えば、夕方ごろに体を動かすと、床に着くころには一旦上昇した深部体温が大きく下がり、眠りやすくなります。
また、程よい運動は適度に疲れて眠りやすくなることに加え、リフレッシュ効果も期待できます。
おすすめの運動メニューを下記にまとめたので、ぜひ参考にしてやってみてください。
- ・週2〜3回行う
- ・就寝の3時間前までに行う
- ・ジョギングや軽いウォーキングなどの軽い有酸素運動がおすすめ
- ・会話を楽しめる程度のハードさにし、筋肉痛などにならないようにする
ストレスを溜めない
金縛り対策においては、ストレスを溜めないことも重要です。
先ほども解説したように、金縛りが起こる原因には過度なストレスや過労も含まれます。ですので、ストレスを感じたらその日のうちに発散し、布団に入るときには「もう寝るだけ」の状態にしておくことがベストです。
下記におすすめのストレス発散法をまとめました。リラックス効果を高める効果も期待できるので、自分にあったものを実践してみてください。
- ・アロマで芳香浴をする
- ・入浴する
- ・マッサージをする
- ・ゆったりとしたストレッチをする
- ・日記を書いて、その日あったことを振り返ってスッキリする
- ・キャンドルの明かりを見る
- ・ゆらぎの音楽を聴く
例:鳥のさえずり、小川のせせらぎ、虫の声、波の音、クラシック音楽など
頻繁に金縛りにあう場合は医療機関へ
上記で紹介した方法を試しても頻繁に金縛りにあう場合は、速やかに医療機関に相談しましょう。
睡眠障害(睡眠に何らかの異常をきたしている状態)のなかに、睡眠時随伴症という疾患があります。この疾患は、睡眠中に体が勝手に動いてしまうなどの症状を伴う睡眠障害で、金縛りが症状として現れる場合があります。
また、ナルコレプシー(食事中や歩行中など、通常では眠ることのない状況での突然の居眠りを特徴とする睡眠障害)においても、金縛りの症状が見られることがあるので、日常的に金縛りが見られる人や、心当たりがある人は、迷わず受診するようにしてください。
まとめ
今回は、金縛りが起こる本当の原因について医学的・科学的観点から解説しました。
古くから心霊現象といわれてきた金縛りの正体は、本来規則的に現れるはずのレム睡眠が入眠直後に現れる「睡眠麻痺」によって引き起こされたものです。
そして、睡眠麻痺は質の悪い睡眠や不規則な睡眠によってもたらされていることも、最近の研究で明らかになっています。
金縛りを回避するには、睡眠の質を下げる習慣を遠ざけ、質の良い睡眠をとるための習慣を続けることが一番の近道です。
金縛りに悩んでいる場合は、一度自身の生活習慣や睡眠習慣を見直してみてください。そして、対策をしても改善が見られない場合は、睡眠に何らかの異常をきたしている可能性があるので、迷わず医療機関を受診するようにしましょう。
よくある質問
Q.金縛りになる本当の原因は何ですか?
A.古くから心霊現象といわれてきた金縛りの正体は、本来規則的に現れるはずのレム睡眠が入眠直後に現れる「睡眠麻痺」によって引き起こされたものです。
Q.金縛りにならないようにするにはどうすれば良いですか?
A.金縛りは、不規則な睡眠・覚醒によってもたらされる傾向があるので、常に質の高い睡眠をとることを意識するのが大切です。「【良いバスタイムが重要?】睡眠と入浴の関連性について」で、睡眠の質を高める入浴法について解説しているので、ぜひ参考にしてください。