人間の寝ない最長ギネス記録は11日間!?︎
「人間は、何時間意識的に起き続けていられるのか?」
この疑問に挑戦した実験が、1965年アメリカで行われました。
1965年、アメリカの高校生の実験
1965年、当時高校生だったランディー・ガードナー君が、クリスマス休暇の自由研究でそれまでのギネスブックの断眠記録260時間に挑戦すると発表し、地元紙で大きく取り上げられました。
これに関心を示した睡眠の専門家ウィリアム・C・デメント博士は、彼に協力を申し込み、睡眠専門家の立会いのもと前代未聞とも思える実験がスタートしました。
具体的な実験方法は下記の通りです。
- ・実験中はとにかく意識的に寝ないようにする
- ・眠りそうになったら研究者が体を揺さぶったり、話しかけたり、運動をさせたりして眠気を紛らわせる
実験の結果
実験を行った結果、なんとガードナー君は264時間12分、約11日間も眠らずに過ごすことができたのです。もちろん、実験中はデメント博士によって脳波計による測定も行われたので、彼が11日間全く眠らなかったのは間違いありません。
実験中の彼の様子はというと、チャレンジが後半になると早口言葉が言えなくなったり言い間違いをしたり、些細なことにイライラしたり幻聴・被害妄想などが現れたりしたものの、眠気がないときはコンディションも良く、研究者とのバスケットボールでは勝つこともあったそうです。
そして、実験終了後の翌日、ガードナー君は14時間40分眠ったあと普通に目覚め、健康上の問題は特になかったと報告されています。
寝不足は「拷問」のひとつ
確かに、ガードナー君は断眠チャレンジを見事に乗り越え、11日間という驚異的な記録を打ち立てました。
ですが、彼が断眠に耐えうる特殊な体質だったのではないか、実験方法そのものに欠陥があったのではないか、と多くの研究者から疑問の声が上がっているのも事実です。そして、その詳細は未だ科学的には解明されていません。
そもそも、常に第三者がそばにいて、眠気が催されたときには必ず起こしてくれるという環境自体が現実の世界では起こり得ないことです。そのため、一般の人がこれと同じ状況を作り出すのは非常に困難、かつ真似するのは大変危険だといえます。
実際、ガードナー君の実験から約40年後の2007年には、イギリス人男性がこの記録を打ち破るべく断眠チャレンジに挑戦し、見事記録を破りニュースになりました。ですが、ギネスブックは健康への被害が大きいとして、記録の掲載を中止しています。
ですので、決して「自分も11日間眠らずに起き続けるぞ!」と安易な気持ちで真似しないでください。
何より、人間から睡眠を奪う「断眠」はナチスドイツや文化大革命時代の中国でも行われた「拷問」のひとつです。記録では、断眠を受けた人は眠りそうになると水をかけられたり痛めつけられたりして、幻覚や妄想などの精神異常が起きたとされています。
実験でも、幻覚や妄想などの症状が現れているので、心身に悪影響を及ぼすことは明らかです。ゆえに、眠らないことは健康を害する怖いことだと認識しましょう。
寝不足が与える健康への影響
1. 睡眠負債に繋がる
ここまで読んで、「さすがに11日間はやりすぎだけど、一晩くらいなら徹夜しても大丈夫じゃないの?」と思った人もいるかもしれませんね。
確かに、仕事や学業に追われる忙しい日々の中、つい夜更かしや徹夜をしてしまう人も少なくないでしょう。ですが、「この程度なら大丈夫でしょう」という睡眠不足が、恐ろしい睡眠負債を招くことを忘れてはいけません。
「睡眠負債」とは、睡眠専門家の間でよく用いられる言葉で、自分でも気づかないうちに睡眠の借金がどんどんと膨れ上がり、首が回らなくなっていく状態を指します。
2. マイクロスリープを引き起こす
多くの人は、睡眠が足りないことを「ただの寝不足」と捉えますが、実際は睡眠負債を溜めており、最悪の場合命を脅かすこともあるのです。睡眠負債が溜まると「マイクロスリープ」を引き起こします。
マイクロスリープとは、本人も認識できないほどの瞬間的な居眠りのことを指します。「仕事中に眠気が襲ってきて、ちょっと居眠りをした」程度のものではなく、時間としては1秒にも満たないものから10秒ほど続くものもあります。
症状が起きる原因は、睡眠負債が溜まり続けたことで脳が限界を迎え、一種の防御反応が起きているためと考えられています。マイクロスリープは自覚なく現れるため、本人はそれに気づくことすらできません。
たとえば、この状態で車を運転していた場合、事故を起こして自分や他人が怪我をしたり、物を壊してしまったりするでしょう。
睡眠専門家の間では、マイクロスリープ状態で走行する車は、飲酒運転や薬物を摂取したときの運転と同じくらい、むしろそれ以上に危険だといわれています。
このように、睡眠負債は日常生活への影響がで始めると命を脅かす危険な病です。できる限り早期発見と治療・解消が重要と言えるでしょう。
睡眠負債の解消法については次の記事をご覧ください。
3. 糖尿病・高血圧・うつ病などの病気につながる
睡眠負債はあらゆる疾患の引き金になります。
例えば、睡眠時間が短い人は、食べ過ぎを抑制するホルモンである「レプチン」の分泌が減り、逆に食欲を増大させるホルモンである「グレリン」が増えることがわかっています。
つまり、睡眠負債が溜まっている人は、食欲が抑えられず肥満につながりやすくなるのです。
その他にも、睡眠負債は下記のような生活習慣病や精神疾患の原因となります。
症状 | 発病が考えられる病 |
---|---|
インスリンの分泌が悪くなる | 血糖値が上がって糖尿病になる |
交感神経が活発な状態が続く | 心拍数が上がって高血圧になる |
自律神経・ホルモン分泌の バランスが乱れる |
精神が不安定になって、 うつ病などの精神疾患に陥りやすくなる |
寝不足を防ぐ!眠れない・時間がない時の対処法
寝不足を防ぐためには、眠れない・眠る時間がないときは次のような方法を試してください。
- 眠気を誘うツボを押してみる
- リラックスできる環境を整える
- 瞑想をしてみる
- 翌日が早い場合も無理して早く寝ない
- 病院で不眠治療を受けてみる
1. 眠気を誘うツボを押してみる
人間の体には眠気を誘うツボが存在します。
その中でも「百会(ひゃくえ)」と呼ばれる、頭頂部のやや骨が凹んでいる部分にあるツボは多くの血管・神経が集まっている場所。
親指以外の手指を使って、頭頂部を縦方向に優しく刺激すると効果的です。
そのほか、眠りのツボについては次の記事をごらんください。
2. リラックスできる環境を整える
リラックスできる環境を整えることで心を落ち着けて眠気を誘うことができます。
たとえば、自分に合ったマットレスや枕、パジャマ、落ち着ける音楽などを用意すると良いでしょう。
次の記事では、厳選されたおすすめ安眠グッズをご紹介しております。
3. 瞑想をしてみる
瞑想して心を落ち着かせることで眠気を誘える可能性があります。ポイントはアロマや音楽など、リラックスできる環境を作ること。
心を落ち着かせて上質な睡眠を取ることで疲労感の改善などにつながる可能性もあります。
安眠を目指す瞑想のやり方については次の記事をご覧ください。
また、「リラックスできる音楽が分からない……」とお悩みの方は、次でおすすめする曲の中から探してみてはいかがでしょうか。
4. 翌日が早い場合も無理して早く寝ない
現代のビジネスパーソンの中には、「明日は出張で、どうしてもいつも通りの睡眠時間を確保できない!」や、「大事なプレゼンの資料がまだ仕上がってないから、明日は早起きしなきゃいけない!」という場面もあるでしょう。
仮に、翌日はいつもより1時間早起きしなければいけないときは、いつも通りに寝て睡眠時間を1時間削るのがベターです。「えっ、いつもより1時間早起きしなければいけないなら、1時間早く寝るのが良いんじゃないの?」と思った人もいるのではないでしょうか。
確かに普通はそのように考えるものです。しかし、1時間早く起きるために1時間早く寝ようとすると、眠りたくても眠れない「フォビドンゾーン」に突入する可能性があります。フォビドンゾーンとは、入眠の直前に現れる睡眠禁止ゾーンのことで、入眠する直前に脳が眠りを拒否し、眠りにくくなることが最近の研究で明らかになっています。
誰しも、「明日早いから…」と早めにベッドに入ったのになかなか寝つけず苦しい思いをしたという経験があるでしょう。これがまさにフォビドンゾーン現象で、いつもの就寝時間より早く寝ようと思っても脳は受け付けていない状態です。
次の日に早起きをしなければいけないからといって就寝時間まで早めてしまうのは、効果的な方法とはいえません。
このフォビドンゾーン現象を効果的に避けるためには、いつもの就寝時間に寝床に入り、1時間早起きするのが最もベターです。
この方法ならいつも通りの就寝時間なので、スムーズに入眠することができ、かつ1時間程度なら「必要な睡眠時間を確保する」という目標への影響も最小限にすることができます。
5. 病院で不眠治療を受けてみる
夜更かしや徹夜などをすると体内時計が乱れて日中の眠気や倦怠感、集中力の低下につながる恐れがあります。
また、一口に不眠と言っても原因はさまざまです。根本的な理由が分からなければ長年の睡眠障害に悩まされる恐れも。
このように、不眠の症状に悩まされた際には専門医の元で不眠治療を受けてみるのも一つの方法です。
できる限り早く治療をすることで、早期回復が見込める場合があります。
睡眠障害について詳しく知りたい方は、東京都 新宿駅から徒歩3分のうるおいクリニックの睡眠障害のページで詳しく解説しています。
そのほか睡眠障害の種類について詳しく知りたい方は、下記記事をご覧ください。
【番外編】子ども・新生児が寝てくれない!寝不足が与える影響
子どもやまだ生まれたばかりの新生児が寝てくれないと悩むお母さんはたくさんいます。
先述したような健康への悪影響を考えると不安になってしまう方も多いでしょう。
そもそも、子どもや新生児が寝ないケースには、たとえば次のようなものがあります。
- お昼寝しすぎるなど、生活リズムが身についていない
- たくさんミルクを飲めないなどでお腹が空いてしまう
このようなケースの場合は、
- 授乳中でも夜は薄暗い環境を保つ
- 洋服のタグや食後のゲップ、おむつ、室温などを快適に整える
などの対策ができます。寝てくれないと感じる新生児の多くは、睡眠時間としては寝ていないわけではないため、寝不足による健康被害は少ないと考えられます。
一方、大人の影響により夜更かしの習慣のついてしまった子どもの場合は注意が必要です。
成長ホルモンの分泌や学力への影響など、詳細に調べたい方は次の記事をご覧ください。
【結論】適切な睡眠時間はちゃんと確保しよう
ここまでの内容をまとめると、毎日を健康に過ごすには適切な睡眠時間をしっかり確保することが大事だということがわかります。
ガードナー君のように11日間無理に起き続けても、健康を脅かすリスクが高まるだけで何のメリットもありません。
むしろ、ガードナー君の実験ではたまたま実験後の健康被害が見られなかっただけで、もっと条件を変えていたら取り返しのつかない症状が起きていた可能性もあります。
睡眠が足りないことは「睡眠負債」といわれ、その健康リスクが強く呼びかけられています。安易に起き続けるのではなく、何時間眠れば健康上問題なく過ごすことができるか考えた方が賢明であるといえるでしょう。
もし、「睡眠時間は短い方が良い」と考えている場合は、健康に害を及ぼす危険な考えであるためやめることを推奨します。そして、この記事を参考にして、改めて自分の最適な睡眠時間を見直してみてください。
私たち一般の人間が健康に暮らすためには、睡眠時間をしっかり確保するのが不可欠であり、一番の近道であるといえるでしょう。
A.1965年、アメリカで睡眠専門家立会いのもと、「人は何日間起き続けていられるのか」の実験が行われました。結果は約11日間で、当時のギネス記録の更新を達成しました。
A.最悪の場合、幻覚や妄想などの症状が現れることがあります。睡眠不足が蓄積したことによる健康被害については「睡眠負債は眠りの借金?睡眠不足・寝だめの問題を解説」でも解説しています。
よくある質問
Q.人は何日間眠らずにいられるのですか?
Q.何日間も眠らないと、人はどうなるのですか?
- 株式会社サンマーク出版 西野精治「スタンフォード式 最高の睡眠」
- ヒトはいったい何時間まで起きていられる?
- 質問1 「寝ないとヒトは死ぬ」のは本当ですか?本当なら,どのくらい起き続けていると危険なのですか?
- 【ドクターズコラム】「人はどのくらい眠らなくても生きられるのか?」
- No.55 眠らないとどうなる?