そもそも不眠症って?
そもそも、不眠症とはどのような症状なのでしょうか?最初に、不眠症の基本情報についてお伝えしましょう。
不眠症とは
不眠症とは、満足な睡眠が長期間取れないことによってさまざまな体調不良を引き起こし、日常生活に著しい影響を及ぼす疾患です。
不眠症の主な症状は、次のようなものがあげられます。
- ・日中の眠気
- ・倦怠感
- ・集中力の低下
- ・意欲低下
- ・抑うつ
- ・頭重
- ・めまい
- ・食欲不振
- ・居眠りによる死亡事故
不眠症はただの寝不足ではない
心配事があるときや試験の前日、旅行先など、普段と違う環境・心理状態のときに、夜眠れなくなることは誰しもよくあることでしょう。この場合は、数日もすれば自然と不眠症状は解消されます。
しかし、不眠症になると症状は1ヶ月たっても治ることはありません。そして、症状が続くと寝不足だけにとどまらず、さまざまな不調が現れるようになります。さらに、体調不良によって通常通りの生活が送れなくなる場合もあります。
このように、1ヶ月以上の長期間にわたる夜間の不眠と、精神や身体の不調によって生活の質が低下する状態が確認されるところが、ただの寝不足とは異なるポイントです。
不眠症のタイプ
不眠症は、症状が出現する時間帯や性質の違いによって、次の4つのタイプに分けられます。
- 1.入眠困難:ベッド(布団)に入ってから30分〜1時間以上眠れない
- 2.中途覚醒:いったん眠りについても、夜中に何度も目が覚める
- 3.早朝覚醒:朝、極端に早く目が覚める(起きたい時間よりも2時間以上早い)
- 4.熟眠障害:睡眠時間は十分確保しているのに、熟睡した感じが得られない
これらは、症状のどれかが単体で現れる場合もあれば、複数見られることもあります。また、どの症状を発症するかは個人差が大きく、程度やタイミングも人それぞれです。
不眠症については、以下の記事でもわかりやすくお伝えしています。ぜひご覧ください。
【女性の不眠症】月経編
ここからは女性特有の不眠症を、月経、妊娠・出産、更年期の3つに分けて詳しく説明していきます。
月経に伴う女性ホルモンの働き
月経前になると、やたらと眠くなったり、逆に眠れなくなったりする女性は多いと思います。これは、月経周期に伴い、女性ホルモンが大きく変動することが原因です。女性ホルモンは、次の2つに分類されます。
1. エストロゲン(卵胞ホルモン):月経終了後から排卵日にかけて比較的多く分泌される女性ホルモン。
- <主な働き>
- ・妊娠に備えて卵巣内の卵胞を成熟させる
- ・受精卵の着床に備えて子宮内膜を厚くする
- ・肌のツヤをよくする
- ・血管をしなやかに保つ
- ・骨密度を維持するなど
2. プロゲステロン(黄体ホルモン):黄体期と呼ばれる排卵日から月経開始前までの期間に多く分泌されるホルモン。
- <主な働き>
- ・妊娠が成立しやすいように女性の体を調整する
- ・受精卵が着床しやすいように子宮内膜を整える
- ・体温を上げる
- ・乳腺を発達させるなど
まとめると、エストロゲンは女性らしい体を形成するのに役立っているホルモン、プロゲステロンは妊娠の準備をするためのホルモンといえます。
また上記のように、月経は時期によってエストロゲンとプロゲステロンが増えたり減ったりしてバランスをとっていますが、それに伴って女性の体にはさまざまな不調も現れます。これが、月経前症候群(PMS)です。
どうして生理の時期は不眠症になるの?
月経前症候群(PMS)の中には、生理前の急激な眠気や不眠症状も含まれます。
プロゲステロンの分泌が増える黄体期は、通常よりも基礎体温が上昇します。これにより、日中に頭がボーッとしたり、眠気を感じたりします。
そして、体温上昇は不眠の原因にもなります。通常、私たちの体は体温を徐々に下げることで眠りにつくことができます。しかし、プロゲステロンの働きによって体温が高い状態で維持されてしまうため、寝つきが悪くなり、不眠に陥ってしまうのです。
さらに、月経期の急激なホルモン分泌による、自律神経の乱れやストレスなども不眠症を悪化させる原因になります。
【女性の不眠症】妊娠・出産編
妊娠・出産期にも、女性は不眠に陥ることがあります。
妊娠中の眠気
妊娠前期には、日中の眠気を強く感じるようになります。これは前述したように、プロゲステロンの分泌が多くなることが原因です。プロゲステロン分泌優位状態は、妊娠中期ごろになると比較的安定してきますが、妊娠後期になると今度は夜中に目が覚める中途覚醒が見られるようになります。これは、子宮の増大・収縮や胎動、頻尿、腰痛などの影響です。
また、妊娠が「むずむず脚症候群発症」のきっかけとなることもあります。むずむず脚症候群を発症する原因は、鉄分不足によるドーパミン産生阻害です。妊娠中は、胎児の成長のために鉄分が使われるため、母体の鉄分が不足しやすいです。
あわせて、睡眠時無呼吸症候群の発症にも注意が必要です。妊娠すると急激に脂肪が蓄積し、腹周りが大きくなります。また、首の周辺にも脂肪がつくようになって、気道の閉塞・狭窄を引き起こし、無呼吸につながります。
出産・育児による不眠
出産後の女性の体は、生涯の中で最も急激なホルモンバランスの変化に晒されます。ホルモンバランスが乱れると、自律神経の働きに影響が出て、眠りたくても眠れない不眠状態に陥ります。また、育児中心の不規則な生活によるストレスも、睡眠不足に拍車をかけるようになります。
これにより引き起こされるのが、マタニティブルーです。マタニティブルーになると、不眠による気分の落ち込みやイライラが増えたり、感情的になって涙もろくなったりなどの症状が見られます。
【女性の不眠症】更年期編
女性が不眠症に陥る原因で最も多いのが、更年期による不眠です。
更年期による女性ホルモンの乱れ
更年期に不眠が増加する一因は、ほてりや発汗といった血管運動神経症状が夜間に起こるためです。
前述したような女性ホルモンのバランスの乱れが影響しており、他には自律神経の不調和や、社会的なストレス、仕事や家族関係などの環境の変化なども、不眠症を発症するトリガーになるといわれています。
睡眠時無呼吸症候群も要注意
一般的には男性に多いとされる、睡眠時無呼吸症候群症にかかりやすくなることも原因のひとつです。
先ほども軽く触れましたが、睡眠時無呼吸症候群は睡眠中に気道が閉塞したり、狭まったりすることで呼吸が阻害される疾患です。無呼吸が繰り返されるため、脳は足りない酸素を補おうと睡眠中に何度も中途覚醒を繰り返します。これにより、十分な睡眠が取れず、日中の眠気や居眠りを引き起こします。
睡眠時無呼吸症候群に女性がかかりにくいといわれているのは、女性ホルモンの働きがあるからです。女性ホルモンが睡眠時無呼吸症候群の発症を抑えるメカニズムは、次の通りです。
- ・エストロゲン:血中コレステロールを下げる働きがあり、内臓に脂肪が沈着するのを防ぐ。
- ・プロゲステロン:上気道開大筋(上気道の開存を維持しようとする筋肉)の働きを活発にさせる効果があるため、男性よりも気道が広がりやすい。
このように、女性はエストロゲンとプロゲステロンのおかげで、睡眠時無呼吸症候群の発症が抑えられています。
しかし、閉経すると女性ホルモンの分泌が著しく減少し、発症抑制効果が得られなくなります。すると、女性も男性と同じように無呼吸に陥ることが多くなり、中途覚醒やそれに伴う日中の眠気が見られるようになるのです。
女性の不眠症にはどう対処する?
では、女性の不眠症には、どのように対処するのが良いのでしょうか?
今回ご紹介した女性特有の不眠症の主な原因は、女性ホルモンの急激な増加・減少です。しかし、それ自体は正常な体の機能によるものなので、女性ホルモンを悪者にして働きを阻害するようなことはしてはいけません。
【セルフケア法①】ライフスタイルの見直し
女性ホルモンの乱れに伴う不眠症状のセルフケアの基本は、ライフスタイルの改善です。
乱れた生活習慣は、不眠を悪化させるだけでなく、免疫力を低下させるため、さまざまな体の不調や病気の原因にもなります。ですので、不規則な睡眠習慣を改善し、その上でバランスの取れた食事や適度な運動、こまめなストレス発散を行うことで、不眠症状を緩和することが期待できます。
【セルフケア法②】寝床にしがみつかない
眠れない日が続くと、「また今夜も眠れなかったらどうしよう…」と不安になり、「早く眠らなきゃ!」と長時間ベッドや布団で横になる人がいますが、むしろ逆効果です。
「早く眠らなければ!」と焦れば焦るほど目が冴えてしまう現象は、不眠症の患者が共通して経験する「不眠恐怖」と呼ばれる症状です。この状態が続くと、夜になるだけで気分がナーバスになり、眠るのが憂鬱になってきます。それが、かえって不眠症状を悪化させ、どんどん眠れなくさせてしまうのです。
そんなときは、寝床にしがみつくのをやめて、一度ベッドや布団から離れるようにしましょう。横になってから1時間たっても眠れない場合は割り切って、眠気がやってくるまで他のことをして過ごします。このとき、眠れないからといってスマホやテレビなどを見ると、脳の興奮により逆に頭が冴えてしまうので、リラックスできることをするのがおすすめです。
1人で悩まず専門医へ相談を
上記で紹介した方法を試しても不眠症が改善されない場合は、専門医に相談をしましょう。不眠症は、主に精神科や心療内科で扱います。最近では、不眠症などの睡眠障害を専門に治療する睡眠外来も増えてきています。
不眠症は、放っておくとどんどん悪化し、治療するのが難しくなっていきます。自分の睡眠に少しでも違和感があれば躊躇せず、速やかに医療機関を受診することも大切です。
そして、専門医を受診した際にも大切なことがあります。それは、医師から処方された睡眠薬を自己判断で服用したり、勝手に服用を中止したりしないことです。睡眠薬は、正しく使用しないと眠気を翌日に持ち越したり、逆に夜眠れなくなったりすることがあります。交通事故や労働災害の原因となることもあるため、自己判断で薬を使用することは大変危険です。そのため、睡眠薬は医師の指導のもとで用法用量を守って服用しましょう。
まとめ
今回は、女性特有の不眠症について解説しました。女性は、月経や出産・妊娠、更年期などで、女性ホルモンの乱れに左右されて不眠状態に陥ることがあります。
また、女性ホルモンの乱れに伴う不眠症は、ただの寝不足だと思われて治療を後回しにされがちです。放置すると不眠症状がどんどん悪化し、新たな疾患の引き金となる場合もあります。
ですので、もし自分の睡眠に最近満足できていないと感じる女性は、ぜひ一度専門の医療機関を受診して、治療を受けるようにしてください。
よくある質問
Q.女性でよく起きる不眠症の特徴は?
A.女性でよく起きる不眠症の特徴は、女性ホルモンに左右されることです。特に、月経や妊娠・出産、更年期には女性ホルモンが急激に変化するため、不眠症状に陥りやすくなります。
Q.女性ホルモンに伴って起きる不眠症を改善するには、どうしたらいい?
A.まず大切なのは、ライフスタイルの見直しです。乱れた生活習慣は、不眠の悪化につながります。そして、眠れないときは寝床から離れ、眠気が来るまで他のことをして過ごしましょう。不眠症を改善するその他の方法は、「【パフォーマンスを上げよう!】睡眠改善のためのチェックポイント11選」でもご紹介しています。