不眠症ってどんな病気?
そもそも不眠症とは、どのような病気を指すのでしょうか?解説していきます。
不眠症とは
不眠症とは、満足な睡眠が長期間取れないことによって日中の倦怠感や眠気、意欲低下、集中力低下、食欲低下などを引き起こし、日常生活に著しい影響を及ぼす疾患です。
誰しも、「最近なんだか寝不足だな…」「寝たいのになかなか眠れない…」といった不眠症状を経験したことはあるでしょう。心配事があるときや大事な試験の前日などは、誰でも緊張から眠れなくなるものです。仮にこうした症状があったとしても、通常数日から数週のうちに解消されてまたいつものように眠れるようになります。
しかし、不眠症状が何ヶ月にもわたって続き、日常生活にも影響を及ぼす場合は、不眠症を発症している可能性が高いといえるでしょう。
主な症状
不眠症は、症状によって主に次の4タイプに分けられます。
入眠障害
入眠障害は、布団に入ってもなかなか眠りに入ることができず、寝つきが悪くなった状態です。
床についてから眠りに入るまでの時間には個人差があり、どの程度を苦痛と感じるかも人によって異なります。
ですが、明らかに以前よりも入眠するまでに時間がかかっていたり、寝つきが悪くなったことによって睡眠時間が足りなくなったり、入眠するまで布団で過ごす時間を苦痛に感じたりすると、不眠症を発症している可能性が高いと考えられます。
中途覚醒
中途覚醒は、夜中に何度も目を覚ましてしまう状態です。
誰しも、夏の蒸し暑さや冬の寒さ、騒音などによって夜中に目を覚ましたことはあるでしょう。こうした明確な原因があって中途覚醒を起こしている場合は、原因を取り除けばまたいつものように朝まで眠れるようになるので問題はありません。
ですが、環境などに特別な変化があるわけではないのに何度も目を覚まし、精神的苦痛や睡眠不足を感じるようになった場合は、不眠症の症状として扱われます。
特に、下記の症状を自覚している場合は、不眠症を発症している可能性が高いでしょう。
- ・目を覚ました後になかなか寝つけない
- ・一晩に2回以上目が覚めてしまう
- ・眠れないことに対して、精神的な焦りや苦痛を感じている
早期覚醒
早期覚醒は、起きたい時間よりも明らかに早く目が覚めてしまう状態です。
一般的に高齢になるほど起床時間が早まるとされていますが、まだ休んでいたいのにもかかわらず目が覚めて苦痛を感じているなら、不眠症の症状と判断されます。
具体的に、専門家の間では「希望の起床時間よりも2時間以上早く目が覚めてしまう状態」を早期覚醒と呼ぶ場合が多いです。
熟眠障害
熟眠障害は、いつもと同じくらい眠っているはずなのに、「全然疲れが取れていない」「眠った気がしない」と感じる状態です。
眠りの専門家の間では、どのくらいの時間眠ったかの「量」よりも、どれだけぐっすり眠れたかの「質」の方が重要だとされています。ですので、たとえ睡眠時間が短くても、ぐっすり眠って疲れが取れているなら特に問題はありません。
しかし、どれだけ眠っても睡眠の質が確保されず、「疲労回復がされない」「どれだけ眠っても眠い」と感じる場合は、熟眠障害と考えられます。
不眠症になる原因は?
不眠症になる原因はさまざまですが、専門家の間では次の「5つのP」のどれかに当てはまると考えられています。
心理学的要因(Psychological)
1つ目は、心理学的要因(Psychological)です。なんらかのストレスが心理的に影響し、これを要因として不眠症に陥ります。
- <例>
- ・近日中に大事なプレゼンが控えている
- ・家族や親友の死
- ・仕事のミスを引きずる など
身体的要因(Physical)
身体的要因(Physical)は、外傷や喘息などの身体的疾患です。痛みや痒みを伴うことで、不眠を生じます。
- <例>
- ・外傷
- ・関節リウマチ
- ・湿疹
- ・蕁麻疹
- ・喘息発作
- ・頻尿
- ・花粉症 など
精神的要因(Psychiatric)
精神的な不調や疾患といった精神的要因(Psychiatric)に伴って、睡眠が障害されることがあります。
- <例>
- ・不安
- ・うつ病
- ・統合失調症 など
薬学的要因(Pharmacological)
薬学的要因(Pharmacological)による不眠は、飲食物に含まれる成分や服用している薬の副作用によって発症します。
- <例>
- ・抗がん剤
- ・自律神経・中枢神経に働く薬
- ・ステロイド
- ・アルコール
- ・カフェイン
- ・ニコチン など
生理学的要因(Physiological)
生理学的要因(Physiological)による不眠は、睡眠環境や生活習慣の乱れが原因で睡眠に異常をきたす事例です。
- <例>
- ・受験勉強やシフト勤務による昼夜逆転
- ・周囲の騒音
- ・寝室が明るすぎる
- ・暑さや寒さで寝苦しい
- ・寝具が体に合っていない など
その他の睡眠障害によるもの
上記の他に、別の睡眠障害が原因で不眠症状が見られるケースもあります。
睡眠時無呼吸症候群
睡眠時無呼吸症候群は、睡眠中にしばしば呼吸が止まる無呼吸を引き起こすことで睡眠が障害され、慢性的な睡眠不足に陥る疾患です。
この疾患は、慢性化すると不眠症状と合わせて、高血圧や動脈硬化といった合併症を発症させます。また、脳卒中や心臓病を引き起こし、最悪の場合命を落とす可能性がある非常に危険な病気です。
睡眠時無呼吸症候群は、発症すると睡眠時はほぼ毎回大きないびきをかくようになるため、家族などにいびきを指摘されたことのある人は罹患しているかもしれません。脳卒中や心臓病になってしまう前に、速やかな治療が必要です。
むずむず脚症候群(レストレスレッグス症候群)
むずむず脚症候群(レストレスレッグス症候群)は、就寝中に脚がむずむずするなどの異常運動によって睡眠が妨げられる疾患です。
この疾患は、夕方から夜間に出現するケースが多いため、なかなか寝つけなかったり、一旦眠っても脚の不快感で目が覚めたりすることが多くなります。
未だ、むずむず脚症候群の医学的な原因は明らかになっていませんが、症状に心当たりがある場合は、なるべく早い治療が必要です。
周期性四肢運動障害
周期性四肢運動障害は、睡眠中に四肢(主に下肢)の筋肉が勝手に収縮や弛緩を繰り返すことで睡眠が妨げられ、中途覚醒を起こす疾患です。
睡眠が妨げられるといっても、本人には両足が動いている自覚はありません。また、上記のむずむず脚症候群と合併することも多く、年齢とともに発症しやすい傾向があります。
むずむず脚症候群と同様、発症の原因は未だ不明点の多い疾患なので、症状に気づいたら早めに治療を受けるのが大切です。
概日リズム睡眠・覚醒障害
概日リズム睡眠・覚醒障害とは、地球の明暗サイクルとは異なるタイミングで寝起きするようになる疾患で、「夜になっても眠くならない」「朝になってもなかなか起きることができない」などの症状を引き起こします。
発症の原因は、昼夜逆転生活の常態化や極端な遅寝遅起き生活などが挙げられ、昨今の24時間営業や深夜までの残業などによって若年層での患者が増えています。
治療には、生活習慣の見直しを基本として、薬物療法や体内時計のズレを是正する高照度光照射療法などが行われます。
概日リズム睡眠・覚醒障害については、下記記事でも詳しく紹介しているので、参考にしてください。
不眠症を改善する方法
それでは、ここからは不眠症を改善する効果が期待できる対処法を紹介していきます。
就寝・起床時間は毎日一定に
不眠症を改善する基本は、生活習慣の改善です。特に、就寝・起床時間は毎日一定にしてください。
おそらく、多くの人は平日にしっかり働いた分、休日は寝だめをしようとするでしょう。
しかし、短期間で睡眠時間の大幅な増減を繰り返すと、体が時差ぼけのような状態を引き起こし、体内時計の乱れやホルモン分泌の異常につながります。
このような、平日と休日における睡眠時間の差によって引き起こされる就寝・起床リズムのズレを「ソーシャルジェットラグ(社会的時差ボケ)」と呼びます。ソーシャルジェットラグは、月曜日の朝に「体がだるい」「辛くて起きられない」と感じる「ブルーマンデー」の原因にもなります。
これを防ぐためには、平日・休日にかかわらず就寝と起床時間は毎日一定にすることが大切です。どうしても休日に多めに寝ていたい場合、起床時刻のズレは1時間程度にとどめて一旦起床し、足りない分は昼寝で補いましょう。
休日の寝だめの危険性については、下記でも解説しています。
無理に寝床にしがみつくのはNG
上記のように、毎日の就寝・起床時間を一定にするのは、不眠症改善や防止に高い効果を発揮します。ですが、だからといって眠れないのに寝床に入り、長時間布団で過ごすのはNGです。
眠くないのに布団に入る習慣を続けると、ベッドや寝室を「眠れなくて苦しいところ」と脳が認識して、睡眠のことを考えるだけで気持ちが落ち込み、不安を感じるようになります。
こうした現象を改善するためには、無理に寝床にしがみつくのをやめて、一度ベッドや布団から離れることが大切です。横になってから10分たっても眠れない場合は寝室から離れ、眠気がやってくるまで他のことをして過ごしましょう。
朝起きたら日光を浴びる
朝起きたら何よりも先にカーテンを開けて、日光を全身に浴びるようにしましょう。
太陽の光には、私たちの脳を覚醒に導くブルーライトが豊富に含まれています。このブルーライトが目に入ることで、睡眠ホルモンであるメラトニンの分泌を抑制し、脳と体を覚醒モードに切り替える手助けをしてくれます。
- <朝に日光を浴びるときのポイント>
- ・朝起きたらカーテンを開け、朝日を数分間浴びる
- ・曇りや雨で太陽が見えなくても、覚醒に必要な光は届いているので問題なし
- ・太陽の光を直接見るのは、目を痛める可能性があるのでNG
朝食はしっかりと
上記の日光を浴びることとあわせて、朝食をしっかりとることも気持ちの良い覚醒に効果があります。
朝起きて朝食をきちんと食べることで、寝ている間に低下していた体温を上昇させ、スムーズに活動するサポートをしてくれます。また、食べ物をよく噛むことで咀嚼筋から神経に刺激が伝わり、より強い覚醒が促されるようになります。
おすすめのメニューは、和食をベースにした朝ご飯です。味噌汁で体温を上げ、漬物などの歯ごたえのある食べ物を合わせると、栄養面でも体温面でも、そして噛む刺激の面でも高い効果が期待できます。
適度な運動を取り入れる
適度な運動を習慣づけることは、入眠を促進し、中途覚醒を減らすことにつながります。
実際、運動と睡眠に関する研究では、適度な運動を習慣的に行うと寝つきが良くなったり、中途覚醒が減って睡眠の質が改善されたりするという報告がされています。
おすすめの運動メニューとしては、会話を楽しみながらできる程度の軽いジョギングやウォーキングなどの有酸素運動が適当でしょう。週に2〜3回以上を目安に、就寝の3時間前までに行うのがベストです。
入浴で体温コントロール
入浴も、眠りやすさや寝つきの良さを向上させる効果的な方法です。
入浴によって深部体温(脳や内臓といった体の内部の温度)を一気に上昇させ、下降するタイミングで寝床に入ることでスムーズに入眠することが可能となります。
- <快眠を促進する入浴法のポイント>
- ・入浴のタイミングは就寝の90分前がベスト
- ・40℃のお湯に15分浸かる
- ・お湯に浸かる時間がないときは、寝る直前にシャワーだけでさっと済ませる
下記の記事では、より詳しく睡眠と入浴の関係性について解説しています。
睡眠前の行動をルーティン化
毎日の睡眠前の行動をルーティン化するのも有効です。
私たちの脳は、単調な状況が続くと退屈を感じ、自然と眠気を感じます。電車に乗っていて変わらない風景を見ているときに眠くなるのは、脳が退屈だと感じているからです。こうした単調な状態を「モノトナス」といいます。
つまり、寝る前に意図的にモノトナスを作り出すことで、スムーズな入眠を促す効果が期待できます。そこで有効なのが、睡眠前の行動のルーティン化です。
前述した就寝時間や、夕食、入浴時間を毎日決まった時間に行うことで、脳に余計な考え事をさせずに退屈をもたらすことができます。あわせて、寝るときの服装や寝具、寝室の温度、照明といった睡眠にまつわるすべての要素を毎日同じにしておくことも、脳に退屈をもたらし、スムーズな眠りに近づける効果を発揮します。
自分なりの方法でストレス解消
上記のルーティンの中に、ストレスを解消できるものを取り入れるのも効果的です。
例えば、寝る前にストレッチをすることで、副交感神経の働きを促進し、リラックス効果を高める作用があります。他にも、「1/fゆらぎ」を持つ映像や音楽は脳をリラックスさせ、ストレスの解消につながるとされています。
- <1/fゆらぎの例>
- ・キャンドルなどの炎のゆらめき
- ・川のせせらぎ
- ・鳥の鳴き声
- ・虫の声
- ・波の音
- ・木々の木漏れ日
- ・クラシック音楽
1/fゆらぎのより詳しい解説は、下記記事でも行っています。
快適な睡眠環境づくり
前述したように、自分が快適に眠れる睡眠環境を整えることも非常に大切です。
いつも寝ている寝具(布団や枕、マットレスなど)は体に合っているか、部屋の温度は適温か、うるさすぎないか、明るすぎないか、寝るときの服装(パジャマなど)は睡眠に適したものか、ぜひこの機会に自分の睡眠環境を見直してみてください。
寝酒はNG
毎日の飲酒、特に寝る前に行う寝酒が習慣化している人は多いでしょう。しかし、寝酒は睡眠にとっても最もやってはいけないNG習慣です。
アルコールを摂取すると、催眠作用によって一時的に眠りにつきやすくなりますが、その後の睡眠パターンは崩れ、睡眠時間が短くなる傾向があります。また、利尿作用や脱水作用によって、ほぼ確実に中途覚醒につながります。
どうしても寝る前に飲酒をしたい場合は、「寝る直前に・アルコール度数の高いものを・ごく少量」飲むのがおすすめですが、飲酒量を自分でコントロールできない場合は避けた方が良いでしょう。
寝酒が睡眠に与える影響については、下記記事でも詳しく解説しています。
「眠れない」は体からのSOSサイン
ここまで、不眠症の解説と改善する方法について解説してきましたが、いつまでも治らない不眠を自覚しているときは、迷わず医療機関を受診しましょう。
本来、睡眠には体や脳の疲労を取り除くだけでなく、免疫機能の活性化や傷ついた細胞の修復、記憶の整理、自律神経の不調改善といったさまざまな働きがあります。しかし、睡眠が十分に取れないとこれらの働きが正常に行われず、心身に次々と悪影響を及ぼします。
また、不眠症の裏に別の睡眠障害や疾患が隠れている場合もあるため、一般の人が自力で対処するのは限界があります。
もし、睡眠に異変を感じた場合は、内科や脳神経内科、精神科、心療内科を受診してください。近年は、睡眠の問題を専門に受け付ける睡眠外来の設置が全国で進んでいます。ぜひ、この機会にお近くのクリニックを探してみてください。
まとめ
今回は、不眠症の症状・原因・改善法について徹底解説しました。
昨今において、睡眠が満足に取れない不眠症はもはや「現代病」といっても過言ではありません。それにもかかわらず、不眠症の治療をきちんと受けている人は大変少ないです。
ぜひ、この記事をきっかけにして自分の睡眠を見直してみてください。そして、慢性的な睡眠不足を自覚している場合は、躊躇せず医療機関を受診して治療を受けるようにしましょう。
よくある質問
Q.不眠症になってしまう原因はなんですか?
A.さまざまな原因がありますが、「5つのP」と呼ばれる、心理学的要因(Psychological)、身体的要因(Physical)、精神的要因(Psychiatric)、薬学的要因(Pharmacological)、生理学的要因(Physiological)のどれかに分類されます。
Q.不眠症を解消するにはどうすれば良いですか?
A.不眠症を解消するには、生活習慣を整えることが重要です。他にも、適度な運動や朝起きたときの日光浴、毎日の朝食、入浴、睡眠のルーティン化が有効です。 詳しくは、「不眠症を改善する方法」 を参考にしてください。