睡眠と体温の関係は?
睡眠不足に悩む多くの方は、睡眠時間を増やすか、休日に寝溜めすれば寝不足を解消できると思っている方も少なくないと思います。
日本人の、特に労働世代の平均睡眠時間は約6時間と、世界的に見ても睡眠時間が短いと言われていることは事実であり、単純に睡眠時間を増やすことは確かに睡眠不足の解消に一定の効果を示すかと思います。
しかし、限られた睡眠時間の中で睡眠の質をもっと効率的に、かつ簡単に上げる方法が他にもあるのです。
それは、睡眠の質と体温の関係性を理解して、正しい体温管理法を行うことです。
実は睡眠の質と体温には密接な関係性があり、睡眠中の最高体温と最低体温の差が大きいほど良質な睡眠が得られると言われています。
人間の体温は一定ではなく、1日を通して常に変化していて、夕方4-6時に最高体温になり、そこから入眠とともに低下し始め、明け方4-6時頃に最低体温になります。
一般的に最高体温と最低体温には1-1.5度くらいの差があり、この差が大きければ大きいほど睡眠の質は向上し、差が少なければ少ないほど睡眠の質は低下すると言われています。
では、なぜ体温によって睡眠の質が変化するのでしょうか?
睡眠と体温の関係性について詳しく解説していきます。
体温の定義とは?
睡眠と体温の関係性を理解する上で、最初に体温そのものについての理解を深める必要があります。
そもそも体温には、体の表面の温度を表す「皮膚体温」と、内臓や脳などの体の内部の温度を表す「深部体温」があります。
皮膚体温は外部の室温に強く影響を受けやすいため、正確な体温を知るためには深部体温が重要であり、睡眠の質においても深部体温の変化が重要です。
最適な深部体温を考えた時、深部体温が低い状態が継続してしまうと基礎代謝が低下して、内臓の機能が低下してしまいます。
その反面、深部体温が高い状態が継続してしまうと、基礎代謝が上昇しすぎて酸素消費量が増加してしまい、脳や腎臓にダメージが及ぶ可能性もあります。
つまり、人間の場合は体温が高すぎても低すぎても良くないため、外部の環境に影響されずに深部体温を一定に保つようにできている恒温動物なのです。
それに対し、外部の環境に影響されて深部体温が変化してしまう動物を変温動物と言います。
例えば、寒いところにいる人間は、体を震わせて無理やり体温を上昇させています。
逆に暑いときは、皮膚の末梢血管を拡張させて発汗を促し、体内にこもった熱を体外に放散させているのです。
このように、人体の健康上体温は非常に重要であり、健康状態をニュートラルな状態に保つためにも臨機応変に自動で体温調整を行っているわけです。
では、この深部体温が睡眠とどう関係し、どのように変化しているのでしょうか?
睡眠による体温の変化
結論から言えば、熱放散によって人間の深部体温が低下することで睡眠が始まり、明け方に体温が上がり始めると覚醒に向かっていきます。
体温と睡眠は脳の一部分である「視床下部」と言われる部分によってコントロールされています。
深部体温が低下することで睡眠が始まり、深部体温が高くなると睡眠が終わるように連動して管理されているのです。
深部体温が低下すれば基礎代謝が低下するため、脳を中心に全身の臓器が休憩モードに入ることで睡眠に誘われます。
ではどのように深部体温を下げているのでしょうか?
夜間になると、皮膚の末梢血管を拡張させることで皮膚からの熱放散を活性化させ、体内にこもった熱を体外へ放出していくのです。
これによって深部体温は低下し、その反対に血流の増加によって皮膚体温は上昇します。
例えば、眠る前の赤ん坊の手足が温かくなるのを体感したことがある人も少なくないのではないでしょうか?
これは、深部体温を低下させるために皮膚の血管が拡張し、皮膚体温が上昇しているからです。
時折「睡眠=体温が上がる」というようなことを耳にしますが、正確に言えば皮膚体温が上昇しているだけで、深部体温は低下しています。
このように、睡眠と体温は視床下部で連動して管理されているため、睡眠によって体温にも変化が生じるわけです。
睡眠の質と体温の関係
では、このような体温の変化が睡眠の質にどのような影響を与えるのでしょうか?
結論から言えば、いかに熱放散を促すことができるかで睡眠の質は変わってきます。
繰り返しになりますが、熱放散によって深部体温が低下して、視床下部の睡眠中数に刺激が入ることではじめて良好な入眠が得られるからです。
逆に、熱放散がうまく行われず深部体温が低下しないと、睡眠の質は低下してしまいます。
もう少し分かりやすいように、いくつか具体例をご紹介します。
例えば、冷え性の方は睡眠中もなかなか皮膚の末梢血管が拡張しないため、熱放散がうまく起こりません。
すると、うまく深部体温を低下させることができず、寝つきに時間がかかることが報告されています。
これは、深部体温がなかなか低下しないことで、睡眠中枢がなかなか睡眠のフェーズに移行しないためだと考えられます。
他にも、徹夜明けの日中に睡眠を取ろうとすると、睡眠の質は低下しやすいです。
日中はそもそも生理的に深部体温が高い状態であり、午前から夕方にかけて最高体温に近づいていくフェーズであるため、深部体温が下がりにくい時間帯であることが起因しています。
さらに興味深い研究として、睡眠中の電気毛布の継続的な使用によって睡眠が不安定になり、中途覚醒が増加することも報告されています。
電気毛布によって熱放散が不十分となり、深部体温が下がりにくくなっているからです。
以上のことからも、睡眠初期のタイミングで積極的に熱放散を促し、深部体温を低下させることが、睡眠の質を上げるために非常に重要なのです。
睡眠の質をあげる体温管理法
繰り返しになりますが、睡眠の質を上げるためには自分の皮膚体温や深部体温をうまくコントロールして就寝する必要があります。
そもそも、我々が普段計測しているワキの温度は、皮膚体温と深部体温の間の温度になります。
ですから、正確に深部体温を測定するにはワキの体温では不十分ということになります。
そこで、より正確に深部体温を把握するためには、体の内側である直腸や食道などの温度を測定する必要があります。
しかし、実際には直腸や食道に体温計を入れて測定するわけにはいかない上に、良質な睡眠を得るためにそこまで厳密な体温管理も不要です。
では、良質な睡眠を得るための具体的な体温の調節方法について解説していきます。
部屋の室温や湿度
良質な睡眠を得るためには、部屋の室温や湿度をエアコンで調整しておくことをお勧めします。
室温や湿度が高いと、熱放散が得られにくくなってしまうため、うまく深部体温が低下せず睡眠の質が低下してしまうからです。
具体的には、室温を26度前後で維持したまま入眠し、深部体温が下がった3-4時間後にタイマーでエアコンをオフにすると、その3-4時間後に自然な覚醒が得られるため睡眠の質が向上します。
エアコンの設定次第で誰でも簡単に実践できる点もメリットが大きいです。
入浴時間
結論から言えば、就寝の約2時間前に入浴することで良質な睡眠を得ることができるようになります。
就寝前に深部体温を上げておくことで、その後の熱放散による深部体温の落差が広がるため、睡眠の質が向上すると考えられています。
実際に日本で行われた研究によれば、就寝2時間前に30分間の半身浴を行なったところ、中途覚醒の頻度の減少や睡眠効率の改善を認めたと報告されています。
さらに、他の研究では週5回、3週間にわたって18-20時の間に入浴し睡眠状態を評価したところ、介入前と比較してレム睡眠時間の短縮とノンレム睡眠時間の増加を認めました。
レム睡眠とは比較的浅い睡眠であり、脳が働いているため睡眠の質が低い時間帯であるのに対し、ノンレム睡眠とは比較的深い睡眠であり、脳が休めているため睡眠の質が高い時間帯になります。
レム睡眠やノンレム睡眠に関しては、下記記事でさらに詳しく解説されていますので気になる方は是非参考にして見てください。
また他にも、毎晩足湯を20分間行なった人で睡眠の質が改善したとの報告例もあります。
以上のことから、入浴によって一過性に皮膚体温や深部体温が上昇し、皮膚の末梢血管の拡張を促進させるため、結果的に熱放散の増加をもたらしていると考えられます。
だからと言って、どんな入浴方法でも必ず睡眠の質を改善させてくれるわけではありません。
就寝直前の入浴やのぼせてしまうほどの高温の入浴は、就寝後の深部体温の低下を妨げてしまうため、むしろ睡眠の質を悪化させてしまう可能性すらあります。
以上のことから、睡眠の質を向上させるためには、就寝の1-2時間前に38度くらいのお湯に30分ほど入浴するか、40度のお湯に30分ほど半身浴することがオススメの入浴法です。
入浴と睡眠の関係性についてはこちらのコラムでも解説していますので、ぜひ参考にしてみて下さい。
運動
日中、特に夕方に運動を行うことは良質な睡眠を得る上で非常に効果的です。
夕方に運動を行うことで深部体温が上昇するため、その後の睡眠中に熱放散によって低下する体温の振り幅が大きくなるからです。
しかし、あまりにも激しい運動や就寝時間に近い時間帯に運動を行ってしまうと、せっかく低下し始めた深部体温を再び上昇させてしまうため、かえって逆効果になってしまう可能性もあります。
具体的なオススメの運動法としては、夕方に少し汗ばむ程度の、一緒に運動している人と会話を楽しめる程度の負荷の運動を行うことです。
内容としては、ランニングやウォーキングなどの有酸素運動が好ましく、ダンベルなどを用いた激しい無酸素運動は避けた方がいいです。
睡眠の質を維持するためにも、遅くても就寝3時間前までには運動を終了させた方が良いと思います。
口呼吸を控える
口呼吸を控えることは良質な睡眠を得る上で非常に重要です。
人間は睡眠中、主に鼻呼吸で呼吸する生き物ですが、鼻詰まりや肥満の方はつい口呼吸で呼吸してしまいます。
口呼吸を行うと舌根が後方に落ちやすくなり、気道を狭窄させてしまうため、いびきをかくと共に体内に吸い込める酸素の量も低下してしまい、睡眠の質も低下します。
また、鼻呼吸で鼻から空気を吸うことにより、鼻の奥の毛細血管に直接冷たい空気が当たります。
その毛細血管は脳の血管とも繋がっているので、直接的に脳の深部体温を冷却してくれるため、睡眠の質を上げる効果も期待できるのです。
以上のことから、睡眠中は脳の体温を冷やすためにも鼻呼吸が推奨されます。
下記の記事では、睡眠中の口呼吸を簡単に鼻呼吸に移行させてくれる口閉じテープについて、詳しく解説されていますので、ぜひ参考にしてみてください。
まとめ
今回の記事では、体温と睡眠の質の関係性や、良質な睡眠を得るための体温管理法について詳しく解説させていただきました。
睡眠と体温は視床下部によって連動されてコントロールされているため、夜間に起こる皮膚の末梢血管の拡張と、それに伴う熱放散によって深部体温が低下することで睡眠が誘発されます。
逆に、うまく熱放散できないと深部体温が高いままになってしまい、睡眠の質は低下してしまうため、良質な睡眠を得るためには適切な運動や入浴、良質な就寝環境を整えておく必要があります。
睡眠不足でお悩みの方は、睡眠時間の延長や休日に寝溜めするだけでなく、ぜひ体温管理も考慮した睡眠を実践してみてください。
今回の記事がその一助となれば幸いです。
よくある質問
Q.睡眠すると体温が下がるのはなぜですか?
A.正確に言えば、熱放散によって「皮膚体温」が上昇し「深部体温」が低下します。
夜間に皮膚の末梢血管が拡張することで熱が体外に放出され、皮膚体温は上昇する代わりに深部の体温が低下していきます。
深部体温の低下により入眠していくため、深部体温の低下の振り幅が大きいほど、良質な睡眠が得られることが分かっています。
良い睡眠にするための方法は下記のコラムでも解説しています。
【眠りが浅い人必見!】良い睡眠にするための改善方法
Q.良質な睡眠を得るための体温管理法は?
A.良質な睡眠を得るためには、就寝前に熱放散が起こりやすいようにしておくことです。
具体的には、夕方の適度な運動や就寝2時間前の入浴によって深部体温を上げておくことです。
就寝前の深部体温が高いと、その後熱放散によって大きく深部体温が低下するため、質の高い睡眠を得られる可能性が高くなります。