睡眠時無呼吸症候群(SAS)の診療ガイドラインとは?
睡眠時無呼吸症候群(SAS)は、睡眠障害の中でもっとも高頻度で発生する病態であり、一般的な治療法であるCPAPの在宅使用患者数は50万人を越えようとしています。患者の増加に相関して、睡眠時無呼吸症候群(SAS)が原因となる交通事故も増えて、社会問題になりつつあります。
このような現状に対応するため、睡眠時無呼吸症候群による症状の理解や検査技術の普及を目的として「睡眠時無呼吸症候群(SAS)の診療ガイドライン作成委員会」により策定されたのが、このガイドラインです。
この診療ガイドラインは、医師などの医療従事者向けなので専門用語が多く使用され、患者にとっては理解が難しい文章になっています。しかし、書かれている内容は患者にとっても有意義なものが多いため、睡眠で悩んでいる方は読んでみる価値があるでしょう。
睡眠時無呼吸症候群(SAS)の定義や種類について
ここでは、診療ガイドラインを読み進めるにあたり覚えておきたい、睡眠時無呼吸症候群(SAS)の定義や種類について解説します。
睡眠時無呼吸症候群(SAS)の定義と診断基準
睡眠時無呼吸症候群の疾患があると、以下のような症状がでます。
- ・眠気や疲労感
- ・不眠
- ・眠っても疲れが取れない
- ・窒息感とともに目覚める
- ・パートナーから呼吸の中断やいびきなどの報告がある
- ・睡眠ポリグラフ検査で1時間当たり5回以上の無呼吸状態になる
睡眠時無呼吸症候群は、これらの症状を総合的に判断して診断すると定義されています。
睡眠時無呼吸症候群(SAS)の種類について
睡眠時無呼吸症候群(SAS)は、閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)と中枢性睡眠時無呼吸症候群(CSAS)の2種類に分けられます。
それぞれの違いは以下の通りです。
- ・OSAS:肥満などにより気道が塞がり無呼吸状態となる
- ・CSAS:気道は塞がらないが無呼吸状態となる
睡眠時無呼吸症候群(SAS)のうち、多くがOSASと診断されるため、SAS=OSASと認識されることも多いです。
睡眠時無呼吸症候群(SAS)になる人の割合
これまでに、睡眠時無呼吸症候群の有病率を研究した事例は数多くありますが、その調査方法は異なっています。
ガイドラインよると、1時間当たりの無呼吸または低呼吸の回数(AHI)が15回以上であった場合に、睡眠関連呼吸障害(SRBD)に疾患していると定義した調査では、50歳代の女性で10%弱、男性で10~20%とされています。
AHIとは、睡眠時無呼吸症候群の重症度を分類するための指標で、AHIが5~15は軽症・15~30は中等症・30以上は重症と判断します。
また、睡眠時無呼吸症候群を、「睡眠関連呼吸障害(SRBD)+昼間の過度の眠気」と定義した調査では、男性は5%前後、女性は2~3%とされました。
このように、調査の方法により有病率は変化しますが、「高齢者及び男性で有病率が高い」という結論が導きだされています。
睡眠時無呼吸症候群(SAS)と飲酒の関係も、古くから研究がおこなわれています。
欧米での研究をまとめたところ、飲酒をする人は飲酒をしない人に比べて睡眠時無呼吸症候群(SAS)の発症リスクが25%増加することが示されました。
また、就寝直前に飲酒をすると、睡眠時無呼吸症候群(SAS)が悪化すると判明しています。
ガイドラインに沿った睡眠時無呼吸症候群(SAS)の治療法
ここでは、睡眠時無呼吸症候群(SAS)の治療法やその効果について解説します。
CPAP治療
睡眠時無呼吸症候群(SAS)の一般的な治療法であるCPAP治療は、専用の医療機器を使用して鼻から気道に圧力をかけ、空気の通り道を確保することにより睡眠中の無呼吸を解消する方法です。
CPAP治療は、日中の眠気が強い場合や、症状が中等~重症と判断された際に、もっとも推奨される治療法です。睡眠時無呼吸症候群(SAS)の疾患があると交感神経が活性化され高血圧になる傾向がありますが、CPAP治療をおこなうと高血圧などの心血管障害も改善したとの結果が出ています。
CPAP治療に大きな副作用はありませんが、マスクのようなインターフェースを装着するため、鼻や喉の乾燥・皮膚や目の違和感を持つ方もいます。
OA治療
OA治療(オーラル・アプライアンス)は、下顎が上顎よりも前に出るようにマウスピースを装着して、気道を広く保ち、いびきや無呼吸を改善する治療法です。OA治療は、CPAP治療をおこなうほどではない軽症~中等症の場合や、何らかの事情でCPAP治療をおこなえない場合に推奨されます。
睡眠時無呼吸症候群(SAS)の患者に受け入れられやすいとされるOA治療ですが、短期的・長期的な副作用が発生するため注意が必要です。
もっとも多い短期的な副作用には、唾液過多や減少・歯や歯茎の痛み・起床時の嚙み合わせ異常などが挙げられます。ただし、これらの症状は一時的なものであり、時間の経過とともになくなっていくでしょう。
長期的な副作用としては、歯の移動とそれに伴う噛み合わせ異常が起こります。このような嚙み合わせの変化は、一度症状が現れると自然に元の状態に戻すことはできません。
OA治療は副作用を伴いますが、睡眠時無呼吸症候群(SAS)に対して効果を発揮する治療法です。そのため、代わりとなる治療法を選択しない状態では、中止するべきではありません。
減量療法
肥満は軟口蓋や喉に脂肪がついて気道を塞いでしまうため、睡眠時無呼吸症候群(SAS)となる原因のひとつです。
肥満により睡眠時無呼吸症候群(SAS)になった方は、減量療法を実行することで脂肪が落ちて、症状の改善が期待できます。また、減量療法により、高血圧や糖尿病・脂質異常症などの心血管疾患を改善させる可能性もあります。
減量療法には、食事療法と運動療法の2種類があり、このどちらか、もしくは両方をおこない体重を減らすことが求められます。
運動療法では、体重の減少が見fられなくても睡眠時無呼吸症候群(SAS)の症状が改善することが特徴です。これは、筋肉に繰り返し負荷をかける「レジスタンス運動」により、呼吸器筋が鍛えられ肺気量が増加するためだと考えられています。減量というと有酸素運動に力を入れがちですが、有酸素運動と並行してレジスタンス運動を取り入れることが大切です。
生活習慣を改善して睡眠時無呼吸症候群(SAS)の症状を軽減する減量療法効果的だ、と多くの研究結果が示しています。しかし、生活習慣の改善のみでは体重の10%以上を減量することは難しく、症状を大幅に改善するほどの効果は見込めません。
そのため、減量療法だけでなく、必ず他の治療法と組み合わせて実施するようにしましょう。
耳鼻咽喉科的手術
耳鼻咽喉科的手術とは、気道を塞ぐ要因となる口蓋垂、口蓋扁桃、軟口蓋の一部を切除することです。
CPAP治療やOA治療ができない症例の場合に推奨されます。
耳鼻咽喉科的手術による副作用は、ほとんど報告されていません。
睡眠時無呼吸症候群(SAS)の手術については、「【本当に治るの?】睡眠時無呼吸症候群の手術について」にて解説しています。
睡眠時無呼吸症候群(SAS)の治療とQOLの関係
睡眠時無呼吸症候群(SAS)は、いびきや無呼吸などにより睡眠の質が低下するため、日中に強い眠気を感じます。その結果、常に倦怠感を感じて集中力が下がり、仕事や家庭がうまくいかずQOL(生活の質)が低下します。
また、夜間のいびきは家族の眠りにも影響を与え、家族関係が悪化することもあり、患者本人のQOL低下の遠因になります。うつ病などの精神疾患を併発するケースも多く報告されているため、睡眠時無呼吸症候群(SAS)とQOLは切っても切れない関係です。
睡眠時無呼吸症候群(SAS)の治療とQOLの関係は、いくつかの調査がされています。例えばCPAP治療であれば、すべての患者に効果を期待できるわけではないとしながらも、眠気の改善とともに眠りに対する印象も改善するため、QOLが上がるとしています。
ただし、睡眠時無呼吸症候群(SAS)とQOLの関係を断定的に語るのは困難です。QOLは包括的かつ多面的な指標なので、睡眠時無呼吸症候群(SAS)によりQOLが下がっていると判断するのは難しいためです。
CPAP治療により睡眠の質が改善しても、インターフェースを装着する煩わしさによりQOLが低下して、眠気改善によるQOLを相殺してしまうと考えることもできます。
睡眠に悩んでいる方は、睡眠時無呼吸症候群(SAS)の治療により睡眠が改善され、結果的にQOLも改善される可能性があるという程度に覚えておくといいでしょう。
睡眠不足が引き起こすさまざまな影響や解消法については、「睡眠負債とは?睡眠不足が及ぼす深刻な影響や解消法などを解説!」にて解説しています。
睡眠時無呼吸症候群(SAS)の治療と睡眠薬の関係
睡眠時無呼吸症候群(SAS)は、不眠も症状のひとつなので、睡眠薬は処方されるのかと気になる方も多いと思います。睡眠時無呼吸症候群(SAS)患者に不眠の症状が現れる確率は39~55%と言われていて、少なくはない数字です。しかし、治療の初期段階では睡眠薬を使用せずに、睡眠時無呼吸症候群(SAS)そのものの治療が優先されます。
睡眠薬を使用すると気道の緊張が低下して、いびきや無呼吸などの回数や時間が増えると調査で示されているためです。しかし、CPAP治療の場合は、不眠がCPAPの使用時間に影響を与えるため、睡眠薬を服用する事例も多くなっています。
睡眠時無呼吸症候群(SAS)と車の運転について
睡眠時無呼吸症候群(SAS)の患者は、睡眠の質が低下することにより日中に強い眠気を感じるため、車の運転による事故リスクが上昇します。特に、意図せず日中に居眠りをしてしまう中等~重症の眠気を有する場合や、眠気・疲労・不注意による事故もしくはニアミスが最近生じた方は、早期に治療を受けるべきです。
診療ガイドラインでは、リスクが高い運転者はなるべく早く(1か月以内が目標)、終夜睡眠ポリグラフ検査による睡眠障害の有無と重症度についての診断を受けることを推奨しています。
また、カナダの睡眠時無呼吸症候群(SAS)に関するガイドラインも同様の内容です。EUのガイドラインではもう少し踏み込んで、中等症~重要の睡眠時無呼吸症候群(SAS)患者は、適切な医学的管理がなされるまでは運転しないことと勧告しています。
睡眠時無呼吸症候群(SAS)を治療する前後を比較した研究もおこなわれています。CPAP治療をおこなった患者は、事故やニアミスの頻度・シミュレーター上での追突回数が減少しました。ただしCPAP治療以外では研究データが存在しないため。事故リスク抑制のためにCPAP以外の治療をすることは適切ではありません。
まとめ
睡眠時無呼吸症候群の診療ガイドラインは、医師が診断や治療の参考にするためのものです。
専門用語が多く読み進めるのは大変ですが、一般には出回っていないような睡眠時無呼吸症候群(SAS)に関する詳しい情報を得られます。
特に、治療法ごとの効果や副作用などは確かなエビデンスを元に詳しく記載されているため、治療が不安な方は読んでみるといいでしょう。
よくある質問
Q.睡眠時無呼吸症候群(SAS)の治療法には何がある?
A.CPAP治療やOA治療、減量療法・耳鼻咽喉科的手術が一般的であり、重症度などにより治療法を使い分けます。
Q.睡眠時無呼吸症候群(SAS)はどんな人がなる?
A.調査の方法により発病率は異なりますが、高齢者及び男性で有病率が高いという結果が出ています。睡眠負債は睡眠時無呼吸症候群(SAS)の重症度については【あなたはどれくらい?】睡眠時無呼吸症候群の重症度についてにて解説しています。