睡眠のメカニズム
まずは、普段私たちがどのようにして眠気を感じ、そして眠りについているのか、睡眠のメカニズムについて解説していきましょう。ポイントは、「体温」です。
体温の基礎知識
人間には、概日リズム(サーカディアンリズム)という体内時計が備わっていて、体で起こるあらゆる生理的現象は、この概日リズムによってコントロールされています。体温も、そのうちのひとつです。概日リズムの影響を受け、1日の中で上がったり下がったりしています。
みなさんは体温というと、脇に体温計を挟んで測定する体温を想像すると思いますが、厳密にいうと体温には種類があります。以下をご覧ください。
- ・深部体温:脳や内臓などの体の内部の温度。体温計を脇に挟み、10分程度たったときの温度と同じくらいとされている。
- ・皮膚温度:体の表面の温度。
通常、人間の体温は昼間に高く、夜は低くなります。これは、日中に体温を上げてアクティブに活動し、夜は体温を下げてクールダウンすることで体を休ませる、という概日リズムのコントロールによるものです。しかし、これは深部体温に限った話。皮膚温度は逆で、昼間に低く夜は高くなります。
睡眠と体温の関係
では、どうして深部体温と皮膚温度は、昼と夜で対照的な変化をするのでしょうか?
人間の体温は、「筋肉や内臓による熱産生」と、「手足からの熱放散」によって調節されています。つまり、深部体温と皮膚温度は、以下のように昼と夜で体温を調節し、状況に応じた適温を作り出しているのです。
- ・昼:深部体温が高く、皮膚温度が低くなる
- →手足からの熱放散を抑えて体の内側の温度を上げ、活動的にする
- ・夜:深部体温が低く、皮膚温度が高くなる
- →内臓を休ませるために内部の温度を下げ、手足から熱を放散させて外に逃す
眠くなると手足がポカポカと温かくなるのを、誰しも経験したことがあるでしょう。これは、深部体温を下げるために、手足に集中している毛細血管から熱放散が行われているからです。
すなわち、夜スムーズに眠りにつくためには、この深部体温を下げ、皮膚温度を上げるという変化を促してあげることが肝心なのです。
しかし、人間の体温は概日リズムによってコントロールされていますが、同時に恒常性(ホメオスタシス:外界の変化によらず、体温や血流などの体内の状態を一定に保つ働き)によって維持されています。ましてや、体の内側は筋肉や脂肪といった、遮熱作用のある組織で覆われているため、深部体温はそう簡単に変化しません。ですが、この深部体温すらも動かすことができる、強力なスイッチがあります。それが、入浴です。
体温と睡眠の関係性についてはコチラのコラムでも解説しているので、ぜひ参考にしてみてください。
快眠に導く入浴の体温コントロール
入浴すると、血流が促進されて体全体が温まり、深部体温が上昇します。
「眠りやすくするには、深部体温を下げることが大切なんじゃないの?」と思ったそこのあなた、重要なポイントはここからです。深部体温には、大きく上がるとその分大きく下がろうとする性質があります。
ある実験では、40℃のお湯に15分入った後に深部体温を測定すると、0.5℃上昇したと報告されています。すなわち、入浴によって深部体温を意図的に上昇させることで、入眠時に必要な深部体温の下降が大きくなり、快眠につながるのです。
「深部体温を上げるなら、寝る前の運動でも良いのでは?」と思った人もいるでしょう。確かに、運動も入浴と同様に深部体温を上昇させる効果があります。しかし、運動をすると交感神経が刺激されてしまうため、質の良い眠りには不向きです。
これに対し、入浴は副交感神経が刺激されてリラックスすることができる上、血流が促進されることによる疲労回復効果も期待できます。ですので、良質な眠りのために入浴することは、とても理にかなっている方法といえるのです。
誰でもできる!睡眠の質を上げる快眠入浴法
では、ここからは睡眠の質を上げる快眠入浴法をお伝えします。誰でも簡単にできるので、ぜひ真似してみてください。
入浴のタイミングは就寝の90分前がベスト
まず、入浴は就寝の90分前に済ませるようにしましょう。上記でも説明したように、深部体温を意図的に上昇させて下降を促すことが、この入浴法の最大のカギです。そして、一度上昇した深部体温が下降するには、少々タイムラグがあります。それが、約90分なのです。
すなわち、就寝する90分前に入浴を済ませておけば、深部体温が下降するタイミングでちょうど寝床に入ることができ、スムーズに入眠することが可能となります。以下に、午前0時に就寝したい人のタイムスケジュールを記載しておきます。ご自分の睡眠スケジュールに合わせて、アレンジしてみてください。
- ・22:00:入浴→深部体温、皮膚温度ともにアップ。
- ・22:30:入浴終了→深部体温がしっかり上昇。汗をかくなどして手足からの熱放散スタート。
- ・0:00:寝床に入る→上昇した深部体温は元に戻り、さらに下降。このタイミングでベッドに入るのが理想的。
- ・0:00:入眠→深部体温はしっかり下降し、スムーズな眠りへ。
40℃のお湯に15分浸かる
体をじっくりと温め、深部体温を効果的に上昇させるためには、ぬるめのお湯がベストです。ですので、お湯の温度は40℃に設定しましょう。ぬるめの方が、副交感神経が優位になるのを助け、脳の興奮を鎮めてリラックスすることができます。
逆に、42℃以上のような熱いお湯に浸かると、交感神経が刺激されてしまい、体の負担も大きくなります。また、40℃未満のぬるすぎるお湯では、深部体温がしっかり上がりきらず、その分下降も緩やかになってしまい、快眠にはつながりません。
そして、入浴時間は10分〜15分程度がおすすめです。長すぎると疲れすぎることになりますし、5分以下の烏の行水では深部体温が上がりきる前に湯船から出ることになります。
快眠のために、「40℃のお湯に15分浸かる」ゆっくり入浴法を、この機会にぜひ試してみてください。
お湯に浸かる時間がないときはシャワーでもOK
中には、「忙しくて、寝る90分前に入浴するなんてできない!」という人もいるでしょう。そんな人は、シャワーで済ませるのもOKです。むしろ、寝るまでにそこまで時間を取れない人は、上記で紹介した快眠入浴法は逆効果になります。
繰り返しになりますが、この快眠入浴法の肝は、深部体温を意図的に上昇させて、下降を促すことです。そして、上昇した深部体温が低下するには約90分かかります。
つまり、就寝まで時間がない状態で深部体温を上げすぎてしまうと、深部体温が下がりきっていない状態でベッドに入ることになり、なかなか眠りにつけず、睡眠の質を下げることにつながります。
そのため、寝るまでの時間を確保できない人は、深部体温を上げすぎないことが大切です。湯船には浸からず、さっとシャワーだけで済ませましょう。もしくは、入浴時間も短時間にしたり、お湯の温度を40℃よりもさらにぬるめに設定したりするのでも構いません。そうすれば、深部体温が上昇しすぎるのを防ぎ、睡眠の質を維持することができます。
入浴以外でもできる体温コントロール法
深部体温を上げ、下降してきたタイミングで布団に入る快眠入浴法は、質の良い眠りを導くだけでなく、疲労回復やリラックス効果も期待できます。
そして、以下の2つの方法でも、深部体温をコントロールして良質な睡眠を手に入れることができます。
寝る前の足湯
上記で、「入浴する時間がない場合は、シャワーで済ませる」とお伝えしましたが、シャワー以上に効果的な体温コントロール法があります。それが、足湯です。
足湯は、入浴ほどの深部体温の上昇効果はありませんが、そのぶん足先からの熱放散が促進されるため、深部体温を効率よく下げてくれます。
また、快眠入浴法は就寝する90分前に行うというルールがありますが、足湯の場合は90分も時間を確保する必要はありません。だいたい就寝する30分〜60分前に行えば良いので、時間がない人には断然こちらの方がおすすめです。
以下に、深部体温を効率よく上げて快眠につながるおすすめ足湯法をまとめたので、ぜひ参考にしてください。
- ・就寝の30分〜60分前に行う
- ・たらいや風呂桶に40℃〜42℃のお湯をはる
- ・10分〜15分足湯をする
- ・自分の好きな入浴剤やリラックスするアロマ、バスソルトなどを入れるのも効果的
就寝前の靴下
「足が冷たくて眠れない」という人や、「せっかく入浴で体を温めても、すぐに足が冷えてしまう」という人は多いですよね。このような冷え性で悩んでいる人は、手足などの末梢血管が収縮しているため、せっかく入浴で深部体温を上げてもうまく熱放散が起こらず、スムーズに入眠することが難しくなります。そんな人におすすめなのが、寝る前の靴下です。
靴下を履くことで、足を温めて末梢血管を広げ、熱放散を効率よく行うことができます。ですので、冷え性ですぐに足が冷えてしまうという人は、入浴後足がまだ温かいうちに靴下を履き、血行を良くするという方法がベターです。
ただし、ここで重要な注意ポイントがあります。冷え性で悩んでいる人の中には、寝ている間も靴下を履くという人がいますが、靴下を履いたまま寝るのはNGです。
先ほどの、快眠入浴法を思い出してください。今回の入浴法は、お湯に浸かることで意図的に深部体温を上げ、その後下げることで良質な睡眠につなげるというのが要です。そして、上昇した深部体温を下降させるのに重要な役割を果たすのが、手足の毛細血管から熱を逃す熱放散です。
つまり、靴下を履いたまま寝てしまうと、足からの熱放散が妨げられてしまいます。これは、眠りの質の低下にダイレクトにつながり、せっかくの入浴法も台無しです。
ですので、靴下を履くのはあくまでも「寝る前」まで。布団に入ったら靴下を脱ぎ、足からの熱放散を促すようにしましょう。おすすめの靴下の使い方は、以下の通りです。
- ・寝る1〜2時間前から履く→入浴後まだ足が温かいうちに靴下を履き、血行を良くするのがおすすめ
- ・靴下は、ゆったりとして締め付けないものを選ぶ
- ・あわせて、ストレッチやフットマッサージなどを行うと、より血行が促進されるのでGood
- ・寝ている間の靴下はNG。布団に入ったら靴下を脱ぎ、足からの熱放散を促す
まとめ
今回は、睡眠における体温の役割と、睡眠の質を上げる快眠入浴法について解説しました。
入浴には快眠効果だけでなく、疲労回復効果やリラックス効果など、さまざまな健康効果が期待できます。今回お伝えした快眠入浴法はとても簡単で、誰でも明日から始めることができるので、睡眠に悩みをお持ちの人はぜひ真似してみてください。
よくある質問
Q.睡眠と体温にはどのような関係がありますか?
A.体温には、深部体温と皮膚温度があり、深部体温が低下、皮膚温度が上昇したときに私たちは眠気を感じ、自然と眠りにつきます。
Q.快眠のためには、どのタイミングで入浴するのがベストですか?
A.入浴によって上昇した深部体温が下降するには、90分程度かかります。ですので、布団に入る90分前に入浴を済ませることで、ちょうど深部体温が下がったタイミングで寝床につき、スムーズに入眠することができます。
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