バクは本当に夢喰いする動物なの?
実際に現実世界に生息するバクは、本当に夢喰いする生き物なのでしょうか。
まずは、バクの本当の姿について詳しく解説します。どのような生物なのか、基礎知識としてチェックしてみてください。
夢を食べる伝説の生き物は「バク」ではなく「獏」
結論として、現実にいる生き物である「バク」は、夢を食べません。夢を食べるといわれているのは、伝説の生き物として知られている「獏(ばく)」の方なのです。
「バク」と「獏」は、似て非なる存在だとご存じでしょうか。名前はほぼ同じですが、次のような違いがあります。
- ・バク:鼻がゾウのように長く、体がブタに似ている哺乳類
- ・獏:夢を食べる空想上の生き物
確かに、伝説の生き物「獏」は動物の「バク」をモチーフにしていると思われますが、まったくの別物です。この記事では、なぜバク・獏が夢喰いされるといわれだしたのか、その由来や歴史も解説しているので、興味がある方はぜひ読み進めてみてください。
現実にいるバクは夢ではなく植物を食べる
ちなみに現実にいる動物のバクは、夢ではなく「植物」を食べて生活しています。例えば、木の葉や細い枝、果物などを食べて生活しているのが特徴です。
また、動物園で飼育されているバクの一種「マレーバク」は乾草や果物、野菜、動物用のドライフードなどを食べて暮らしています。食欲旺盛な動物なので、動物編などへ行けば食事中の姿をみることも可能です。
バクが夢喰いするといわれるようになった理由
そもそも、なぜバクは夢喰いするといわれるようになったのでしょうか。
バクが伝説の生き物「獏」として認識されだしたきっかけを、歴史のお話を混ぜながら説明します。中国におけるバクの考えられ方、そして日本人の夢に対する考えがなぜバクと夢を紐づけたのか、その理由を詳しくみていきましょう。
バクは日本にやって来てから夢を食べるといわれだした
バクが夢喰いすると伝わり始めたのは、日本が中国との貿易に力を入れ出した時期のことです。国同士の交友を深めるために「その地方に生息する動物」を送り合うのは今も昔も変わりませんが、当時は中国に生息していたバクも貿易品(貿易用の動物)の対象でした。
そして、バクが日本にやってきたころ、複数の生き物をツギハギにしたような見た目に驚いた日本人たちから「伝説の生き物である」「夢を食べる生き物だ」という話が出回るようになったのです。ではなぜ、夢を食べるといわれだしたのでしょうか。背景には、当時の日本にあった「睡眠に対する考え」が関係していたのです。
室町時代の歴史がバクを夢喰いにした
「バク=夢喰い」のルーツを探るためには、室町時代にまでさかのぼらなければなりません。
当時の日本はまだ「戦」や「争い」の激しい世界でしたので、ゆっくり休んで安心して眠れる場所は寝室だけだったのです。野宿などをする人もいましたが、野党に襲われやすいことはもちろん、追いはぎに合いやすいということで安心して眠りにつけません。
そういった理由もあり、昔の人たちは枕に対し深いこだわりをもっていました。また安全の確保のために、枕の下にものを潜ませることができる「獏枕」という言葉があったことから、輸入された動物「バク」と「獏枕」が紐づいて、縁起の良い動物だと伝わり始めたのです。
江戸時代まで進むと縁起の良い動物ということで、寝具や歴史書などにバクが描かれるようになりました。そして「バクは寝具に関る縁起の良い生き物である、つまり悪夢を食べてくれる」という考え方が広まるようになり、自然と「夢喰いする生き物」として定着していったのです。
古代人は睡眠に力を入れていた
日本では、古くから睡眠に対して強いこだわりをもっていました。良い睡眠を求めるため素材、製造方法などにこだわっていたのはもちろん、海外の技術を取り入れるといった工夫が取られていたのです。
また、日本には八百万(やおよろず)の神様を表す神道という宗教がありました。もちろん、睡眠に関する道具にも神様が宿るという考えがあったので、夢をつかさどる動物(幻の生き物)としてバクを霊獣として信じられ始めたのです。
千年以上前から続く「考え」は、今でもバクのイメージとして伝わっています。中には、イラスト化されたり商品化されたりと現代でも「バク=夢喰い」と認識されており、伝承の長さをみるだけでも古代人の「睡眠」に対するこだわりが分かりますね。
生き物であるバクの生態
伝説の生き物「獏」のお話だけでなく、動物としての「バク」の特徴もご紹介します。
夢喰いではなく、実際にどのような生活をしているのか詳しくみていきましょう。
生活
バクは主に森林で生活する生き物です。熱帯雨林といった高温多湿な環境で生息することが多く、夜行性の傾向があります。
またバクは水辺を好む動物であり、太陽光や高温な環境、寄生虫から身を守るために水中から顔だけを出して過ごすこともあるようです。基本的には単独行動を好み、子どもを育てる母親以外は離れた場所で生活しています。
分布
バクは主に、南・北アメリカ大陸および東南アジアに生息する動物です。もともと日本に生息する動物ではなく、古代人の貿易によって中国から日本へやってきました。
種類・分類
哺乳類である獏は「奇蹄目の現生3科(ひづめをもつ生き物)」のうち、バク科にあたる動物です。ちなみに奇蹄目の現生3科にはサイ科、ウマ科があり、バクはサイやウマと親戚同士の関係にあります。
ゾウやブタのような見た目をしていますが種としての分類はイメージを外れ、違う動物と関りがあるようです。
サイズ・体重
バクといえば小柄な見た目を想像しますが、成獣になると体長1.7~2.0mと人間よりも巨大になるのが特徴です。また、体重も100kgを超えるものが多く、かなり巨大な動物だということが分かります。
皮膚はサイのように分厚く、灰色の見た目が一般的です。ただし、日本人としてなじみ深いマレーバクは胴体とお尻、頭で白黒に色が分かれています。少しジャイアントパンダに似ていることから、当時はパンダの一種だと思われていたこともあったようです。
寿命
バクの寿命はおおよび25~30年程度だといわれています。陸上で生きる動物の中でも比較的寿命が長く、同じ種であるウマとほとんど寿命が変わりません。
幻獣としての獏の概要
幻獣として考えられてきた「獏」は、動物のバクとまったく異なる幻の生き物です。
具体的にどのような生き物として考えられていたのか、概要を詳しくご紹介します。
中国発祥の幻獣
獏はもともと中国発祥の幻獣です。当時から伝説の生き物として親しまれていましたが、どのような動物なのかについては、文献が一定しません。
例えば「説文解字」という最古の漢字辞典には「熊に似て黄黒色、蜀中(四川省)に住む」と記されていたり、「郭璞注」という歴史史書には「熊に似て頭が小さく脚が短く、黒白のまだらで、銅鉄や竹骨を食べる」と記されていたりします。
また、獏が夢を食べるというお話はもともと中国にあった、日本にやってきてから生まれたというように、諸説あるのも事実です。ただし、動物をツギハギにしたような動物のバクの見た目から、どの国でも幻獣として扱われていたということが古い文書からも分かるでしょう。
獏は「混ぜもの」という意味
バク・獏という名称のルーツをたどると、東南アジアのタイに行きつきます。バクはタイ語で「混ぜもの」という意味があり、いろんな動物をツギハギにした見た目から名付けられたのでしょう。
歴史書の中には「神様が地上の生き物をつくる際、余ったパーツでつくられたのがバク」という伝承があるなど、面白い理由で名付けられた生き物だといえます。
夢喰いの獏が登場するコンテンツ
夢喰いする獏は、現代でもイラストやキャラクターとして親しまれています。
参考として、獏が登場するコンテンツを4つ整理しました。現代における獏の捉われ方を知るために、ぜひコンテンツをチェックしてみてください。
逆転オセロニア|夢喰い獏(ゆめくいばく)
オセロとトレーディングカードゲームを組み合わせた人気スマホアプリ「逆転オセロニア」というゲームのキャラクターとして「夢喰い獏」が登場します。夢をイメージする色鮮やかな雲、マレーバクをイメージした見た目をしており、頭にナイトキャップをかぶっているのが特徴です。
「獏=夢」という考えがゲームにも反映されていることがよく分かりますね。
ポケットモンスター|スリープ
有名人気ゲームの「ポケットモンスター」にも獏に関連したキャラクター「スリープ」が登場します。スリープは黄色い見た目のバクであり、戦う際に「ゆめくい」「さいみんじゅつ」といった技を使うのが特徴です。
2足歩行するキャラクターであり、ポケットモンスター初代から何十年も登場し続ける人気キャラクターだといえます。
ボケットモンスター|ムンナ
「ポケットモンスター」のゲームは、前述したスリープとは別に「ムンナ」というキャラクターが登場します。ムンナはスリープよりも獏に近い見た目をしており、空中にふわふわと浮く姿、紫色の煙を出している姿からも、夢がモチーフにされていると分かるキャラクターです。
VOCALOIDオリジナルソング|夢喰い白黒バク
音楽コンテンツのジャンルである「VOCALOID」の人気曲に「夢喰い白黒バク」という作品があります。楽曲中にも夢の話が登場することからも分かるように「バク=夢」が紐づけられているのが分かるでしょう。
バクが登場する物語
古くから日本と関りのあるバクは、物語の中にも登場します。
有名な書籍を2つご紹介するので、興味をおもちの方はぜひ作品をチェックしてみてください。
笹間良彦|図説・日本未確認生物事典
笹間良彦の図説・日本未確認生物事典は、日本にいる未確認生物がまとめられた面白い書籍です。幻人・幻獣・幻霊の話がまとめらており、各生物の生態や文献などがまとめられています。
合計114種類の生き物のひとつにバクもまとめられているので、ぜひ書籍をチェックしてみてください。
鈴木棠三|日本俗信辞典 動・植物編
鈴木棠三の日本俗信辞典 動・植物編は、世の中に伝わる言い伝えや迷信がまとめられた書籍です。民俗学の知識を活かして、その俗信が正しいものなのか、どこからやってきたのか記されています。
本書には、動物・植物を中心とした俗信がまとめられているため、ぜひバクの項目もチェックしてみてください。
まとめ
夢喰いする動物だとイメージされている「バク」ですが、実際には夢を食べることはなく、ウマやサイのように草食で現実を生きる動物です。また、夢を食べるのは幻獣として世の中に伝わった「獏」の方であり、古い歴史や宗教、日本由来の考えによってバクが獏となり夢を食べるといわれ始めました。
夢やいびきといった行為には、古くから幽霊や幻獣が関っていると伝わっています。睡眠に関する面白い知識として、ぜひ睡眠に関する面白い知識を集めてみてください。
また、睡眠に関する豆知識を知りたい方は以下の記事がおすすめです。あわせて読んでみてください。
よくある質問
Q.バクは本当に夢喰いするの?
A.夢喰いの真実については「バクは本当に夢喰いする動物なの?」で詳しく解説しています。
残念ながら、現実世界にいるバクは夢喰いをしません。南北アメリカ大陸および中東アジアに生息する動物であり、植物を好んで食べます。ちなみに夢喰いすると信じられているのは幻獣の「獏」です。
Q.バクはどんな生き物なの?
A.バクの生態を「生き物であるバクの生態」で詳しく解説しています。
バクは体長1.7~2.0m、体重100kgを超える巨大な動物です。サイやウマと同じ種族であり、ゾウのような鼻、豚のような体をしています。