睡眠を司る体内時計の話
日光には、人間のあらゆる機能を司る体内時計を正常に働かせる機能があります。まずは、その体内時計、特に睡眠に大きく関わっている「サーカディアンリズム」について解説していきましょう。
サーカディアンリズムって何?
サーカディアンリズム(概日リズム)とは、体内時計の中で特に入眠や覚醒のタイミングを決定する、睡眠にとって非常に重要なシステムです。人間は、サーカディアンリズムに合わせて体温やホルモンの分泌を調節します。夜になると自然と眠くなり、そして朝になると何もしなくても目が覚めるようにコントロールされています。
しかし、盤石に見えるこのサーカディアンリズムには、ひとつ大きな欠点があります。サーカディアンリズムは、地球の自転に合わせて約24時間周期で働いています。ですが、実際は24時間ピッタリに働いているわけではありません。厳密にいうと24時間20分で、地球の自転よりも20分ほどわずかに長いのです。
もちろん、このズレは何もしなければいつまでも修正されません。放っておくと少しずつ体内時計が後ろにずれ、いつしか地球の明暗周期に合わなくなってしまいます。それを修正しているのが、日光なのです。
日光はサーカディアンリズムのズレをリセットする
日光には、サーカディアンリズムのズレを修正する働きがあります。重要なのが、日光に含まれるブルーライトです。
ブルーライトとは、可視光線の中でも最も波長が短い青色の成分を持つ光です。他の可視光線と比べてエネルギーが強い光で、網膜の奥までしっかりと届く性質があります。そのため、日光は、次のようなプロセスをたどり、サーカディアンリズムのズレを修正します。
- 1.日光(ブルーライト)が網膜に入る
- 2.網膜に入った光の情報が脳の視交叉上核(しこうさじょうかく)に伝達される
- 3.情報が松果体(しょうかたい)に伝わり、睡眠ホルモンであるメラトニンの合成・分泌が抑制される
上記のように、朝起きて日光を浴びることで、脳は「朝が来た」ことを認識し、サーカディアンリズムのズレを解消して私たちに覚醒を促します。
現代人は体内時計が乱れがち
人間には、サーカディアンリズムによって睡眠をコントロールする機能が備わっています。これには、サーカディアンリズムのズレを修正する日光の存在が欠かせません。
しかし、現代人は体内時計が乱れ、睡眠不足に陥りがちになっています。どうして、こんなにも睡眠に問題を抱える人が増えているのでしょうか?それには、ブルーライトの落とし穴が大きく関係しています。
ブルーライトの落とし穴
先ほど、ブルーライトはサーカディアンリズムのズレを解消する働きがあると説明しました。ブルーライトは強いエネルギーを持つ光であるため、目の奥まで届きやすく、眠っている私たちを目覚めさせるほどの強い覚醒作用を持ちます。
本来であれば、これほど強い光を浴びるタイミングは、太陽が出ている間しかありません。しかし、技術が発展した現代では、そのブルーライトを夜も浴びてしまうことがあるのです。
夜中のスマホが体内時計を乱す
日光に含まれるブルーライトは、睡眠ホルモンであるメラトニンの働きを弱め、覚醒を促します。ですが、ブルーライトを含んでいるのは日光だけではありません。スマートフォン・パソコン・テレビなどのデジタルデバイスや、LEDライトもブルーライトを発しています。
人間の体内時計システムは、このようなデジタル機器のない太古の時代に形作られたものなので、本来太陽が出ていない夜にブルーライトを浴びることは想定されていません。そのため、夜中に長時間スマホなどを使用することによって、目から大量のブルーライトが取り込まれると、脳は夜にもかかわらず「朝だ!」と勘違いして、覚醒を促そうとします。
これにより、就寝時刻になっても一向に眠くならず、寝つきが悪くなります。ようやく眠れたとしても睡眠時間が短くなるため、寝不足になってしまうのです。
体内時計が乱れたままだと…
体内時計が乱れたままだと、夜になってもなかなか寝つけず、朝起きたくても起きられないようになります。そして、いずれ地球の明暗周期に合わせて寝起きすることが難しくなり、昼夜逆転の生活を送るようになります。これが、「概日リズム睡眠・覚醒障害」です。
概日リズム睡眠・覚醒障害
概日リズム睡眠・覚醒障害とは、睡眠障害の一種で、適切な時間に寝起きできなくなる病気です。
もともと患者の多くは、メラトニンの分泌が低下する高齢者でしたが、最近は中高生や若者も患うようになりました。主な原因は、以下の通りです。
- ・夜遅くまでの残業や勉強
- ・夜勤やシフト勤務による昼夜逆転
- ・SNSやゲームなどによる夜ふかし
- ・24時間営業の店舗が増えて、夜になっても街が明るい
一見、ただの寝不足や生活習慣の乱れと捉えられがちですが、放置するとさらに悪化し、日常生活に大きな影響を及ぼすようになります。もし症状に心当たりがある場合は、すぐに近くの精神科や心療内科、睡眠外来を受診して治療を受けるようにしましょう。
ブルーライトは浴びるタイミングが重要
ブルーライトは、私たちの体内時計のずれを解消し、覚醒を促す私たちの生活には欠かせないものです。しかし、使い方を間違えるとそのメリットはデメリットに変わり、不眠や寝不足につながることがあります。
だからといって、スマホやパソコン、テレビなどのデジタル機器が日常生活にこんなにも普及した現代では、ブルーライトを完全に避けて生活することは不可能です。部屋の照明も、LEDライトを使用することが一般的になってきました。
そこで大切なのは、ブルーライトを浴びるタイミングを間違えないようにすることです。ブルーライトをうまく使いこなせるようになれば、睡眠の質を向上させ、気持ちの良い目覚めを手に入れることも難しくありません。
以下の記事でも、ブルーライトの思わぬ落とし穴と、重要性について解説しています。こちらもぜひ参考にしてください。
ぐっすり眠ってスッキリ目覚める!おすすめの光の取り入れ方
では、具体的にどのようにすれば良い眠りと目覚めが手に入るのでしょうか?夜寝るときと、朝に行うと良いルーティンをご紹介します。
スマホは寝る2時間前まで
夜寝る前のスマホは2時間前まで、少なくとも1時間前までに終えるようにしましょう。寝る前のスマホは、ブルーライトによる覚醒を促し、あわせて長時間の使用によって交感神経を活発にさせて、眠りにくくする作用があります。
そのため、寝床についてもダラダラとスマホを見てしまうという人は、覚醒が促されてしまうためやめましょう。やめるタイミングがわからないという人は、アラームをかけたり、時間になったらスマホにロックがかかるアプリを活用したりするのがおすすめです。
また、どうしても夜遅くにスマホやパソコンなどを操作しなければいけないときは、ブルーライトカットメガネや、ディスプレイ画面に貼るブルーライト軽減シートなども、効果が見込めます。自分に合ったアイテムを活用して、ブルーライトの影響をできるだけ抑えるよう工夫してみてください。
暖色系の照明で睡眠モードに切り替える
最近は、LEDライトが普及し、部屋の照明にも使用することが増えました。ですが、それだと寝る直前までブルーライトを浴び続けることになるので、なかなか寝つくのが難しくなります。
そのため、夜間に使用する照明は、LEDライトのような白色光ではなく、暖色系の赤みがかった照明に切り替えましょう。ブルーライトは波長が短く、エネルギーが強いのが特徴でしたが、逆に暖色系の光は波長が長いため、サーカディアンリズムへの影響を最小限に抑えることができます。
そしておすすめなのが、天井から直接照らすのではなく、間接照明を使用することです。足元や家具の後ろから優しく照らすことで、より刺激を抑え、眠りやすくする効果が期待できます。
朝起きたらカーテンを開ける
朝起きたら何よりも先にカーテンを開けて、日光を全身に浴びましょう。こうすることで、日光に含まれるブルーライトが覚醒を促し、睡眠ホルモンであるメラトニンの働きを抑制してくれます。
このとき、よりスッキリ目覚めようと太陽の光を直接見るのは、目を痛める危険があるので控えてください。直接目で見なくても、覚醒に必要な光は目に届いているので問題ありません。
また、曇りや雨で太陽が見えなかったとしても、十分に覚醒効果を得ることができます。毎朝数分間の日光浴が、気持ちの良い朝をもたらしてくれるでしょう。
日中の活動中も積極的に日光を浴びる
昼間仕事をしている間などは、どうしても室内にこもりがちになってしまいます。ですが、日中もなるべく日光を浴びるよう心がけましょう。
昼間日光を浴びて活動をすると、セロトニンというホルモンが分泌されます。このセロトニンは、メラトニンの原料となる成分で、日中に浴びる日光が多ければ多いほど、たくさん分泌されるようになります。
日光を浴びることにより、夜に分泌されるメラトニンの量も増え、寝つきも良くなって深い睡眠がとれるようになるのです。
そのため、昼間はなるべく時間を見つけて外に出るようにしましょう。特に、天気が良いときの昼休憩は外で昼食を取ったり、軽く散歩をしたりすると効果的です。
まとめ
今回は、日光が睡眠にとってどれほど重要な働きをしているのか、解説しました。
日光には、体内時計のズレを修正して正しく機能させる働きがあります。私たちが地球の明暗周期に合わせて日常生活を送れるのは、日光のおかげです。
しかし、スマホやLEDライトなど、現代は身の回りに日光と同じブルーライトを発するものが増えました。そのため、本来浴びるはずのなかった夜に大量のブルーライトを浴びるようになった現代人は、覚醒が促され、眠りにくくなっている現状があります。
ゆえに、正しい睡眠習慣を維持するためには、ブルーライトとうまく付き合っていくことが大切です。夜は極力ブルーライトの使用を控え、朝は大いに活用して覚醒を促しましょう。これにより、睡眠の質を向上し、気持ちよく目覚めることが期待できます。
ぜひ、日光に含まれるブルーライトの特性を理解して、効果的に生活に取り入れてみてください。
よくある質問
Q.日光は睡眠に対してどのような影響を与えますか?
A.日光には体内時計のズレを修正し、正常に働かせる機能があります。また、覚醒を促し、睡眠ホルモンであるメラトニンの働きを阻害する働きもあります。
Q.睡眠の質を向上させる、効果的な日光の取り入れ方は?
A.日光には強い覚醒作用がありますが、夜中に長時間浴びてしまうと睡眠阻害につながります。そのため、夜はなるべくスマホなどの使用を最小限に抑え、朝はしっかり日光を浴びるようにしましょう。
また、日中も室内にこもらず、積極的に日光を浴びることが大切です。よりメラトニンの分泌が促され、夜に眠りやすくなります。