見たい夢を見ることはできる?
誰しも、「見たい夢を見られたらいいなあ」と考えたことがあるでしょう。ですが、実際にそんなことができるのでしょうか。
【結論】現段階では難しい
「見たい夢を見ることはできるのか」に対する答えですが、現段階では難しいというのが結論です。
仮に、事前の宣言と夢の内容が一致することがあったとしても、あくまでそれは偶然によるもので、それ以上の頻度で発生することはないとされています。同様に、偶然ではなく必然である(一定の法則やプロセスに従って発生している)と論理的・科学的に照明する根拠は未だ示されていません。
また、夢を見ているときに「これは夢だ」と自覚しながら、夢の内容を自分の好きなようにコントロールする「明晰夢(めいせきむ)」と呼ばれる夢もあります。これは、夢を見ながらその筋書きを自分の思い通りに書き換えて、夢を楽しむようになれるというものですが、こちらも未だ研究段階ではっきりしない部分も多いのが現状です。
そもそもどうして人は夢を見るの?
そもそも、どうして私たち人間は寝ている間に夢を見るのでしょうか?そして、夢とは何者なのでしょうか?
現在有力な夢の正体
「夢」に関しては、その存在が発見されてから現在に至るまで、世界中でさまざまな研究が行われてきました。しかし、その全貌は未だ明らかになっていません。
そのうえで、現在有力と考えられているのは、「夢の正体は、記憶を整理する際にこぼれ落ちた断片的な映像をつなぎ合わせたもの」とする説です。
私たちは、日々新しいものを見聞きすることでいろんなことを記憶していますが、脳が新たな情報を記憶し、定着する際には次のようなプロセスを踏んでいます。
- 1.脳に入った情報は、脳の「海馬」で一時保存される
- 2.必要と判断された記憶だけが、「海馬」から「大脳皮質」に送られる
- (不要と判断された記憶は「短期記憶」として忘れてしまう)
- 3.「大脳皮質」に転送された記憶が、「長期記憶」として保存される
そして、現在の研究では、「海馬」から「大脳皮質」へ記憶が転送される際に脳内で映し出された断片的な映像が「夢」ではないか、と考えられています。特に、過去に自分が経験したことがストーリー化されて、夢になっている可能性が高いとされています。
何のために夢を見る?
記憶が脳内で整理される際にこぼれ落ちた断片的な映像が夢だとするならば、なぜ脳はそれを夢として寝ている間に見せる必要があるのでしょうか?
これに関しても、まだ科学的に明確な根拠は判明していませんが、定期的にレム睡眠で脳を活性化させて交感神経を優位にすることで、「目覚め」とそれに伴う「覚醒」の準備を行っていると考えられています。
人間の睡眠には、深い眠りのノンレム睡眠と浅い眠りのレム睡眠があります。通常は、これらが交互に出現することで睡眠が形成されていますが、これまでの定説として、夢は浅い眠りのレム睡眠時に見ているとされてきました。
レム睡眠中はいわば、「体は寝ているが脳は起きている」状態なので、覚醒時のように脳の大脳皮質は活性化しています。実際、レム睡眠時に見ている夢を調べたところ、見ている夢に連動して大脳の手足を司る運動野の神経細胞が活性化するのが確認されています。
そして、明け方近くになるとレム睡眠の出現も増えてくるため、覚醒に合わせて脳を活性化させておくことで、起きたときスムーズに行動に移していると考えられています。
しかし、別の研究で夢はレム睡眠時に限らずノンレム睡眠時にも見ていることも判明しているので、「夢=覚醒の準備」という理論に疑問を呈する研究者もいます。
今後、更なる研究が進められることで、夢の正体や役割の全貌が明らかにされるのが期待されます。
悪夢=悪いもの?
「自分が見たい夢を見たい!」という気持ちの裏には、不安や恐怖を覚える悪夢にうなされたくない」という思いが少なからずあるでしょう。誰でも、悪夢にうなされて朝の目覚めを迎えたくはありません。
ですが、悪夢にはわざわざ見せなければならない理由があるのです。
上記で、「夢は、海馬から大脳皮質へ記憶が転送される際に脳内で映し出された断片的な映像で、過去に経験したことが夢の内容に影響を与えることが多い」と説明しましたが、記憶にはポジティブなものもあれば、ネガティブなものもあります。
例えば、近所の犬に吠えられて怖い思いをしたとしましょう。すると、その記憶が処理される際に夢として犬が出てきたり、そのとき感じた恐怖感が違う記憶と合わさって悪夢になったりしていると考えられます。
そして、人間だけでなく、動物も同じように夢を見ます。特に、自然界に生きる動物にとって、自分の命が脅かされる恐怖体験は、二度と繰り返したくありません。
そのために、「あの草陰で敵に遭遇した」という恐怖体験を夢によって脳に定着させ、その恐怖体験をした場所・状況を記憶することで危険を回避させていると考えられています。
まとめると、人間が悪夢を見るのは、不安や恐怖を感じた状況を夢として見せることで脳に刷り込ませ、危険を避けて安全に生き抜けるようにしていると考察することができます。
したがって、悪夢を見ることは決して悪いことではなく、悪夢を見たからといって一喜一憂する必要はないのです。
私たちは起きる直前の夢しか覚えていない?
仮に、悪夢を見て目覚めたとしても、落ち込む必要はありません。なぜなら、私たちは「起きる直前の夢」しか基本的には覚えていないからです。
突然ですが、人間は毎晩何種類の夢を見ていると思いますか?
現在の研究では、私たちは毎晩3〜5種類の夢を見ていると考えられています。さらに、明け方近くになるとレム睡眠の出現が増えることや、ノンレム睡眠時も夢を見ていることも踏まえると、実際は7〜8種類以上見ているともいわれています。
そんな複数ある夢の中で、私たちが起床時に思い出すことができるのは、起きる直前に見ていた夢ぐらいです。それ以前に見ていた夢を思い出そうとしても、多くの場合は忘れてしまっています。
ですので、もし起きる直前に悪夢を見ていたとしても、思い出せないだけでその前には良い夢や楽しい夢を見ていた可能性は十分考えられます。
つまり、入眠してから起床するまでずっと悪夢を見続けていることはほぼありえないといえます。ゆえに、悪夢を見て目を覚ましたとしても、そこまで気にする必要はありません。
【完全な眉唾ではない⁉︎】明晰夢が活用される可能性
上記で説明した「明晰夢」は、寝ている間に見る夢を「夢」だと自覚しているばかりか、その夢をコントロールできるといわれています。どこか現実離れしたような、荒唐無稽な話にも聞こえます。
しかし、明晰夢は悪夢障害を伴う「PTSD」の患者に対して活用できるのではないか、と研究が進められているのです。
悪夢障害を伴うPTSDに対する治療
明晰夢がとある疾患の治療に役に立つのではと研究が進められています。その疾患とは、悪夢障害を伴うPTSDです。
悪夢障害を伴うPTSDとは
PTSD(心的外傷後ストレス障害)とは、トラウマになる圧倒的な出来事(外傷的出来事)を経験した後、日常生活に大きな支障をきたす疾患です。
誰しも、恐ろしいことや辛いことが起こると、精神的な苦痛がしばらく続くことがあります。ですが、一部の人ではこの影響があまりにも長く続き、かつ強いために衰弱をもたらして精神障害にまで発展するケースがあります。
そして、中には精神的なトラウマが夢にまで現れることで、「悪夢障害」を発症する場合もあります。
こうした症状を訴える患者の多くは、毎晩のようにトラウマの要因になった出来事に関連した夢を見るため、眠ること自体に恐怖を感じたり、それに伴って不眠症を発症したりします。
悪夢障害を伴うPTSD患者に明晰夢が効果的な理由
上記のような悪夢障害を伴うPTSD患者に、明晰夢が有効な治療になるのではないかと、現在研究が進められています。
悪夢障害を伴うPTSD患者は、現実の世界で経験したトラウマが夢に現れ、さらに悪夢によってトラウマが呼び起こされて現実の世界での症状が悪化する、という悪循環に陥っていることが多いです。
そして、詳しくは後述しますが、明晰夢を見るトレーニングの基本は、見たい夢を明確にイメージしてから眠りにつくことで、良い夢を意図的に見ようと試みるものです。
夢には過去の記憶が大きく関わっていますが、トラウマによる悪夢以上に繰り返し見たい夢をイメージすることで、悪夢の出現頻度を減らし、十分な睡眠を取れるようにします。また、「見たい夢を見ることができる」「悪夢を見なくて済む」と脳に覚え込ませることで、睡眠に対する恐怖心を和らげる効果も期待できます。
こうした方法は、誤った認識(認知)を修正することで、正しい行動を取れるようにする「認知行動療法」を応用した方法で、心理カウンセリングでもよく用いられます。
したがって、適切な手順を踏んで正しく行えば、明晰夢が悪夢障害を伴うPTSDに対して、一定の治療効果が期待できるといえるでしょう。
効果が期待されている明晰夢を見る方法
では、実際に効果が期待されている明晰夢を見る方法を具体的に解説していきます。
MILD法
「MILD法(Mnemonic Induction of Lucid Dreams)」は、1980年にスティーヴン・ラバージ博士が提唱した方法で、記憶を誘導することによって明晰夢を見ることができるとされています。
具体的には、事前の「イメージ・リハーサル」と「リアリティチェックの習慣化」を行います。
イメージ・リハーサル
イメージ・リハーサルは、寝る直前に見たい夢を具体的にイメージすることです。関連するキーワードを書き出してみたり、イラストを描いたりすることで実行可能です。
また、寝る前にお気に入りのアーティストの曲を聴く、行きたい場所があるときはその風景写真を枕元に飾る、などの行動も効果が見込めるとされています。
リアリティチェックの習慣化
リアリティチェックとは、今自分のいる環境が夢か現実かを判断するものです。
例えば、夢の中で時計が少しでも動いていれば「現実」、全く動かなかったり、普通ではありえない動きをしたりすれば「夢」というように、「これは夢か? 現実か?」と判断できるよう練習を行います。
そして、最終的には「これは夢。だから現実の世界には影響がない」と思考できるようになれば、悪夢障害を解消し、PTSDからの回復に役立てることが期待できます。
まとめ
今回は、「見たい夢を見ることはできるのか」について徹底解説しました。
現在のところ、見たい夢を見る確実な方法は確立されていません。
そして、今回紹介した悪夢障害を伴うPTSD患者に対する明晰夢を用いた治療については、まだまだ研究の段階で、詳細が判明していない部分も多くあります。安易な気持ちで真似をすると、次第に夢と現実の区別がつかなくなって、幻覚や妄想など精神疾患に近い状態を引き起こす危険があると指摘されています。
したがって、意図的に明晰夢を見ようとするのはやめましょう。もし、PTSDやそれに伴う悪夢障害に悩んでいる場合は、速やかに医療機関を受診し、治療を受けるようにしてください。
よくある質問
Q.見たい夢を見ることはできますか?
A.現在のところ、見たい夢を見る確実な方法や手順については判明していません。
Q.夢を自在にコントロールする明晰夢は、実際に効果がありますか?
A.現在、悪夢障害を伴うPTSD患者に対して、明晰夢が治療に役立つのではないかと研究が進められていますが、まだ研究段階のため、安易に真似するのは危険です。悪夢障害については「【怖い夢ばかり見てしまう】悪夢の原因と対処法について解説」でも解説しています。
参考文献
- 夢を思い通りにコントロールできる?「明晰夢」を見る方法を大学教授に聞いてみた
- 2022/02/04、見たい夢を見る方法は存在する?夢について解説します
- 2021/04/24、危険やメリットも解説!夢をコントロールする「明晰夢」を見る方法
- 2021/04/28、見たい夢を見られるようになる方法!? そのポイントは「明晰夢」
- 2022/08/30/、願った夢が見られる?脳の働きからひも解く「明晰夢」の秘密
- 2022/03/24、夢はどうして見るの?睡眠と夢の謎だらけを解決します
- 2017/10/20、夢は自分の記憶から作られる?悪夢の意味や良い夢を見る方法を臨床心理士に聞いてみた
- 心的外傷後ストレス障害 (PTSD)
- 「はっきり内容を覚えている夢」の持つ役割