寝違いとは何でしょうか
一般的に「寝違い」とは、眠っていて目が覚めた時に、首の周りや肩にかけて痛みがあり、動かせない状態のことを指します。その多くは筋肉の軽い肉離れ、筋膜や関節の損傷、腱の過度の伸張を起こしている、急性の炎症症状です。名前も一般的に知られているので、軽い病気と考えられています。
寝違いは、症状の原因となる部位と、原因を発生させる部位が別々であることが多いというのはご存じですか?痛みがある部位がつい気になってしまいますが、そこに痛みがあるからといって、痛みがある部位が寝違えを起こしているとは限らないのです。
全く動かせない重症のケースや、何度も何度も繰り返してしまう場合は、寝違いだからと軽視せずに専門の医療機関で検査をすることをおすすめします。
寝違いの痛みはどのくらい続くのでしょうか
寝違いにはいくつか種類があります。筋肉の肉離れ、筋膜や関節の損傷、腱の伸張など色々とありますが、表面の損傷なのか中心部の損傷なのか、どこをどのように痛めているのかを見極めるのが重要です。
例えば、首を右側へ倒した時に、首の左側に痛みがあれば筋肉の表面の損傷。また、首を右側に倒して首の右側が痛い場合は中心部の損傷を疑います。
表面の痛みの場合は、筋膜の損傷や軽い捻挫の可能性があり、中心部の痛みの場合は神経の損傷や腱の損傷の可能性があります。
損傷の部位により、痛みが続く期間が変わってきます。
「筋膜の損傷、軽い捻挫・・・数日から1週間程度」
「神経の損傷、腱の損傷・・・1~2週間程度またはそれ以上」
症状の強弱はありますので、強い痛みが続く時は、専門の医療機関を受診しましょう。
放っておいても治るの?
「寝違いなんて放っておいても治る!」なんて思っていませんか?症状が軽症の場合は数日から1週間で痛みが引くこともありますが、重症の場合は何週間も痛みが引かないこともあります。
痛みが1度引いても何度も繰り返して慢性化すると、頭痛、めまい、しびれなど、他の症状が出るほど悪化する場合があります。更に、痛みが治らず続く場合は、頚椎に異常がある可能性もありますので検査が必要です。頚椎椎間板ヘルニア、頚椎症性神経根症、頚椎症性脊髄症などの病気の可能性もあります。小さな痛みも大きな痛みも体にとっては一大事ですから、きちんと症状を見極めて、改善をしていきましょう。
寝違いの原因
上記のように、寝違いは場合によっては長引くこともあります。
では、原因には何が挙げられるのでしょうか。寝違いの原因を紹介していきます。
不自然な姿勢での睡眠
本当に、ただ寝てから起きただけで寝違いになってしまうのでしょうか?
一般的に、睡眠中は一晩で約20回寝返りを打つと言われています。就寝中に、一定時間同じ姿勢でいると、筋肉が緊張して神経や血管を圧迫してしまいます。これらを防ぐために、自然に体勢を変えるのが「寝返り」です。
しかし、「寝返り」が打てないくらい疲労困憊状態だとしたらどうでしょう。そのままの姿勢で何時間も寝てしまうことになります。人によって疲労をため込む量は違いますが、容量オーバーになると同じ姿勢でずっと寝てしまい、寝違いを起こしやすくなります。身体に負担の掛からない姿勢で寝ていれば良いのですが、良い姿勢ばかりではありません。
また、お酒をたくさん飲んだ時も不自然な姿勢が続きやすいので注意が必要です。
日中の姿勢の不良
普段の姿勢が乱れてしまっているのも、寝違えを起こす原因の1つです。
そもそも良い姿勢とはどういう状態なのでしょうか。身体全体が前後上下左右にバランスが取れていて背骨を含む骨、関節、骨格筋のどこにも偏った負担がかかっていない状態です。
しかも、良い姿勢が保てていれば、最小限の力で、正常かつ正確に、関節や筋肉を動かすことができます。
つまり、このバランスが保てなくなった時に骨や関節、骨格筋に負担をかけてしまいます。負担をかけた状態が長時間続くと姿勢が乱れてしまい、やがて猫背になり背骨や骨盤が歪んだ状態になってしまうのです。負担がかかり続けた部位は硬くなり、本来の動きができなくなります。
そして、疲労の蓄積がピークを向かえた頃に寝違いが発生しやすくなるのです。
肩こり、首こりがひどい人も寝違いには要注意
肩こり、首こりが原因で寝違いを起こす可能性は高いと言われています。
肩こり、首こりが発生する原因としては、姿勢の不良が長時間続くことで、筋肉が硬くなることや、筋肉のポンプ作用が減り血行不良を起こしてしまうことなどが挙げられます。
姿勢の不良とは猫背、巻き肩、前肩、ストレートネックなど。
頭の重さは2Lのペットボトルで例えると2~3本程度の重さがあると言われており、数値にすると約5㎏です。バランスが取れていれば問題はありませんが、パソコンやスマホを見る時に15度下に傾くと、約2倍の負荷がかかり、約12㎏の負担が体にかかります。30度傾くと約3倍、60度傾くと約5倍と、うつむき加減によって負担が増えていくのです。
これだけ大きな負担が常にかかっていれば、首や肩の筋肉が異常に収縮を続けて、凝り固まってしまいます。首肩の筋肉が異常に収縮するということは、首の骨同士も圧迫されるということ。
このままでは、筋肉や骨、関節が変形したり傷がついたりして、痛みがいつ起きてもおかしくはありません。
首こり肩こりの自覚症状がない人でも、無自覚な首こり肩こりが引き金となって寝違いを起こしてしまうのです。
体に合わない枕
枕が合わなくて朝スッキリ目が覚めないどころか、寝違いになってしまった人はいらっしゃいませんか。枕が合わないせいだと思って、たくさんの枕を購入しては色々試しているかもしれませんね。
合わない枕で寝ることは、姿勢が悪い状態が長時間続いているのと同じです。合わない枕で寝ると、不自然な姿勢となって筋肉が硬くなり、血行不良を起こして寝違いを引き起こします。
寝違いになった時の対処法
原因は分かったが、対策をしても寝違えてしまうことは少なからずあります。寝違えが起こってしまった時に、「今すぐ対処したい!」という方もいらっしゃるかと思いますので、ここからは、寝違いになった時の対処法を紹介していきます。
寝違いになった時にやってはいけないこと
対処法の前にやってはいけないことを見ていきましょう。寝違いになった時にやってしまいがちなのが、「自分で揉んでしまうこと」です。これは絶対にやってはいけません!首や肩の筋肉や関節が、急性期(症状の出始め)で痛みが強く、腫れがある場合は特にダメです。痛みや腫れがあるということは、怪我をしていますので絶対にやめましょう。
次にやってしまいがちなことは、「ストレッチ」や「体操」です。筋肉や筋膜が損傷している場合、筋肉が強く引き伸ばされて傷ついている状態です。その筋肉を良かれと思って無理やり伸ばしたり、動かしたりしてしまったらどうなりますか?そうです、更に引き伸ばされてもっと悪くなってしまいます。
みや腫れがあることに気がつかず、ひどい肩こりだと思って温湿布やカイロを使って温めることはもちろん、お風呂で湯船に浸かることも絶対にダメです。痛筋肉が損傷している場合、皮膚の下で内出血をしていることがあります。内出血が起こっている状態で温めてしまうと、出血量が増えて悪化してしまいますので、絶対にやめましょう。
寝違いになった時に最初にやること
寝違いになった時に最初にやってほしいことは、「アイシング」です。強い痛みや腫れがある場合は炎症状態ですので、まずは炎症を抑えて下さい。「15分アイシング、5分休憩」を繰り返します。しかし、首は比較的デリケートな部位です。急に冷やすと脳への血液供給が減ってふらついたり、貧血のような状態になったりします。タオルやハンカチを間に挟んで徐々に冷やして下さい。
氷などを使ってアイシングできない場合や、仕事や学校に行く場合は湿布を貼ります。気を付けるのは、「冷湿布」を貼ることです。冷湿布か温湿布どちらを選ぶか迷った時、急性の痛みは「冷湿布」、いつも凝っていて温めると気持ち良い時は「温湿布」です。
特に強い痛みの場合は「鎮痛剤」の使用を検討しても良いでしょう。ただ、お薬は一時的に痛みをやめる役割なので、アイシングなどをして対策を行いましょう。
痛みが強い場合はどうしたら良い?
「アイシング」をしても痛みが引かない場合は、「安静」です。とにかく無理に動かさないこと。座っていることができない場合は、横に寝ても良いです。じっとしていることが一番。
更に、身の回りにあるバスタオルやマフラーを首の周りに巻いて簡易的に固定をします。息が苦しくなるほどきつく巻く必要はありません。バスタオルやマフラーに顎が乗るくらいで良いです。パソコンなどの事務作業が比較的楽にできると思います。
入浴やお酒は控えましょう。痛みが続いている時に血行が良くなると、炎症症状が悪化する可能性があります。どうしても入りたい時は軽めのシャワー程度にしておきましょう。
湿布を貼ることも良いです。ドラッグストアで販売している消炎鎮痛の成分が入っている冷湿布で良いでしょう。
寝違いの予防法
寝違いの予防法は、痛みや腫れが完全に引いてから行って下さい。
ストレッチ
ストレッチの注意点は、筋肉が気持ち良い伸びを感じるところまで伸ばすことです。無理に強く伸ばし過ぎると、筋肉を傷めることがありますので注意下さい。ストレッチ中は、呼吸を自然に行いましょう。
では、寝違いの予防にオススメのストレッチを2つ紹介します。
1つ目は、首のストレッチです。まず、首を右に倒します。反対の左手で右側頭部を抑え、気持ちの良いところまでゆっくり伸ばします。時間は30秒~1分。片方終わったら、反対側も行いましょう。片側3セットを目安にして下さい。
2つ目は、肩と首のストレッチです。まず、両腕を肘は伸ばしたまま後方へ伸ばします。肩の筋肉の前側と首の筋肉の前側を意識しながら伸ばしましょう。続けて、両腕を斜め後方へバンザイをするように上げて胸の筋肉を大きく広げるように伸ばしていきましょう。30秒ずつ3セットを目安にして下さい。
基本的にやってはいけないストレッチはありません。できるストレッチを無理なく継続することが大切です。
自分の体に合った寝具を揃える
枕や寝具を自分の身体に合わせることも大切です。
人間の背骨は自然なS字カーブを描いています。立っている時だけでなく、寝ている時も同じく、自然なS字カーブを描く姿勢を保つのが理想的です。
ではどんな枕を選んだら良いかというと、寝ている際に背骨のS字カーブがキープできる高さです。加えて、楽に寝返りが打てる枕を選ぶと良いでしょう。
高すぎる枕は避けるようにして下さい。背骨のS字カーブが失われ、頭の重さが首にかかります。寝ている間に首に負荷が掛かると、血管や神経を圧迫して血行不良を起こしやすくなるので注意が必要です。首の負荷が大きくなるだけでなく、寝返りも打ちにくくなるので、適切な、自分に合った高さの枕を選びましょう。
また、腰が沈み込み過ぎる布団も返って寝返りが打ちづらく、目が覚めてしまいます。寝具を選ぶ場合は、体全体の圧力が全体に分散され楽に寝返りが打てるものが理想的です。
部屋を暖める
寝る前に部屋を暖めておくのもいいでしょう。
寒さが厳しい冬は、部屋の温度が低いままだとなかなか寝付けないものです。しかも、部屋の温度が低いままだと血流が悪くなり筋肉が硬くなります。エアコンや暖房を使って部屋の温度を上げておくと、体も筋肉も温まり寝違いの予防にもなります。
冬は17~18度くらい、夏は25~26度くらいを目安に調整して下さい。
湿度もチェックしましょう。特に冬場は乾燥しやすいので、加湿器を稼働させたり、濡らしたタオルや洗濯物等を枕元に干したりして下さい。
梅雨の時期や夏場は逆に湿度が上がりすぎるので、除湿器を上手に使いましょう。
快適な睡眠は、体力の回復が期待できます。疲れたままで寝てしまうと寝違いのリスクも高まりますのでご注意ください。
よくある質問
Q.寝違いにならない枕はありますか?
A.残念ながら絶対に寝違いにならない枕はありません。
どれだけ自分の身体に合っていても、体の状態が毎日違うからです。調子の良い日もあれば悪い日もあります。枕を複数用意し、その日、1番よく眠れそうな枕で寝るのもいいかもしれません。
ただ、忘れてはいけないのは、「枕は頭を乗せる台ではない」ということです。頭と首の重さを枕で支えて睡眠を安定させるもの。首に頭の重さを掛けないことが大切です。高すぎる枕は首に角度がついてしまい頭の重さがかかってしまいます。
他には、日々のセルフケアで寝違いのリスクを減らすことや、首こり、肩こりを少しでも減らした状態で寝ることも大切です。
Q.寝違えはどうして繰り返すの?
A.多い方で1週間に3回も寝違える方もいらっしゃいますが、どうして繰り返してしまうのでしょうか。
それは、「毎回適切な処置をしない」からです。どんなに小さな症状であっても放っておいてはいけません。
朝急に首が痛くなったら「アイシング」、それでも痛い時は「バスタオルやマフラーで首を固定」、仕事に行く前は「冷湿布」を貼ります。痛みが引いたら「セルフケア」が大切です。ご自分でできる方はストレッチや体操、ヨガなどの軽運動で体を動かしたりジムで運動したりするのもいいでしょう。
整骨院や接骨院、整体院など専門の先生にお任せするのも良いと思います。
いずれにしても、寝違いを繰り返さないためには、「適切な処置をすること」と「再発防止の予防」をすることです。