そもそもどうして寝だめをしてしまうのか
そもそも、どうして私たちは休日に寝だめをしてしまうのでしょうか?もちろんそれは、日頃のハードな生活で溜まった睡眠不足を解消するためです。しかし、実際は睡眠不足では留まらず、さらに深刻な「睡眠負債」がどんどん積み重なっているのかもしれません。
「睡眠負債」を解消するため
睡眠負債とは、睡眠不足が蓄積されて慢性化している状態をいいます。睡眠専門家の間で用いられる言葉ですが、「不足」ではなく「負債」と表現しているところがポイントです。
睡眠をお金として考えてみましょう。例えば、あなたが買い物をしようと財布を開くと、お金が全然入っておらず、一緒にいた友人に1000円を借りたとします。1000円程度なら、すぐにお金を用意して友人に返済することができるので、大した問題にはなりません。
しかし、これが1万円、10万円と金額が増えていったとしたらどうでしょう。どんどん借金は膨れ上がり、返済するのも大変になっていきます。
つまり「睡眠負債」とは、自分でも気づかないうちに睡眠の借金がどんどんと膨れ上がり、首が回らなくなっていく状態を表しています。しかも、返済が滞ることによる体へのダメージは深刻で、簡単には解決しません。おまけに、借金には利子がつくので、さらなる危険因子が心身に悪影響をもたらします。
睡眠負債の危険性
睡眠負債がもたらす体への悪影響は主に次の2つです。
- 1.マイクロスリープを引き起こす
- 2.さまざまな病気の引き金になる
マイクロスリープを引き起こす
マイクロスリープとは、本人も認識できないほどの瞬間的な居眠りをいいます。時間としては、1秒にも満たないものから、10秒ほど続くものもあります。最初にお伝えしておきますが、このマイクロスリープは「仕事中や勉強中に眠気が襲ってきて、ちょっと居眠りをしてしまった」というのとは全く別物です。
マイクロスリープが起きる原因は、睡眠負債が溜まり続けることによって脳が限界を迎え、一種の防御反応を示しているためと考えられています。しかも、マイクロスリープを起こしている自覚が一切ないため、本人は気づくことすらできません。
もし、この状態で車を運転していたらどうでしょうか?おそらく事故を起こして、大惨事となるでしょう。睡眠専門家の間では、マイクロスリープ状態で走行する車は、飲酒運転や薬物を摂取したときの運転と同じくらい、むしろそれ以上に危険だといわれています。
さまざまな病気の引き金になる
睡眠負債は、あらゆる疾患の引き金になります。
例えば、睡眠時間が短い人は、食べ過ぎを抑制するホルモンである「レプチン」の分泌が減り、逆に食欲を増大させるホルモンの「グレリン」が増えることがわかっています。つまり、睡眠負債が溜まっている人は、食欲が抑えられず、肥満につながりやすくなるのです。
その他にも、睡眠負債はさまざまな疾患の原因となります。
- ・インスリンの分泌が悪くなる→血糖値が上がり、糖尿病になる
- ・交感神経が活発な状態が続く→心拍数が上がって高血圧になる
- ・自律神経・ホルモン分泌のバランスが乱れる→精神が不安定になって、うつ病などの精神疾患に罹りやすくなる
上記のように、睡眠が足りないことは多くのデメリットにつながり、ときには死亡リスクの高い疾患や事故を招きかねません。ですので、毎日十分に睡眠をとって、睡眠負債がたまらないようにすることが、実は非常に重要なのです。
休日の寝だめは効果あり?
十分な睡眠が重要だとわかりましたが、仕事や勉強で毎日ハードな生活を送る現代人の中で、毎日申し分ない睡眠を取れている人はどれほどいるでしょうか?おそらく多くの人が、睡眠負債が溜まりがちになっているでしょう。
では、そんな溜まりに溜まった睡眠負債を解消する方法として、寝だめは本当に効果があるのでしょうか?
寝だめでは睡眠負債を解消できない
残念ですが、休日の寝だめでは睡眠負債を解消することはできません。効果を感じたとしてもそれは一時的なもので、蓄積された「眠りの借金」を寝だめだけで完済するのは難しいのが実情です。
【実験】14時間睡眠をするとどうなる?
寝だめでは睡眠負債を解消できないことを証明した、おもしろい実験があります。普段の睡眠時間が平均7.5時間の健康な大人10人に、毎日14時間ベッドに入って好きなだけ寝てもらうという実験を行いました。結果は以下の通りです。
- <被験者に見られた変化>
- ・1日目:被験者全員13時間近く眠った。
- ・2日目:1日目と変わらず、みな13時間近く眠った。
- ・3日目以降:徐々に睡眠時間は短くなり、多く眠ることができなくなった。中には5〜6時間近く、ベッドの上で起きている被験者もいた。
- ・3週間後:被験者の睡眠時間は平均8.2時間で固定された。
この実験によって、10人の生理的に必要な睡眠時間は平均7.5時間ではなく、平均8.2時間だったことがわかりました。その上、彼らは毎日40分の睡眠負債を長い間蓄積し続けており、正常な睡眠時間の8.2時間に回復するまでに、この実験では3週間もかかってしまいました。
つまり、1日あたり40分の睡眠負債を返すためには、毎日14時間ベッドにいるのを3週間続けなければならないのです。しかし、このような生活はあまりに非現実的で、実際にはできるわけがありません。
要するに、膨れ上がった睡眠負債を休日の寝だめで解消すること自体、現実的にできるはずがないのです。
睡眠預金もできない
上記の実験から、人間は睡眠が不足したときに備えて睡眠を余分にとっておく、いわゆる「睡眠預金」もできないことがわかります。
睡眠負債が解消されたと思われる3週間後を見ると、被験者の睡眠時間は平均8.2時間で落ち着き、それ以上増えることはありませんでした。これはつまり、睡眠負債がなければ、体が必要とする時間以上長く眠ることはできないことを意味します。
結果をまとめると、以下のようになります。
- ・睡眠負債は1日や2日、休日に寝だめをした程度では解消できない
- ・好きなだけ寝て良いといわれても、体が求める以上の睡眠は取れない=睡眠預金もできない
つまるところ、睡眠の問題を「時間」でコントロールするのは難しいということになります。
休日の寝だめが習慣化するとどうなるの?
平日の睡眠時間が極端に短い分を休日の寝だめで補うことが習慣化してしまうと、体内時計を狂わせ、睡眠にさらなるマイナスの影響をもたらすことがわかっています。
体内時計の乱れを引き起こす
体内時計とは、睡眠と覚醒のリズムや、体温・血圧などの自律神経系、ホルモン分泌等をコントロールしている生体機能です。ここからは、寝だめが体内時計に与える影響について解説していきます。
例えば、平日は毎朝7時に起きる人が、休日は10時過ぎまで寝だめをしているとしましょう。平日と休日では、起床時間に3時間程度の差が生じています。これが習慣化すると、休日だけ太陽光を浴びるタイミングが遅れ、私たちの体はあたかも休日にアジア旅行にでも行ったかのような錯覚を覚えます。このような「時差」によって、メラトニンをはじめとした睡眠ホルモンの分泌に異常をきたし、体内時計の乱れにつながってしまうのです。
このような、平日と休日における睡眠の差によって引き起こされる就寝・起床リズムのズレを、「ソーシャルジェットラグ(社会的時差ボケ)」と呼びます。
ソーシャルジェットラグの定着は、月曜日の朝に「体がだるくてしんどい」、「辛くて起きられない」と感じる「ブルーマンデー」の原因にもなります。また、日中の眠気や集中力の低下、そして不眠症や概日リズム睡眠障害にもつながる恐れがあるため、むしろ逆効果ともいえるのです。
どうしても休日に多めに寝たいときは
しかしながら、慌ただしい現代社会では、平日の夜ふかしや休日の寝だめを回避できないことも多々あると思います。そこで、どうしても休日に寝だめをしたいときに、ぜひ気をつけてほしいポイントを2つお伝えします。
休日も平日と同じ時間に一旦起きる
休日は平日よりも多めに睡眠時間を確保したいというときは、休日も平日と同じ起床時間に「一旦」起きましょう。
ソーシャルジェットラグは、平日と休日における就寝・起床リズムのズレが原因で起こります。そのため、いつでも起床時間を一定にすることが、体内時計のズレを防いで睡眠の質を保つ第一歩となります。無理矢理でも良いので、休日も一旦は起きてカーテンを開け光を浴び、朝食をとるなどの活動をしましょう。
そして、足りない分の睡眠は「昼寝」で補填します。昼寝であれば体内時計への影響も少なくて済むし、何より昼寝を効果的に取り入れることはパフォーマンス向上にもつながるとされています。目安としては、「15時まで」そして「2時間以内」に起きることを意識するとベターです。
多くても寝だめはプラス1〜2時間まで
どうしても朝起きる時間を遅らせたいという場合は、いつもの睡眠時間プラス1〜2時間までにとどめるようにしましょう。1〜2時間程度であれば、体内時計への影響も少なく、ソーシャルジェットラグにもつながる可能性は低いとされています。
さらに眠りたいときは、上記のようにまずは「一旦」起きて活動し、足りない分の睡眠は昼寝で補いましょう。
まとめ
今回は、休日の寝だめは本当に効果があるのか、徹底解説しました。
結論としては、休日の寝だめは睡眠負債の解消にはつながらず、逆に体内時計の乱れを引き起こしてしまうことが最近の研究で明らかになっています。
日々ハードな仕事や勉強で、平日ヘトヘトになるまで働いた分、「せっかくの休日はたっぷり寝ていたい!」と感じる人は多いでしょう。ですが、できるだけ起床時間は平日と同じにし、足りない分の睡眠時間は昼寝で補うようにしてください。また、どうしても休日の起床時間を遅らせたい場合は、1〜2時間程度にとどめ、体内時計への影響を最小限に抑えることが睡眠の質の担保につながります。
「つい、休日は寝だめをしてしまう」という人は、ぜひこの記事を参考にして、自分の生活習慣を見直すきっかけにしてください。
よくある質問
Q.寝だめは睡眠不足解消に効果がありますか?
A.残念ながら、寝だめでは睡眠不足を解消することはできません。それどころか、平日と休日で起床時間に極端な差がついてしまうと、旅行もしていないのに「時差ボケ」のような状態になり、さらなる睡眠不足につながる恐れがあります。
Q.どうしても休日に寝だめをしたいときはどうすれば良いですか?
A.どうしても休日に寝だめをしたいときは、無理矢理でも良いので平日の起床時間に一旦起きましょう。こうすることで、普段のリズムを崩すことがないので、体内時計への影響をできるだけ少なくすることができます。そして、足りない分の睡眠時間は昼寝で補うようにしてください。