子どもも睡眠時無呼吸症候群になる?
睡眠時無呼吸症候群は、睡眠中に気道が狭くなっていびきや無呼吸を発症する疾患で、その多くは大人が発症します。ですが、まれに子どもでも発症するケースがあります。
まずは、小児における睡眠時無呼吸症候群について解説していきます。
小児睡眠時無呼吸症候群とは
そもそも、睡眠時無呼吸症候群(SAS:Sleep Apnea Syndrome)とは、さまざまな原因で睡眠中に気道が狭くなり、しばしば無呼吸状態(呼吸が止まってしまう)になる病気です。正確には、気道が閉塞することで無呼吸を起こすことから「閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)」と呼ばれています。
そして、小児睡眠時無呼吸症候群は、小児期における閉塞性睡眠時無呼吸症候群で、大人の場合と同様、寝ている間に何らかの原因で気道が狭くなることでいびきや無呼吸を発症します。
小児における閉塞性睡眠時無呼吸症候群の有病率は約2%といわれており、大人のSAS以上にその実態や危険性が周知されていないことから、重篤な合併症や二次疾患に発展する場合があります。
こんな症状があれば発症している疑いあり
睡眠時無呼吸症候群は、大人でも発症を自覚するのは難しく、発見が遅れるケースは珍しくありません。加えて、子どもは自身の体調不良や異変に気づいたり、訴えたりするのが苦手です。そのため、何か異変があれば、周りにいる親が気づいてあげる必要があります。
万が一、子どもに次のような症状が見られたら、小児睡眠時無呼吸症候群を発症している可能性が疑われます。
- ・寝ている間に呼吸が数秒間止まることがある(無呼吸になる)
- ・眠りが浅く、夜中に何度も起きる
- ・寝相が悪い
- ・寝汗をよくかく
- ・夜尿する
- ・日中によく眠そうにしている
- ・昼寝の時間が長い
- ・注意力や集中力が続かない
- ・イライラする、攻撃的になりやすい など
どうして小児睡眠時無呼吸症候群になるの?
上記で、「さまざまな原因で無呼吸状態を発症する」とお伝えしましたが、「さまざまな原因」とは具体的にどのようなものがあるのでしょうか?主な4つの原因をご紹介します。
扁桃肥大
扁桃肥大は、口蓋扁桃が肥大した状態です。
そもそも「扁桃」とは、リンパ組織が集まった組織で、呼吸によって鼻や口から入ってくるウイルスや細菌を捕え、気管や肺に侵入するのを防ぐ免疫機能を持っています。よく、風邪をひいたときに「扁桃腺が腫れた」といいますが、「扁桃腺」はいわゆる俗語で、正しくは「扁桃」と呼びます。
扁桃はさらに次の4つに分類することができ、中でも大きく口を開けたときにのどちんこ(口蓋垂)の付け根の両側に見えるのが「口蓋扁桃」です。
- ・アデノイド(咽頭扁桃)
- ・耳管扁桃
- ・口蓋扁桃
- ・舌扁桃
この口蓋扁桃がなぜ肥大化するのか、その原因はいまだ明らかになっていません。ですが、生まれつき大きい場合や、扁桃炎によって大きくなった場合が考えられています。
主な症状は、いびきや無呼吸症状に加えて、食事ができない、しばしば扁桃が腫れて熱が出る、といったものがありますが、口蓋扁桃の多くは3歳頃から大きくなり、7歳頃にピークとなって10歳頃には小さくなっていくケースがほとんどです。
ですので、生活に支障がなければそのまま様子を見ますが、上記で述べたような症状が強く見られる場合は、耳鼻咽頭科や小児科を受診し、治療を受ける必要があります。
アデノイド肥大
アデノイド(咽頭扁桃)はリンパ組織が集まった扁桃のひとつで、鼻の一番奥の突き当たり、喉との間の部分である上咽頭にあります。
口蓋扁桃と同様、成長によって大きさが変化し、2歳頃から大きくなり始め、6歳頃をピークにその後は小さくなっていきます。ですが、まれに肥大が解消されずに残り、急性中耳炎の原因になったり、滲出性中耳炎や鼻閉、無呼吸などを引き起こしたりすることがあります。
アデノイド肥大の場合も、特に症状が見られない場合は経過観察を行いますが、症状がひどい場合は手術が必要になることもあります。
アレルギー性鼻炎
アレルギー性鼻炎は、くしゃみや透明な鼻水、鼻づまりなどを主症状としており、ダニやホコリなどが原因で年中鼻炎症状が認められる「通年性アレルギー性鼻炎」と、スギやヒノキの花粉などが原因の「季節性アレルギー性鼻炎(花粉症)」に分けられます。
本来、睡眠中は鼻呼吸をするのが基本ですが、鼻炎症状が強く出ていると鼻呼吸がうまくできずに口呼吸となり、舌が喉の奥に落ち込んでいびきをかきやすくなります。
最近は発症年齢の低下が進み、子どものアレルギー性鼻炎も多く確認されています。しかも、風邪の症状とよく似ているため、適切な治療をしなければいつまでも症状が改善されません。ゆえに、長期間症状が続いている場合は速やかに医療機関を受診し、医師による診断を受けるようにしましょう。
肥満
肥満とは、正常よりも体脂肪が過剰に蓄積して体重が増加している状態です。
肥満になると、腹部だけでなく首や舌にも脂肪が蓄積するようになり、睡眠中の気道を圧迫していびきを起こす原因になります。
近年、子どもの肥満は増加傾向にあり、その原因は食事・おやつ・ジュースなどの過剰摂取や食生活の乱れ、さらに運動不足などがあげられます。
そして、肥満は無呼吸だけでなく、糖尿病(2型)や脂質異常症、高血圧といった生活習慣病を引き起こし、将来的な動脈硬化や心筋梗塞、脳卒中を起こすリスクを高めます。
しかも、幼児期の肥満者の25%、学童前期の肥満者の40%、思春期の肥満者は70%〜80%が将来成人肥満に移行するともいわれています。そのため、子どもの肥満を発見したら早期に治療するとともに、日頃から生活習慣を正してしっかりと予防することが大切です。
下記に、子どもの肥満を判定する「肥満度」の計算式と、子どもの成長段階における判定基準を記載しているので、ぜひ参考にしてください。
<計算式>
肥満度=(実測体重-標準体重)標準体重×100(%)
<判定基準>
幼児期 | 肥満度15%以上 | 肥満度20%以上 | 肥満度30%以上 |
太りぎみ | やや太り過ぎ | 太り過ぎ |
学童期以上 | 肥満度20%以上 | 肥満度30%以上 | 肥満度50%以上 |
軽度肥満 | 中等度肥満 | 重度肥満 |
小児睡眠時無呼吸症候群に気づいたら速やかに病院へ
このように、小児睡眠時無呼吸症候群を発症する原因は複数あり、正しい診断・治療を受けるためにも、医師の専門的な判断が必要です。
医療機関では、主に「保存的療法」と「手術療法」の治療を受ける場合が多く、どちらの治療法でも健康保険が適応可能です。想定される具体的な治療内容は下記の通りです。
- <保存的療法>
- ・鼻にCPAP(シーパップ)と呼ばれるマスクをつけて空気を送り込むことで、気道を開き、無呼吸を抑える
- ・肥満が見られる場合は、減量に取り組むための食事療法・運動療養・行動認知療法などが行われる
- ・症状が軽度な場合は、横向き枕の使用など睡眠時の寝姿勢の指導のみを行う場合もある
- ・アレルギー性鼻炎などによる鼻閉が見られる場合は、薬物治療にて点鼻薬や抗アレルギー薬が処方される
- <手術療法>
- ・重度の口蓋扁桃もしくはアデノイド肥大が見られる場合は、摘出する手術が検討される
- ・鼻閉の症状が重い場合には、耳鼻科にてレーザー治療を行うこともある
そもそもなんで睡眠が大事なの?
それにしても、なぜここまで小児期の無呼吸や慢性的な睡眠不足に対して、早期発見と治療の必要性が叫ばれているのでしょうか?
子どもの成長に悪影響を与えるから
無呼吸やその他の睡眠障害によって満足な睡眠が取れないと、子どもの成長に次のような大きな悪影響を与えます。
成長ホルモンの分泌不良
成長ホルモンは、脳の下垂体から分泌されるホルモンで、骨や筋肉を成長させたり、各器官の発達を促したりする働きがあります。
そんな成長ホルモンですが、最近の研究では寝入ってから1〜2時間後に現れる一番深いノンレム睡眠時に最も盛んに分泌されることがわかっています。
ゆえに、質の悪い睡眠では十分な成長ホルモンの分泌が行われず、子どもの成長や発育に悪影響を及ぼします。
免疫力の低下
質の悪い睡眠による成長ホルモンの分泌不良は、免疫力の低下にも影響を与えます。
成長ホルモンには、骨や筋肉、各器官の成長を促す働きに加え、傷ついた細胞や組織の修復を行う働きもあります。
ゆえに、睡眠が不足した状態では細胞が傷ついたままになってしまい、そこから細菌やウイルスの侵入を許して感染症にかかりやすくなります。
記憶力の低下
睡眠不足は、記憶力の低下にもつながります。
最近の研究で、人間は睡眠時に記憶を整理して、必要な記憶を脳に定着させていることがわかってきました。
つまり、睡眠時間の減少は記憶の整理を滞らせ、記憶力の低下を引き起こす可能性があるのです。
当然、記憶力が低下するので、授業などで学習した内容はなかなか定着しなくなるのに加え、スポーツなどの体の動かし方なども身につかなくなります。したがって、学習能力とともに運動能力の低下も懸念されます。
肥満の促進
先ほど、小児睡眠時無呼吸症候群の原因として肥満をあげましたが、睡眠の不足が肥満を促進させる危険があることもわかっています。
最近の研究で、短時間睡眠を続けると食べ過ぎを抑制するホルモンが減少するとともに、食欲を増進させるホルモンが増加することが報告されました。
つまり、睡眠時間が短いほど食欲が抑えられなくなって肥満になりやすくなるのです。また、睡眠不足のときは体や脳の疲労も残っているため、日中の活動量も低下します。
こうしたことから、肥満をきっかけに睡眠不足になることがあるのに加え、睡眠不足が慢性化するとさらに肥満を悪化させる危険も示唆されています。
精神的に不安定になる
睡眠不足は身体的な影響のみならず、メンタルにもダメージを与えます。
先ほど、睡眠時における記憶の定着について解説しましたが、記憶には楽しかったポジティブな記憶だけでなく、不安や恐怖などのネガティブな記憶もあります。そして、睡眠中にはこうしたネガティブな記憶を不要な記憶として整理し、「忘れる」という作業も行っていることが最近の研究でわかっています。
つまり、記憶の整理が正しく行われないと、いつまでもいやな記憶を忘れることができず、気分が落ち込んだり、イライラしたりといったメンタルの不調につながる恐れがあります。
小児睡眠時無呼吸症候群が与える影響や治療法についての詳細は、いびきメディカルクリニックの「子どもの睡眠時無呼吸症候群について」の記事をご覧ください。
良い睡眠をとるための4つのポイント
上記のように、子どもの睡眠不足は身体的にも精神的にも大きな悪影響を与えるリスクがあります。このようなリスクを回避するためには、次の4つのポイントを押さえて、生活習慣を改善する必要があります。
毎日同じ時間に就寝・起床する
質の高い睡眠の第一歩は、毎日の規則正しい睡眠習慣です。
最近の子どもは、夜遅くまでの習い事や塾、ゲーム、SNSなどで生活が不規則になりがちです。こうしたバラバラな睡眠習慣は、体内時計の乱れを引き起こし、睡眠の質を悪くします。
まずは、睡眠時間をしっかり確保することが大切です。下記に、1日に推奨される子どもの睡眠時間を年齢別にまとめたので、睡眠時間が足りているかチェックしてみてください。
<推奨される睡眠時間(昼寝を含む)>
年齢 | 睡眠時間 |
---|---|
1〜2歳 | 11〜14時間 |
3〜5歳 | 10〜13時間 |
6〜13歳 | 9〜11時間 |
14〜17歳 | 8〜10時間 |
そして、睡眠時間をしっかりと確保したうえで、毎日同じ時間に就寝・起床することが大切です。これは、平日・休日にかかわらず行いましょう。こうすることで、規則正しい睡眠習慣が身につき、良い睡眠に近づきます。
夜寝る前のスマホやゲームなNG
上記で夜遅くのゲームやSNSについて触れましたが、寝る直前までスマホやゲームをするのはNGです。
スマホやゲーム、テレビの画面が発するブルーライトはとてもエネルギーの強い光で、長時間見ていると脳に覚醒を促し、眠気を遠ざけることにつながります。
ゆえに、夜になったらスマホは閉じて、使わないようにするのが大切です。もし、子どもがずっと使い続けてしまう場合は、親子で使うときのルールを決めて、少しずつ使用時間を減らすことから始めましょう。
朝起きたらすぐ日光を浴びる
夜に浴びるブルーライトは睡眠にとっては悪影響ですが、朝には大変効果的です。
朝起きてカーテンを開けて太陽の光を浴びることで、眠気を誘うメラトニンの分泌を抑制し、体が覚醒モードになるのを助けてくれます。
浴びるといっても、わざわざ外に出て全身に浴びる必要はありません。カーテンを開けて、窓から入る光を数分浴びる程度で十分です。このとき、日光を直接目で見るのは、目を傷める危険があるのでやめましょう。
また、天気が悪くて太陽が見えなくても問題ありません。雨や曇りの日でも太陽の光はしっかり届いているので、十分に覚醒を促してくれます。
朝ご飯をしっかり食べる
最近は、朝ごはんを食べない子どもが増えていますが、それではなかなか覚醒モードに切り替わらず、頭もボーッとしたままです。
朝スッキリ目覚めて、日中も元気に活動したいなら、朝食は毎日しっかりとりましょう。朝ごはんを食べることで、睡眠中に低下した体温を上昇させて活動しやすくなるのに加え、しっかり噛むことでさらに目覚めを促す効果が期待できます。
まとめ
今回は、子どもで発症する小児睡眠時無呼吸症候群の危険性と子どもにおける睡眠の大切さ、そしてより良い睡眠をとるためのポイントについて解説しました。
睡眠時無呼吸症候群は多くの場合大人に見られる疾患ですが、子どもでも発症する可能性があります。本人が発症を自覚するのは大変難しいので、親が症状を発見したら、速やかに医療機関に相談し、診断と治療を受けさせることが大切です。
そして、子どもにとって睡眠は健やかな成長・発達、そして健康維持には欠かせないものです。家族でその大切さを十分理解し、毎日質の高い睡眠を取れるよう、この機会に生活習慣を見直してみてください。
よくある質問
Q.子どもがいびきをかいているのですが、何かの病気でしょうか?
A.小児睡眠時無呼吸症候群という病気を発症している可能性が有ります。睡眠時無呼吸症候群の主な症状と危険性については「睡眠時無呼吸症候群(SAS)ってどんな病気?原因・リスク・治療法について解説」にて解説しています。
Q.子どもにとって睡眠が大切なのはどうしてですか?
A.睡眠が十分に取れないと、成長ホルモンの分泌を低下させるのに加え、免疫力の低下、記憶力の低下、肥満促進、メンタルへの影響など、その悪影響はさまざまです。