睡眠時無呼吸症候群とは
睡眠時無呼吸症候群(SAS)は、睡眠障害の1つです。
10秒以上の呼吸停止が続いた場合を無呼吸といい、無呼吸状態が1時間に5回以上(7時間の睡眠中30回以上)繰り返される場合、睡眠時無呼吸症候群と診断されます。
睡眠時無呼吸症候群の症状は、睡眠時と起床時、活動時で違います。
身体状況 | 症状 |
---|---|
睡眠時 | ・いびきと無呼吸状態を繰り返す ・中途覚醒が頻回にある ・呼吸苦を訴える ・発汗が多い |
起床時 | ・口渇がある ・倦怠感や頭痛がある ・起床時すっきりしない |
活動時 | ・強い眠気を感じる ・活気や集中力の低下がある ・倦怠感や疲労感を感じる |
身体状況によって現れる症状に違いがありますが、睡眠中に症状が出ることが多いため本人が気づきにくく治療を受けられていない方が多いのが特徴です。
他の症状や疾患との関連性も深いため早期の治療が必要とされています。
睡眠時無呼吸症候群の分類
睡眠時無呼吸症候群は原因によって3つに分類されます。
閉鎖性睡眠時無呼吸症候群
閉鎖性睡眠時無呼吸症候群とは、空気が通る気道のうち上気道が塞がってしまうことで十分な気道を確保できず、呼吸が止まってしまう状態です。
睡眠時無呼吸症候群を訴える9割の患者が閉鎖性タイプと言われています。
閉鎖性タイプの最大の原因は肥満であり、生活習慣をきちんと見直していく必要があります。
中枢性睡眠時無呼吸症候群
中枢性睡眠時無呼吸症候群とは、脳の脳幹にある呼吸中枢の異常によって無呼吸になる状態です。
閉鎖性タイプとは違い気道が塞がっていないため、いびきをかかないのが特徴です。
中枢性タイプは、睡眠時無呼吸症候群患者の1割にも満たないと言われていますが、心不全などの心機能の低下がある患者の約4割に現れるとされています。
混合性睡眠時無呼吸症候群
混合性睡眠時無呼吸症候群とは、その名の通り閉鎖性タイプと中枢性タイプが合わさった睡眠時無呼吸症候群です。
発症率は、中枢性タイプよりも多いとされています。
中枢性睡眠時無呼吸症候群の病因
中枢性睡眠時無呼吸症候群の病因について、疾患と呼吸状態に分けて解説していきます。
疾患
中枢性睡眠時無呼吸症候群の病因疾患として「心不全、糖尿病、腎臓病」が挙げられます。
心不全
心不全とは、虚血性心疾患や高血圧、心弁膜症、心筋症などにより心臓のポンプ機能が低下し、心拍出量低下、末梢循環不全、肺などの全身の鬱滞を起こす病態です。
特に、慢性心不全を持つ患者の睡眠時無呼吸症候群のうち、約4割が中枢性タイプとなっています。
慢性心不全は、代償機構が長期的に働き血行の悪化が徐々に進行していく状態です。
通常呼吸は、血中の二酸化炭素濃度が増えるのを脳の中枢が感知して行いますが、慢性心不全のように血行の悪化が徐々に進むことで脳の呼吸中枢の感度が低下し、血中の二酸化炭素濃度が高くなっても呼吸が連動して起こらなくなってしまい「中枢性睡眠時無呼吸症候群」を発生させると言われています。
脳卒中
脳卒中とは、急性的に発症した脳血管障害の総称です。
脳卒中は、虚血性の脳梗塞や出血性の脳内出血、くも膜下出血の3つに分類することができます。
脳動脈が詰まり血行が悪化したり、脳動脈が破裂し脳内に血液が出血したりすることで、意識障害や運動障害、感覚障害、言語障害などの後遺症が残る場合があります。
その際、呼吸中枢に異常をきたす可能性も考えられ、呼吸中枢の感度低下に伴い「中枢性睡眠時無呼吸症候群」を引き起こす危険もあるため、脳卒中と関連性が高い病因です。
糖尿病
糖尿病とは、インスリン作用不足によって引き起こされる、糖代謝を主とする代謝異常の疾患です。
Ⅰ型糖尿病とⅡ型糖尿病に分けることができますが、中枢性睡眠時無呼吸症候群はⅡ型糖尿病と関連が深いとされています。
糖尿病により高血糖状態となった血液は”ドロドロ”した状態となり血液循環が悪化してしまいます。
すると、脳梗塞などの脳卒中のリスクが高まるため「中枢性睡眠時無呼吸症候群」に発展する危険性も高い病因です。
腎臓病
腎臓病とは、膀胱や糸球体、尿細管などの働きが悪化することで、排尿や血液循環の異常を起こす疾患です。
腎臓病の中でも、腎機能の低下による尿毒症は呼吸中枢へ悪影響を及ぼす病態です。
尿毒症とは、電解質異常やクレアチニン、尿素窒素などの尿中排泄物、アシドーシスの体内貯留により、全身の臓器障害を起こす危険性もあります。
脳の呼吸中枢にも悪影響を及ぼし「中枢性睡眠時無呼吸症候群」と関連が深い病因です。
呼吸状態
中枢性睡眠時無呼吸症候群の代表的な呼吸として「チェーンストークス呼吸」と「先天性中枢性肺胞低換気症候群」の2つがあります。
それぞれの呼吸状態について解説していきます。
チェーン-ストークス呼吸
チェーンストークス呼吸は、中枢性睡眠時無呼吸症候群の特徴的な呼吸の1つです。
数十秒間にわたり低換気や無換気が続き、次第に呼吸の深さと数が増し、再び漸減する過換気が周期的に出現する状態です。
原因疾患や病態として、大脳や間脳レベルの障害や心不全、肥満低換気症候群などが挙げられます。
先天性中枢性肺胞低換気症候群
先天性中枢性肺胞低換気症候群とは、新生児期の睡眠時に発症する疾患ですが覚醒時に低換気をきたす重度の場合もあります。
低換気になっているにも関わらず患者自身で気づきにくいことが特徴です。
先天的な呼吸中枢の障害であり、生涯にわたり人工呼吸での管理が必要になってきます。
中枢性睡眠時無呼吸症候群の症状
中枢性睡眠時無呼吸症候群は、閉鎖性タイプのように上気道が塞がれることがないため無症状であることが特徴です。
睡眠時の呼吸休止や浅い呼吸などから他者が症状に気づく場合が多いとされています。
上記でも紹介した、チェーンストークス呼吸は中枢性睡眠時無呼吸症候群で見られる特徴的な呼吸タイプです。
中枢性睡眠時無呼吸症候群の診断方法
中枢性睡眠時無呼吸症候群に限らず、睡眠時無呼吸症候群の診断ではポリソムノグラフィー検査を行い、診断や重症度を判定していきます。
ポリソムノグラフィー検査とは睡眠時に行う検査で、睡眠段階、中途覚醒時の脳波、眼電図、オトガイ筋電図、下肢の筋電図などの呼吸異常に関する検査を行います。
頭部やアゴ、胸部、腹部、手・足などに電極をつけることで、身体の状態を細かく観察することが可能です。
睡眠時無呼吸症候群の重症度判定には「AHI(無呼吸低呼吸指数)」が用いられます。
AHIは、睡眠時の1時間当たりの無呼吸と低呼吸の数を表しています。
睡眠時無呼吸症候群の重症度判定
AHI | 重症度 |
---|---|
5~15 | 軽度 |
15~30 | 中等度 |
30以上 | 重症 |
※低呼吸 :酸素飽和度(SPO₂)が約3%以上低下しているか、覚醒を伴う状態
中枢性睡眠時無呼吸症候群の治療の流れ
中枢性睡眠時無呼吸症候群の治療の流れを在宅療法と生活習慣の改善、薬物療法の3つに分けて解説していきます。
在宅療法
在宅療法として代表的なのがCPAP(シーパップ)療法です。
機械によって空気を気道に送り込むことで、気道を広げ睡眠中の無呼吸を予防します。
睡眠の質を高めることができ、疲労回復や日中の集中力・活動力のアップが期待できます。
空気圧を自動で変えることができるため、重症度に応じた治療が可能です。
また、CPAP療法は睡眠時無呼吸症候群の予防だけでなく、心筋梗塞や脳梗塞などの予防にも効果があるため、重要な治療法となっています。
生活習慣の改善
中枢性睡眠時無呼吸症候群を含む睡眠時無呼吸症候群の治療として、生活習慣の改善は必要になってきます。
食生活
食生活を見直すことで糖尿病や脳卒中などの疾患予防に繋がり、枢性睡眠時無呼吸症候群だけでなく閉鎖性睡眠時無呼吸症候群も予防できます。
偏った食事をとり続けることで、生活習慣病のリスクを高めてしまうので「1日3食」バランスの良い食事を意識して、睡眠時無呼吸症候群を予防しましょう。
禁煙・禁酒
喫煙や禁酒は、心機能の低下や呼吸機能の低下、睡眠の質が低下するなどリスクがあります。
特にアルコールの過剰摂取は、中枢神経に抑制的に作用し低換気・無呼吸に繋がる危険もあるため注意が必要です。
睡眠時無呼吸症候群の診断を受けた方は、タバコとお酒は控えるようにしましょう。
運動療法
運動療法は、睡眠時無呼吸症候群の発生リスクを高める生活習慣病予防に効果が期待されています。
運動療法を行う場合は、軽めの運動から始めるようにして、徐々に運動量を上げていくようにしましょう。
初めから負荷の強い運動を行ってしまうと体調の悪化をきたす恐れがあるため、無理のないペースで行うことが重要です。
薬物療法
中枢性睡眠時無呼吸症候群の薬物治療として、ACE阻害薬、利尿薬、β遮断薬、ジギタリス製剤が挙げられます。
それぞれの薬物治療について解説していきます。
ACE阻害薬
ACE阻害薬(アンギオテンシン変換酵素阻害薬)は、血管を拡張することで血圧を下げる作用があります。
中枢性睡眠時無呼吸症候群の病因として「心不全」が挙げられますが、特に慢性心不全になると血管や心臓に大きな負荷がかかり続けてしまいます。
ACE阻害薬は、血管を拡張することで血管や心臓にかかる負荷を軽減することが可能です。
慢性心不全を持つ睡眠時無呼吸症候群の4割を中枢性睡眠時無呼吸症候群が占めており、ACE阻害薬は効果的な治療薬となっています。
利尿薬
利尿薬も、ACE阻害薬と同様に血圧を下げる効果がありますが、体内の水分を減らし心拍出量を減らすことで血圧を下げていきます。
心拍出量を減らすことで、心臓や腎臓への負担を軽減することができます。
しかし、利尿作用の効果で排尿量が多くなり電解質バランスの異常や脱水に繋がる危険もあるため、排尿量と飲水量に大きな差が出ないように注意が必要です。
β遮断薬
β遮断薬は、交感神経の働きを抑えることで心臓への負担を軽減する作用があります。
高血圧や狭心症などに効果的な治療薬で、中枢性睡眠時無呼吸症候群の発生リスクも軽減することが可能です。
しかし、β遮断薬は交感神経の働きを抑えるため心拍出量が下がります。
そのため、血圧低下やめまいなどの副作用が現れる可能性もあるため注意しましょう。
副作用などの症状を感じたら、すぐに医師に相談するようにしてください。
ジギタリス製剤
ジギタリス製剤とは、ACE阻害薬や利尿薬、β遮断薬とは違い、心臓の働きを助ける強心薬として使用されます。
心臓の収縮力を助けるため血液循環の改善が見られ、心不全の治療薬として使用されています。
中枢性睡眠時無呼吸症候群の病因として心不全が挙げられるので、中枢性睡眠時無呼吸症候群の治療にも繋がる治療薬です。
中枢性睡眠時無呼吸症候群の対策
中枢性無呼吸症候群の対策方法として「睡眠時の体位」と「呼吸法」の2つがあります。
睡眠時の体位
睡眠時の体位が仰向けだと、舌などが重力によって下がり気道を塞ぐ恐れがあるため、睡眠時無呼吸症候群のリスクに繋がります。
そのため、睡眠時は横向きになることで気道閉鎖を予防することができるため、横向きで寝ることが推奨されています。
呼吸法
睡眠時無呼吸症候群は、息苦しさを感じる場合があります。
正しい呼吸法を行うことで、リラックスでき酸素の十分に取り込むことに繋がります。
呼吸をする際に、意識するのは息を吸う時ではなく「息を吐く時」です。
息をしっかり吐くことで、自然と十分な酸素を取り込みやすくなります。
吸うことを意識してしまうと身体に余分な力が入り、ストレスがかかるため正しい呼吸法を意識していきましょう。
睡眠時無呼吸症候群と思ったらセルフチェック
自分が睡眠時無呼吸症候群かもしれないと不安に思ったら、セルフチェックを受けてみることをおすすめします。
診断をするものではなく、自分が気になる項目があれば医師に相談してみましょう。
まとめ
中枢性睡眠時無呼吸症候群とは、いびきをかかない睡眠時無呼吸症候群です。
心不全や糖尿病、腎臓病などを病因とし生活習慣病の改善や薬剤療法で治療していきます。
「もしかしたら、自分も睡眠時無呼吸症候群かもしれない…」と気になることがあれば、セルフチェックを行ってみましょう。
当てはまる項目が多いからと言って、睡眠時無呼吸症候群と診断されるものではありません。
チェックをしてみて、気になる項目があれば医師に相談してみてください。
よくある質問
Q.中枢性睡眠時無呼吸症候群の対策はありますか?
A.中枢性睡眠時無呼吸症候群は、心不全や糖尿病、腎臓病などの疾患に関連して発症することが多く、生活習慣の改善(食事療法や運動療法)から行っていくことが大切です。
Q.自分が睡眠時無呼吸症候群か心配なのですが、どうしたらいいですか?
A.まず、症状があるか確認してください。「寝たのに疲れが取れない、日中眠気が強い、作業に集中できない」等の症状があれば、セルフチェックを行いましょう。その後、気になる点があれば医師に相談することをおすすめします。
参考文献
- 睡眠障害(睡眠時無呼吸症候群) – 東京予防クリニック
- 睡眠時無呼吸症候群について Sleep apnea syndrome (SAS)
- こんないびきは要注意
- 更新日2021年6月14日 中枢性睡眠時無呼吸の原因と治療(薬物療法と生活改善)
- 最終更新日 :2021/10/12 いびきをかかない方法を探す前に睡眠時無呼吸症候群の検査を
- 睡眠時無呼吸症候群 – おおしも内科
- 睡眠障害(睡眠時無呼吸症候群) – 東京予防クリニック
- 著者Kingman P. Strohl, MD, Case School of Medicine, Case Western Reserve University更新日 2019年 2月、中枢性睡眠時無呼吸症候群
- 睡眠時無呼吸症候群(SAS)について
- 最終更新日 :2021/10/12 いびきをかかない方法を探す前に睡眠時無呼吸症候群の検査を
- 睡眠時無呼吸症候群(SAS)とは
- 更新日 2017年8月10日 【医師解説】中枢性睡眠時無呼吸症候群とは?原因と治療
- 横向き・仰向け・うつ伏せ? 快眠できる姿勢は人それぞれ
- 更新日2021年10月19日 睡眠時無呼吸症候群時の正しい寝方とは?治療法や自力でできる対策も解説
- 正しい呼吸とは?
- 無呼吸症候群の原因はストレスにあった!?