睡眠時無呼吸症候群ってどんな病気?
はじめに、睡眠時無呼吸症候群とはどのような病気なのか、基本情報について解説していきます。
睡眠時無呼吸症候群とは
睡眠時無呼吸症候群(SAS:Sleep Apnea Syndrome)とは、何らかの原因で睡眠中に気道が狭くなり、しばしば呼吸が止まってしまう(無呼吸状態になる)病気です。
現在、睡眠時無呼吸症候群の罹患者は増加傾向にあります。2019年の報告では、日本の患者数は940万人以上と推計されていますが、中には検査や治療を受けていない人もいるため、実際の患者数はもっと多いとする報告もあります。
今や、睡眠時無呼吸症候群は「現代病」といっても過言ではありません。
主な症状
睡眠時無呼吸症候群の主な症状は、無呼吸によって中途覚醒が起こり、睡眠が阻害されることによる慢性的な睡眠不足と、日中の激しい眠気、集中力の低下などです。あわせて、睡眠時無呼吸症候群の大きな特徴として、睡眠時はほぼ毎回大きないびきをかきます。
具体的な症状を下記にまとめました。
- <寝ている間>
- ・睡眠中はほぼ毎回家族に指摘されるほど大きないびきをかく
- ・寝ている間にしばしば呼吸が止まる
- ・息苦しさを感じて目が覚めることがある
- ・寝ている間によくむせる
- ・尿意で何度も目が覚める
- ・寝汗をたくさんかく
- ・寝相が悪い
- <起床時・活動している間>
- ・起きると喉がすごく乾いている
- ・熟睡感がない
- ・起床時に頭痛や倦怠感がある
- ・日中に強い眠気を感じる
- ・集中力が続かない
こんな人は無呼吸に要注意!
睡眠時無呼吸症候群になりやすい人として、最もあげられるのが肥満体型の人です。
肥満になると、腹部のみならず首や舌、喉にも脂肪が付きます。その結果、横になったときに脂肪が気道を圧迫し、いびきや無呼吸が発生しやすくなるのです。
しかも、日本人は首が短くて太かったり、下顎が小さくて奥まっていたりする人が多いため、少々の肥満でもすぐに首周りに脂肪が付いて、無呼吸を起こします。
それゆえに、日本人は体型に関係なくいびきや無呼吸を発症するため、注意が必要です。
その他に、いびきや無呼吸の原因になり得る特徴をまとめました。
- ・飲酒、特に寝酒をよくする
- ・タバコをよく吸う
- ・男性、特に40代〜60代の中年世代(特に肥満体型になりやすい)
- ・閉経後の女性(閉経すると女性ホルモンの分泌量が低下して、いびきをかきやすくなる)
睡眠時無呼吸症候群になると死ぬ可能性があるの?
睡眠時無呼吸症候群は、寝ている間に睡眠が阻害されて慢性的な睡眠不足に陥ってしまう疾患ですが、治療せず放置すると死亡する可能性があるといわれています。それは、本当なのでしょうか?
合併症によって突然死する可能性がある
睡眠時無呼吸症候群になると、死ぬ可能性があるというのは本当です。
睡眠時無呼吸症候群は、放置すると次々と危険な合併症を発症し、場合によっては突然死する恐れがあります。
実際、睡眠時無呼吸症候群に罹患している男性を対象に、無呼吸を治療した場合としなかった場合で合併症による死亡率に差が出るのか調査が行われました。
その結果、治療しなかった場合、9年間で約4割の人が合併症によって死亡すると報告されました。また、別の調査では、重症無呼吸患者は健常者と比べて死亡率が2.6倍に上昇することも報告されています。
こうした調査からもわかるように、睡眠時無呼吸症候群は命を落とすとても危険な病気といえるのです。
【注意】「無呼吸=窒息して死ぬ」は誤った認識
上記のように、「睡眠時無呼吸症候群は命を落とす可能性がある」とお伝えすると、無呼吸を「呼吸が何らかの原因で止まって死ぬ」と捉え、「無呼吸=窒息して死ぬ」と勘違いしてしまう人がいますが、それは誤った認識です。
確かに、無呼吸は寝ている間に本人の意思とは関係なく呼吸が止まってしまう症状ですが、しばらく無呼吸状態が続くと脳は酸素不足になっていることに気づき、自ら呼吸を再開させて酸素を取り込みます。
対して、窒息というのは空気の通り道が何らかの原因で塞がれ、新鮮な空気を取り込めなくなった状態です。よく、子供や高齢者が食べ物を喉に詰まらせて死亡する事故がありますが、まさにこれが窒息です。
そして、無呼吸は基本的に睡眠中に発生し、発生したとしてもすぐに命に関わることは少ないです。反対に、窒息は睡眠時・起床時に関係なく発生する可能性があり、窒息状態になると極めて短時間で死に至ります。
こうした違いがあるため、無呼吸と窒息は全く別のものであると認識しましょう。
睡眠時無呼吸症候群が引き起こす合併症
では、ここからはより具体的に睡眠時無呼吸症候群が引き起こす合併症について深掘りしていきます。
睡眠時無呼吸症候群が慢性化するとまず現れるのが、高血圧の症状です。
無呼吸状態になった脳は酸素が足りないことを感知すると覚醒し、呼吸を再開させます。このとき、交感神経を優位にさせて血流を活発にすることで酸素不足を解消しようとしますが、同時に血圧も上昇します。
この一連のパターンが繰り返されることで血圧の上昇が続き、高血圧になります。
そして、高血圧が長期間続くと、血管に負担がかかることで動脈硬化を発症し、それが最終的には心臓病や脳卒中の原因となります。これらの疾患は、非常に死亡率の高い疾患で、厚生労働省の日本人の疾患別の死亡率ランキングでもベスト5に含まれています。
このような背景によって、睡眠時無呼吸症候群は最悪命を落とすかもしれないと危険視されているのです。
他にも、糖尿病や肥満の悪化、うつ病などの原因にもなるといわれています。
居眠り運転による交通事故でも死亡する可能性が…
上記のような身体的・精神的な疾患を引き起こし、突然死のリスクを高める睡眠時無呼吸症候群ですが、同じくらい危険とされているのが、居眠りによる交通事故・労働災害です。
睡眠時無呼吸症候群は、中途覚醒によって慢性的な睡眠不足に陥る疾患ですが、本人には無呼吸を起こしている自覚はありません。ですので、なぜ自分が寝不足を感じているのかわからないまま過ごしてしまうため、車の運転による交通事故をはじめとした医療事故や労働災害などの原因となってしまうのです。
実際、過去にも車、バス、トラック、電車、貨物船の運転手が、無呼吸を発症していながら業務を続けたことで事故が発生し、死傷者が出た事例も多数報告されています。
こうした事態を受け、政府は睡眠時無呼吸症候群の早期発見と治療を強く呼びかけていますが、まだまだ世間的には周知されていないのが実態です。
もし、「最近寝不足だな…」と感じる場合は、前述した睡眠時無呼吸症候群の症状や発症しやすい特徴を確認し、自分に当てはまっているかチェックしてみてください。複数の項目で当てはまっている場合は、睡眠時無呼吸症候群の発症が疑われますので、速やかに医療機関を受診しましょう。
睡眠時無呼吸症候群の診断から治療まで
ここからは、医療機関を受診したらどのような流れで検査・診断・治療が行われるのか解説していきましょう。
検査と診断について
医療機関を受診すると、次のような流れで検査を行い、診断をしていきます。
- 1.問診
- 2.簡易検査(スクリーニング検査)
- 3.精密検査(終夜睡眠ポリグラフィー検査)
- 4.最終診断
問診から簡易検査
まずは、問診です。昼間の眠気や既往歴、体調の変化、いびきの有無などの確認を行います。
問診で無呼吸の疑いがあると判断された場合は、簡易検査(スクリーニング検査)を行います。この検査では、医療機関からレンタルした検査機器を自分で取り付けて、自宅で普段と同じように寝てもらい、いびきや呼吸の状態から無呼吸の発生を調べます。
睡眠時無呼吸症候群の評価は、「AHI(無呼吸低呼吸指数)」によって判定され、無呼吸(睡眠時に呼吸が10秒以上停止している状態)と低呼吸(睡眠時の呼吸が通常時の半分程度になる状態)が1時間に何回出現するかのよって判定します。
簡易検査の場合は、AHIが40以上だと、その場で重症の睡眠時無呼吸症候群と診断されます。
精密検査から最終診断
簡易検査の結果が40未満だった場合や、より詳しい検査が必要と判断された場合は、最後の精密検査に進みます。
精密検査で行われる終夜睡眠ポリグラフィー検査は、医療機関に一泊していびきや呼吸状態、血中酸素飽和度、胸部・腹部の動き、脳波、心電図などの測定を行います。
検査の結果、AHIが5以上だと睡眠時無呼吸症候群と診断されます。
【重症度別】治療法について
無呼吸と診断されると、いよいよ治療の段階に入ります。さまざまな治療法がありますが、今回は無呼吸の重症度別に治療法を解説していきます。
軽症の場合
軽症の場合は、一般的に減量や体位療法、マウスピース治療が推奨されます。
まず、減量については肥満を持つすべての睡眠時無呼吸症候群の患者さんに推奨されています。前述したように、肥満は無呼吸で最もよく見られる原因で、無呼吸患者は肥満を患っている場合が多いです。
生活習慣の改善や食事療法、運動療法を取り入れることで減量し、首や舌の脂肪が減れば、気道が広がって症状の軽減につながります。
次に、体位療法ですが、これはわかりやすく言えば「横向きで寝る」という治療法です。
無呼吸を引き起こす舌の落ち込みは、横向きで寝るよりも仰向けで寝た方が助長されるため、発作を予防するためにも横向き寝が推奨されています。
最後に、マウスピース治療は歯に器具を装着して寝るという治療法です。そうすることで下顎が後方に落ちにくくなって気道が広がるため、症状の改善が期待できます。
中等症から重症の場合
AHIが20以上の中等症〜重症の場合では、CPAP治療が最も推奨される治療法となります。
CPAP治療とは、口や鼻を覆う特殊なマスクを装着し、そこから空気を送ることで睡眠中に気道が塞がらないようにする治療法です。CPAP治療は中等症以上の無呼吸には非常に効果が高く、安全性も高いとして、多くの医療機関で実施されています。
ただし、マスクの装着や、夜通し空気が送り込まれ続けることに慣れる必要があるなど、デメリットがあるのも事実です。
他にも、中等症〜重症の患者であれば外科的手術を行うのも1つの選択肢です。
鼻や咽頭に異常があってもともと気道が狭い場合や、顎や顔の形によって気道が狭い場合は、外科的手術による原因の除去が選択肢になり得ます。
しかし、治療にはさまざまな条件や術後の副作用、ダウンタイムがあるなど、乗り越えなければいけないハードルがいくつもあります。
CPAP療法も外科的手術も、共に中等症〜重症の無呼吸には十分効果を発揮する治療法です。実施する際には医師とデメリットなども含めてしっかり相談し、適切な治療を選択するようにしてください。
まとめ
今回は、「睡眠時無呼吸症候群によって死ぬ可能性はあるのか」ということについて徹底解説しました。
睡眠時無呼吸症候群は、初期症状は慢性的な睡眠不足などの症状が見られますが、治療せず放置すると命を落とす危険な合併症を次々に引き起こします。
ですので、この記事を読んで症状に心当たりがあったり、家族に似たような症状が現れたりしている場合は、速やかに医療機関を受診し治療を受けるようにしてください。
よくある質問
Q.睡眠時無呼吸症候群によって死亡することはありますか?
A.睡眠時無呼吸症候群を放置すると、危険な合併症を次々と引き起こし、最悪死亡する可能性があります。
Q.睡眠時無呼吸症候群の治療法はどんなものがありますか?
A.CPAP治療をはじめ、さまざまな治療法があります。検査や治療法の詳しい解説は、「睡眠時無呼吸症候群の検査や治療にかかる費用はいくら?原因や治療法も解説」 にも記載されています。