睡眠時無呼吸症候群って何?
まずは、睡眠時無呼吸症候群とはどのような病気なのか、詳しく説明していきます。
睡眠時無呼吸症候群とは
睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Syndrome:SAS)とは、睡眠中に繰り返し呼吸が浅くなったり、止まったりする病気です。発症すると、寝ている間に呼吸をしていない状態(無呼吸状態)に何度も陥るため、呼吸が止まるたびに中途覚醒を起こし、慢性的な睡眠不足に陥ります。
その結果、日中の強い眠気や、判断力の低下を引き起こすのです。この疾患は、睡眠障害の中でも近年特に患者が増えており、「21世紀の現代病」とも言われています。
無呼吸を引き起こすメカニズムは、空気の通り道である気道が、狭くなったり閉塞したりすることが要因です。通常、起きている間は筋肉によって支えられているので、気道が狭まって呼吸が止まることはありません。しかし、睡眠中は気道や舌の周りの筋肉が緩んで脱力するため、舌が重力によって落ち込み、気道を塞ぐようになってしまうのです。
どんな症状がみられるの?
上記のように、狭くなった気道を無理やり空気が通るため、粘膜が振動して睡眠中は毎回大きないびきをかきます。ですが、本人は寝ているので、無呼吸になっている、もしくはいびきをかいていることに気づきません。
そのため、家族やベッドパートナーから「いびきがうるさい」と指摘されて、ようやく気づくケースが大変多いです。
下記に、いびきをはじめとした睡眠時無呼吸症候群の主な症状を記載しているので、3つ以上当てはまる場合は、医療機関を受診するようにしてください。
<寝ている間>
・毎晩いびきをかく
・いびきがよく止まる
・たびたび呼吸が止まる
・息苦しさを感じて起きることがある
・夜中に何度も目が覚める
・寝汗をかく
・尿意で目が覚めることがある
<起きている間>
・しっかり寝たはずなのに、日中に強い眠気を感じる
・熟睡感がない
・ひどい倦怠感がある
・集中力がもたない
・居眠りをしてしまうことがある
睡眠時無呼吸症候群の原因
睡眠時無呼吸症候群の発症にはさまざまな原因がありますが、代表的な原因は肥満です。肥満になると、腹周りだけでなく首や舌にも脂肪がつくため、それが寝ている間に気道を圧迫して無呼吸を引き起こします。そのため、若いときから10kg以上太ったという方は要注意です。
また、日本人特有のあごの骨格も無呼吸につながる大きな原因です。日本人は欧米人よりも小顔で、あごが小さく、そして首が短いという特徴があります。
すると、わずかな肥満でも首などに脂肪がついてしまうため、気道が容易に狭められてしまうのです。ですので、日本人は太っていなくても睡眠時無呼吸症候群に陥る可能性が高いため、気をつける必要があります。
本当は怖い!睡眠時無呼吸症候群の合併症
しかし、寝ている間にときどき呼吸が止まってしまうことが、どうしてそんなに問題なのでしょうか?それは、睡眠時無呼吸症候群は死に直結する危険な合併症を引き起こす恐れがあるからです。
睡眠時無呼吸症候群は、睡眠中に何度も呼吸が止まるため、低酸素状態に陥ります。すると、脳は「緊急事態だ!」と判断し、血流を増やそうと心拍数を急激に上げます。これにより引き起こされるのが、高血圧です。
この高血圧は、糖尿病や動脈硬化などの生活習慣病を併発し、肥満を悪化させてより無呼吸を起こしやすくします。そして、慢性化すると脳卒中や心筋梗塞など、命に関わる合併症の発症リスクを高めてしまうのです。
また、日中の居眠りによる交通事故や労働災害、うつ病の発症にもつながる恐れがあるため、睡眠時無呼吸症候群を放置することは大変危険です。
睡眠時無呼吸症候群の治療〜CPAPについて〜
上記のように、睡眠時無呼吸症候群を治療せずに放っておくことは、命に関わります。そのため、なるべく早い治療が肝心です。そこで、睡眠時無呼吸症候群の治療として多くの病院で行われている方法が、CPAPです。
CPAP(シーパップ)とは
CPAP(経鼻的持続陽圧呼吸療法:Continuous Positive Airway Pressure)とは、CPAP装置本体から鼻に装着したマスクを通して持続的に空気を送ることで、気道を広げて寝ている間に無呼吸が起きないようにする治療法です。現在、日本国内や欧米で最も普及している治療法で、多くの医療機関で実施されています。
CPAP治療を適切に行うことで、睡眠中のいびきや無呼吸が徐々に減少し、熟睡感が得られるようになります。また、治療を継続することで日中の眠気が少なくなる、夜中に目覚める回数が減る、血圧が低下するといった効果も期待できます。
CPAPのメリット
では、CPAPにはどのようなメリットがあるのか、詳しく見ていきましょう。
侵襲性が低い
メリットの1つ目は、侵襲性(しんしゅうせい)が低いことです。侵襲性とは、医学用語で人間の恒常性を脅かす危険があることを意味します。体に針を刺したり(注射・点滴など)、薬を投与したり、処置をしたことで出血を伴ったりすると、侵襲性が高いと表現されます。
CPAPは、装着したマスクから空気が送り込まれるため、侵襲性が低い治療に分類されます。何か薬を投与するわけでも、処置による出血を伴ったりするわけでもありません。ですので、体への負担は比較的少ない治療といえるでしょう。
自宅で使うことができる
メリットの2つ目は、自宅での使用が可能なところです。CPAPは医療機関から装置をレンタルして、治療は基本自宅で行います。
ですので、特別な医学的知識のない一般人でも、簡単に使用することができます。それだけ、CPAPは複雑な操作や難しい技術を必要としない、画期的な治療法でもあるのです。
CPAPのデメリット
上記のように、CPAPは体への負担が少なく、また複雑な操作を必要としないシンプルな仕様であるため、医療の知識のない一般人でも簡単に使用することができます。
しかし、CPAPには次のようなデメリットもあります。
使用中の息苦しさや不快な症状
最初のデメリットは、装置使用中の息苦しさです。
CPAPは、常に鼻から空気が送り込まれ続けるため、人によっては非常に不快感を覚えます。また、装置の使用によって次のような症状が現れることもあります。
・お腹が張る感じがする
無意識に空気を飲み込んでしまうために、お腹が張る。ときにはおならが出やすくなることも。
・マスクを装着していた周辺の皮膚がかぶれたり赤くなったりする
マスクを強く締め付け過ぎているために、その周辺の皮膚に痛みやかゆみ、かぶれ、赤みが出ることがある。
・目や口が乾いてしまう
マスク周りからの空気漏れが原因で、目や口が乾燥してしまう。
・耳鳴りがする
耳と鼻は直接つながっているため、圧力のかかった空気が耳に抜けて不快感を覚える。
上記のような症状は、マスクのフィッティングや空気圧の調整などを行えば、ある程度抑えることはできます。しかし、なかなか慣れることができず、途中で治療を断念してしまう人も実は多いのです。
自宅でしか使えない
先ほど、CPAPは装置がシンプルなため、自宅で使用できるとお伝えしましたが、これは見方を変えればデメリットでもあります。
CPAP装置は、電源設備がないと動きません。マスクを装着している間はずっと電力供給が必要なため、長距離ドライブ中や飛行機内など、長時間の電力供給が難しい場所で睡眠をとる人は使うことができなくなります。
また、装置自体も大きく持ち運びには不便なため、旅行先や宿泊先に持ち込むことが難しい場合もあります。
このように、CPAP装置には自宅で使用可能というメリットがありますが、裏を返せばそれは「自宅でしか使えない」ことを意味しているのです。
軽症の睡眠時無呼吸症候群だと保険適用にならない
睡眠時無呼吸症候群の代表的な治療法であるCPAPですが、実は治療が保険適用となるのは重症の場合に限られます。
睡眠時無呼吸症候群の診断をするために、医療機関では次のような検査を行います。
・簡易検査:自宅で行う
・精密検査:医療機関に一泊して行う
これらを行った結果、簡易検査でAHI(無呼吸低呼吸指数)が40以上、精密検査でAHIが20以上だと重症の睡眠時無呼吸症候群となり、保険適用でCPAP治療を受けることができます。
逆に、簡易検査でAHIが20以下だった場合、もしくは簡易検査でAHIが20以上40未満で、のちに行った精密検査の結果がAHI20以下だった場合は、軽症の睡眠時無呼吸症候群だと診断され、CPAP治療の保険適用から外されてしまうのです。
鼻に疾患があると使えない
CPAPは、鼻に装着したマスクから空気を送り込むため、鼻に疾患があると治療を行うことができません。
アレルギー性鼻炎によって鼻が詰まっている場合や、鼻中隔湾曲症など鼻の形状に異常がある場合は、まずそちらの治療を行った上でCPAP治療の実施が検討されます。
長期的に使い続ける必要がある
CPAPは、適切に行えば無呼吸を防止する効果が非常に高い治療法です。しかし、CPAPはあくまで対症療法です。そのため、CPAPだけでは、いびきや無呼吸を完全に治療(根本治療)することはできません。
例として、世の中には視力を補うために、メガネをかけている人が多くいます。確かに、メガネをかけると視界がクリアになり、日常生活を快適に過ごすことができます。しかし、そのメガネをかけることで視力が回復し、元通りになるわけではありません。クリアな視界で生活するためには、一生メガネをかけ続ける必要があります。
CPAPもメガネと同じです。CPAPを使っている間は、無呼吸が抑えられ、ぐっすり眠ることができます。ですが、あくまで無呼吸を抑えて悪化を防いでいるだけなので、CPAPを使わなくなると再び無呼吸症状が現れ、熟睡することができなくなります。
実際、自己判断でCPAPの使用を中止してしまったがために、無呼吸が再発してしまったケースは多くあります。つまり、二度と無呼吸を起こさないためには、半永久的に使い続けなければならないのです。
正直CPAPはデメリットの方が大きいけれど…
このように、CPAPにはメリットもありますが、実際はデメリットの方が多くあるのが現状です。では、どうしてこんなに不便さを伴うCPAPが、無呼吸治療の第一選択肢として医療機関で頻繁に行われているのでしょうか?
CPAPは最も有効的で安全な治療法
それには、CPAPの侵襲性の少なさが影響しています。
無呼吸治療には、CPAPの他に、歯に装着して舌の落ち込みを防ぐマウスピースや、鼻腔内にチューブを挿入して空気の通り道を確保するナステント、外科手術などがあります。どれも、無呼吸を治療するには効果的な方法ではありますが、それぞれ次のような不安要素があります。
・マウスピース:軽症の無呼吸の治療としてよく行われるが、口の中に装置をはめ込むため少々侵襲性あり。(マウスピース制作費やメンテナンス費もやや高額)
・ナステント:鼻の中にチューブを入れるため、侵襲性はやや高め。
・外科手術:メスやレーザーを使用するので出血・痛みを伴う。よって、侵襲性はかなり高い。合併症を引き起こす危険もある。
上記の点を踏まえると、侵襲性の低さという点では、やはりCPAPが優れています。そのため、誰でも自宅で簡単に使用できて、なおかつ体へのダメージをなるべく減らせるCPAPは、無呼吸治療において最も有効的で安全な治療法といえるでしょう。
医師と相談して慎重に治療の検討を
CPAPの実施には、いろいろと制約があるのも事実です。そのため、どのような方法・プランで治療を行っていくのかは、医師としっかり相談する必要があります。
そして、どんな治療法にもメリットがあればデメリットもあります。自分にはどんな治療法が適切なのか、どうすればストレスをより少なくできるのか、じっくり検討することが大切です。
まとめ
今回は、CPAPのメリットとデメリットについて解説しました。
睡眠時無呼吸症候群は、慢性的な睡眠不足だけでなく、さまざまな合併症を引き起こす可能性がある危険な病気です。症状に心当たりがある場合は躊躇せず、医療機関に相談するようにしてください。
CPAPにはさまざまなメリットやデメリット、制約、ルール、リスクがあります。それらをちゃんと理解し、医師とじっくり話し合った上で、根気よく治療を続けることが大切です。
この記事が、睡眠時無呼吸症候群で悩む人が治療を始めるきっかけになれば、幸いです。
よくある質問
Q.CPAPとは何ですか?
A.CPAPとは、睡眠時無呼吸症候群の治療法のひとつで、鼻に装着したマスクから空気を送り込み、気道の閉塞を防ぎます。
Q.CPAPにはどんなデメリットがありますか?
A.常にマスクから空気が送り込まれるため、息苦しさを感じる場合があります。また、マスクや空気圧の調整が必要だったり、持ち運びに不便だったり、長期的な使用が必要だったりなどの不便さも伴います。