睡眠時無呼吸症候群とは
はじめに、睡眠時無呼吸症候群がどのような病気で、どんな原因により発症するのか解説していきましょう。
どんな症状?
睡眠時無呼吸症候群(SAS:Sleep Apnea Syndrome)は、睡眠中に呼吸が止まる無呼吸状態に何度も陥ることで、慢性的な睡眠不足や日中の激しい眠気を感じるようになる疾患です。
主な症状は、慢性的な睡眠不足による倦怠感や熟睡感の欠如、そして日中の耐え難い眠気などがあります。加えて、睡眠時無呼吸症候群を発症している人は、気道がさまざまな原因によって狭められているため、睡眠時はほぼ毎回大きないびきをかきます。
このいびきは、一緒に寝ている人が苦痛を感じるレベルの騒音で、ほとんどの場合家族やベッドパートナーからいびきを指摘されて病院を受診し、発症が判明します。
「周囲に指摘されるほどのいびきをかいているのに、本人は気づかないの?」と多くの人は思うでしょうが、本人にいびきや無呼吸を起こしている自覚はありません。本人の自覚がないままにじわじわと症状が悪化し、気づいたら重症化しているというのが、この疾患の恐ろしいところでもあります。
下記に、睡眠時無呼吸症候群のセルフチェックを記載しています。症状に心当たりのある人は、ぜひ試してみてください。
<睡眠時無呼吸症候群のセルフチェック>
(2個以上当てはまると睡眠時無呼吸症候群の可能性があります)
- ・ほとんど毎晩いびきをかく
- ・家族や周囲の人に指摘されるぐらい大きないびきをかく
- ・睡眠中に呼吸が止まる
- ・しばしば、首を絞められたような窒息感で目覚める
- ・朝、目を覚ましたときにスッキリせず、熟睡感がない
- ・日中に強い眠気を感じる
- ・居眠り運転で事故を起こしたことがある
- ・しっかり寝たはずなのにいつも体がだるい
- ・夜中に2回以上尿意で起きる
- ・寝汗をかく
- ・寝相が悪い
- ・20代よりも20kg以上太って肥満になった
- ・血圧が高い
原因は何?
睡眠時無呼吸症候群の原因で最も多いのが、肥満です。
肥満になると、上半身を中心に腹部や首周り、舌、喉にも脂肪がつきます。人間は、寝ている間は全身の筋肉が弛緩して、舌が喉の奥に落ち込みやすくなります。肥満だと、さらに脂肪によって気道が狭められてしまいます。その結果、気道が閉塞して無呼吸になり、大きないびきをかくようになるのです。
肥満と同じく、日常的な喫煙や睡眠前の飲酒も、気道を狭めて無呼吸を起こしやすくするため、習慣化している人は注意が必要です。
さらに、いびきや無呼吸はあごの骨格や、鼻の疾患(アレルギー性鼻炎や慢性副鼻腔炎など)によって口呼吸になることでも誘発されます。このような場合は、鼻疾患の治療も一緒に行わなければいけないので、早めに医療機関を受診することが大切です。
睡眠時無呼吸症候群の合併症
夜にいびきをかいたり呼吸が止まったりすることが、どうしてそれほど重要なのでしょうか?それは、睡眠時無呼吸症候群は放置すると危険な合併症を次々と引き起こしてしまうからです。
まずは高血圧です。睡眠中に何度も無呼吸になると、脳は活動するのに必要な酸素が不足しているため、酸素を取り込もうと覚醒を促します。すると、心拍数を上昇させて全身の血流を活発にします。その結果、血圧が上がり、高血圧になってしまうのです。
そして、高血圧の状態が長く続くと、血管に負担がかかって動脈硬化を引き起こし、いずれは心筋梗塞や脳卒中などを発症するリスクを高めます。これらの疾患は、突然死につながりかねない危険な病気です。
また、日中の居眠りによる交通事故や労働災害による死亡事故や、不眠によるうつ病発症の可能性もあります。そのため、睡眠時無呼吸症候群は絶対に放置せず、速やかに医療機関で治療を受けることが非常に重要です。
こちらの記事でも、睡眠時無呼吸症候群について解説しているので、ぜひご覧ください。
睡眠時無呼吸症候群には2種類ある
上記が、睡眠時無呼吸症候群の基本的な症状や原因、合併症についての情報です。
しかし、ときどき睡眠時無呼吸症候群は最初に「閉塞性」が付いて「閉塞性睡眠時無呼吸症候群」と呼ばれることがあります。一体何が違うのでしょうか?
実は、睡眠時無呼吸症候群には2種類あり、そのうちのひとつが、閉塞性睡眠時無呼吸症候群なのです。
閉塞性睡眠時無呼吸症候群
閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA:Obstructive Sleep Apnea syndrome)とは、前章で紹介したように、さまざまな原因によって気道が狭くなることで発症する無呼吸症候群を指します。無呼吸症候群に罹患している人のほとんどがこのタイプで、国内の推定患者数は900万人以上いるといわれています。
閉塞性タイプの無呼吸で特徴的な症状は、何よりいびきです。発症すると毎晩のように大きないびきをかき、家族や周囲の人にかなりの影響を与えます。
しかし、本人は自覚症状に乏しい上に、無呼吸の危険性が世間的にもあまり認知されていません。そのため、実際に治療を受けている患者は900万人以上いるうちの50万人に満たないといわれています。
このように、治療をつい後回しにしてしまうことや、いびき・無呼吸は病気であるという認識があまり浸透していないことから、「隠れ無呼吸」がたくさん生まれているのが、この疾患の現状です。突然死につながりかねない合併症を発症する危険もあるため、日中の強い眠気を感じた場合は、速やかに医療機関を受診することが大切です。
中枢性睡眠時無呼吸症候群
睡眠時無呼吸症候群のもうひとつのタイプが、中枢性睡眠時無呼吸症候群(CSA:Central Sleep Apnea syndrome)です。
中枢性睡眠時無呼吸症候群を発症する原因は、閉塞性のように気道の部分的、もしくは完全な閉塞ではありません。中枢性無呼吸は、呼吸を調整する脳の働きが何らかの原因で低下し、正常に働かなくなることによって発症します。
本来、呼吸は脳にある呼吸中枢によってコントロールされ、意識せずとも鼻や口から空気を取り込んで呼吸が維持されています。ですが、この呼吸中枢が心臓や脳の異常によってうまくコントロールできなくなると、呼吸が制御できなくなって無呼吸を起こしてしまうのです。
中枢性睡眠時無呼吸症候群の原因となる疾患
では、なぜ呼吸中枢に異常をきたしてしまうのでしょうか?原因のひとつは、心不全です。心不全とは、心臓の働きが急激に低下し、全身に血液を送り出せなくなる疾患です。
呼吸のコントロールを行う呼吸中枢は、血液中を流れる二酸化炭素などに反応して、呼吸の命令を出すという仕組みになっています。ところが、心不全になって血流が悪くなると、二酸化炭素を十分に送れなくなり、呼吸中枢がうまく反応できなくなってしまうのです。
他にも、脳卒中などにより脳の呼吸中枢そのものがダメージを負って、呼吸が制御できなくなる場合や、腎不全に合併する場合もあります。加えて、高地に移動したときに生じるタイプ、そして原因が分からない特発性の中枢型無呼吸なども報告されています。
閉塞性との決定的な違い
一見、中枢性と閉塞性は共に無呼吸を発症するため、違いがないように見えます。しかし、この2つには決定的な違いがあります。それは、中枢性睡眠時無呼吸症候群ではいびきの症状が見られないことです。
中枢性睡眠時無呼吸症候群は、呼吸に関する指令を出している脳に不具合が生じることで発症します。そのため、中枢性の場合は気道の閉塞が発生しないため、いびきをかきません。その代わり、閉塞性には見られない「チェーンストークス呼吸」という特有の呼吸が見られます。
チェーンストークス呼吸とは、無呼吸になる前に呼吸音が徐々に大きくなったのちに小さくなって最終的には止まってしまう、中枢性無呼吸の特徴的な呼吸パターンです。発生する原因は、呼吸中枢の障害によって呼吸量を調整できなくなるためだといわれており、医療機関では中枢性無呼吸を診断する際の重要な手がかりとされています。
閉塞性と中枢性のミックスタイプもある
非常にまれですが、閉塞性と中枢性の両方の性質を合わせ持った、混合型睡眠時無呼吸症候群(MSA:Mixed Sleep Apnea syndrome)もあります。このタイプは、中枢性よりは患者数は多いとされていますが、閉塞性ほどの患者数はいません。
そして多くの場合、閉塞性睡眠時無呼吸症候群と同じように症状を発症し始め、治療も同様のものが行われます。
診断法に違いはある?
ここからは、閉塞性無呼吸と中枢性無呼吸の診断法と治療法についての違いの紹介をしていきます。まずは、診断法です。
閉塞性睡眠時無呼吸症候群の診断法
閉塞性無呼吸の診断は、自宅で行う簡易検査と、病院に一泊して行う精密検査によって行われます。
まず、医療機関を受診し、問診の結果無呼吸が疑われると、医療機関から睡眠時の脈拍と酸素飽和度(血液中にどれくらい酸素が含まれているか)を測定するためのパルスオキシメーターが貸し出されます。自宅で寝る前に手首と指に装着し、そのまま就寝します。
検査の結果、呼吸が10秒間以上止まる無呼吸や、酸素飽和度が平常時よりも3〜4%以上低下する低呼吸が、1時間あたり5回以上確認されると、無呼吸症状があると診断されます。
その後、より詳しく調べるために医療機関に一晩入院し、終夜睡眠ポリグラフ検査を行います。この検査は上記の簡易検査とは違い、脈拍や酸素飽和度に加え、脳波、眼球運動、筋電図、心電図など睡眠時のあらゆる体の状態を知ることができます。
検査を行い、無呼吸が5回以上確認され、日中の眠気などの自覚症状がある場合や、自覚症状はなくても終夜睡眠ポリグラフ検査で無呼吸が15回以上見られた場合は、閉塞性睡眠時無呼吸症候群と診断されます。
中枢性睡眠時無呼吸症候群の診断法
中枢性睡眠時無呼吸症候群でも、基本的な診断方法は閉塞性と変わりません。
ですが、簡易検査では測定できる項目が脈拍と酸素飽和度だけです。この時点では無呼吸が閉塞性タイプなのか、中枢性タイプなのか判断はできません。
そのため、両者を見分けるには精密検査である「終夜睡眠ポリグラフ検査」が重要になります。終夜睡眠ポリグラフ検査では、脈拍や酸素飽和度だけでなく、脳波、眼球運動、筋電図、心電図など睡眠時のあらゆる体の状態を測定できるのは、先ほど説明した通りです。
中枢性睡眠時無呼吸症候群は、呼吸状態の明らかな低下に加えて、心不全などの心疾患、そして閉塞性では見られないチェーンストークス呼吸が出現するという違いがあります。これらを見逃さず、異常を検知することで、中枢性睡眠時無呼吸症候群と確定診断することができます。
治療法の違いは?
閉塞性ではCPAP治療が主流
閉塞性睡眠時無呼吸症候群で最もポピュラーな治療法は、CPAP治療です。
CPAP治療とは、鼻に装着したマスクから空気を送り込むことによって、睡眠中の気道の閉塞を防いで無呼吸を改善するという治療法です。数多くの医療機関で実施されており、睡眠時無呼吸症候群の治療の中で最も安全で効果が高い方法とされています。
また、症状が比較的軽い場合は、歯にはめ込んで使うマウスピースや、鼻にチューブを装着する治療なども実施されます。
他には、無呼吸の原因がアレルギー性鼻炎や慢性副鼻腔炎による鼻詰まりの場合は、優先的に鼻疾患の治療が行われることもあります。
CPAPについてはコチラの記事でも解説していますので、ぜひ参考にしてみてください。
中枢性では薬物療法や生活改善も
中枢性無呼吸の治療の中心は、生活習慣の改善と薬物療法です。
生活習慣の改善では、減塩や禁煙、禁酒などによって心臓への負担の少ない生活習慣へ切り替える治療が行われます。また、心臓の状態を見ながら継続的な運動も取り入れ、心疾患を起こしにくい体づくりや、睡眠の質の向上を行います。
薬物治療では、血圧を下げる薬や、心臓の働きを助ける薬剤を効果的に活用し、心疾患の発症を抑制します。
中枢性無呼吸でもCPAP治療は行いますが、この場合はあくまで酸素投与や呼吸の補助として実施され、中心的に行われることは少ないです。一方、閉塞性ではCPAP治療を軸に無呼吸がこれ以上悪化しないように抑え、その間に肥満解消や生活習慣を改善する指導などが行われます。
まとめ
今回は、睡眠時無呼吸症候群における閉塞性タイプと中枢性タイプの違いについて解説しました。
両者は、共に睡眠中に無呼吸を発症するという点で共通していますが、発症の原因や症状などには違いが見られます。また、診断法や治療法にも異なる点があるのが特徴です。
共に放置すると次々と危険な合併症や疾患につながる恐れがあるため、心当たりがある場合は、なるべく早く医療機関を受診することが大切です。最近不眠症状に悩んでいるという人は、ぜひ本記事のセルフチェックを行い、自分の状態を把握するようにしましょう。
よくある質問
Q.睡眠時無呼吸症候群と閉塞性睡眠時無呼吸症候群とは何が違うのですか?
A.閉塞性睡眠時無呼吸症候群とは、睡眠時無呼吸症候群の種類のひとつで、閉塞性の他に「中枢性睡眠時無呼吸症候群」や閉塞性と中枢性の両方の性質を持った「混合性睡眠時無呼吸症候群」もあります。
Q.閉塞性睡眠時無呼吸症候群の原因や治療法は何ですか?
A.最も多い原因は、肥満による気道の閉塞で、治療はCPAP治療を行うのが一般的です。こちらの「【睡眠時無呼吸症候群とは?】原因や睡眠への影響について解説」で詳しく解説しているので、参考にしてください。