睡眠時無呼吸症候群と肥満の関係性は?
睡眠時無呼吸症候群には様々な原因疾患がありますが、その中でも最も多い原因として肥満が挙げられます。
睡眠時無呼吸症候群を持つ人の約70%が肥満であり、逆に肥満を持つ人の約40%が睡眠時無呼吸症候群に罹患すると言われているため、肥満と睡眠時無呼吸症候群には強い相関性があることが分かります。
国民の肥満の割合は約20-30%と言われており、もはや睡眠時無呼吸症候群は他人事とは言えない病気なのです。
しかし、なぜ肥満によって睡眠時無呼吸症候群に罹患しやすくなるのかご存知ない方も少なくありません。
そこで、今回は肥満で睡眠時無呼吸症候群になるメカニズムについて分かりやすく解説し、肥満の程度によるリスクや肥満以外のリスクについても解説させて頂きます。
肥満で睡眠時無呼吸症候群になるメカニズム
肥満は睡眠時無呼吸症候群の最大のリスクであり、気になるのは双方の関係性です。
結論から言えば、肥満によって首回りに脂肪がついてしまう為、空気の通り道である気道が狭くなってしまうことが原因です。
特に、睡眠中は舌の筋肉が弛緩することで徐々に舌根が落ちてしまい気道が狭くなってしまう為、空気が通りにくくなって呼吸が減る、もしくは一時的に止まりやすい状態になります。
そこに肥満が加わってしまうと気道がさらに狭くなってしまう為、睡眠時無呼吸症候群の併発に拍車をかけてしまうのです。
舌の落ち込みは「舌根沈下」と呼ばれる現象です。「舌根沈下」についてはコチラの記事で解説していますので、ぜひチェックしてみてください。
また、肥満の場合は腹部の脂肪が多く、仰向けになると腹側から肺が圧迫されてしまうため、呼吸の予備能力も低下してしまいます。
さらに、脂肪細胞から分泌されるレプチンには本来呼吸刺激作用がありますが、肥満の場合レプチンに対する感受性が低下してしまうため、呼吸刺激作用も低下してしまいます。
以上の理由から、肥満の場合は呼吸に対しての不利益が非常に多く、特に睡眠中には呼吸が止まりやすくなってしまうのです。
さらに、睡眠中の無呼吸や低呼吸は口呼吸を助長してしまいます。
人間は本来、鼻呼吸で呼吸する生き物ですが、特に睡眠時無呼吸症候群の方は睡眠中に口呼吸をする方が多いです。
鼻呼吸では空気が鼻腔の粘液で加湿され、空気中のゴミも回収されるため、適度に加湿された綺麗な空気が肺に流入しますが、口呼吸では汚く乾燥した空気が肺に流入するため、睡眠の質そのものを悪化させてしまいます。
このように、肥満は睡眠時無呼吸症候群のリスクであり、呼吸や睡眠に与える悪影響も大きいのです。
そこで次に気になるのは、「どのくらいの肥満だとリスクがあるのか」です。
セルフチェック!どれくらいの肥満だと危険?
肥満度と睡眠時無呼吸症候群の発症頻度には正の相関関係にあるため、肥満であればあるほど発症リスクや重症度も増悪してしまいます。
肥満度とは具体的にどういった指標なのでしょうか?
肥満度は主にBMI(kg/㎡)で考えられ、BMIとは体重(kg)を身長×身長(㎡)で除した数値であり、例えば体重60kg、身長160cmの方であればBMIは60÷1.6÷1.6=23.4になります。
BMI25以上を肥満1度、30以上を肥満2度、35以上を肥満3度、40以上を肥満4度と言い、日本人男性で約30%、女性で約20%が1度以上の肥満だと言われています。
過去の研究によれば、肥満2度の26%に中等症、60%に軽症の睡眠時無呼吸症が認められ、肥満4度では33%に中等症、98%に軽症の睡眠時無呼吸症が認められたそうです。
また別の研究では、体重が10kg増えるごとに睡眠時無呼吸症候群の発症リスクが2倍に、BMIが6増えるごとに4倍、腰回り、おしり周りの長さが15cm増えるごとに4倍増加すると報告されています。
つまり、肥満度が高ければ高いほど睡眠時無呼吸症候群の発症頻度や程度は悪化していくということになります。
BMIは誰でも簡単にチェックできるため、是非セルフチェックしてみてください。
もしBMIが25以上であれば、睡眠時無呼吸症候群のリスクに注意する必要があります。
肥満じゃなくても要注意!睡眠時無呼吸症候群になりうるリスクは?
「私は痩せているから関係ない!」と思っている方はいませんか?もしそう思っている方がいれば要注意です。
繰り返しになりますが、肥満は睡眠時無呼吸症候群発症にとって最大のリスクとなります。
その一方で、肥満体型でなくても睡眠時無呼吸症候群を発症してしまう方もいます。
セルフチェックでBMIが25未満、つまり肥満でないと自覚されている方も安心していいわけではないのです。
そこで、次に睡眠時無呼吸症候群の肥満以外のリスク因子について解説していきます。
複数当てはまる方がいれば、睡眠時無呼吸症候群の発症に注意する必要があるため、是非参考にしてください。
性別
最初に性別が挙げられます。
興味深いことに、性別で見ると男性の方が女性に比べて約2-3倍も発症しやすいと言われています。
理由としては、男女の脂肪の付き方の違いが挙げられます。
人間は加齢とともに脂肪が付いて行きますが、女性では下半身中心に脂肪が付いて行くのに対し、男性では上半身、特に顎や咽頭部に付着しやすいという特徴があります。
そのため加齢とともに男性は気道が狭くなりやすく、睡眠時無呼吸症候群の発症リスクにも差があるのです。
生活習慣
次に下記のような生活習慣も発症のリスクになります。
- ・暴飲暴食を繰り返す
- ・喫煙習慣がある
- ・就寝前の飲酒が多い
- ・睡眠薬を定期的に内服している
暴飲暴食によって肥満が進行してしまうため、気道は狭くなりやすくなってしまいます。
また、定期的な喫煙は咽頭部や喉頭部に炎症を引き起こし、組織が腫れあがってしまうため気道が狭くなってしまいます。
就寝前の飲酒や睡眠薬の内服は咽頭部の筋肉の緊張を低下させてしまうため、舌根も落ちやすくなり気道が狭くなってしまいます。
これらの生活習慣が当てはまる人の場合、肥満体型でなくても気道が狭くなる可能性があるため、睡眠時無呼吸症候群の発症リスクは高まってしまいます。
顔つき
体は太っていなくても、顔面や咽頭部の生まれつきの解剖学的構造によっては気道が狭く、睡眠時無呼吸症候群に罹患しやすくなってしまいます。
特に日本人は欧米人と比較して顔が小さく前後径も短いため、気道が狭くなりやすいという特徴があり注意が必要です。
そのほかに下記のような解剖学的特徴のある方は注意が必要です。
- ・顎が小さい
- ・上顎よりも下顎が後方にある
- ・小顔である
- ・二重顎である
- ・舌が大きい
- ・扁桃肥大やアデノイドなどを指摘されている
顎が小さい場合や上顎よりも下顎が後方にある場合、睡眠中に仰向けになると舌根が後方に落ちやすいため、正常な構造の人と比べて気道が狭くなりやすいです。
また、小顔や二重顎、舌が大きい場合も咽頭部のスペースが正常よりも狭くなってしまうため、気道が狭くなりやすいです。
喉の奥にある扁桃やアデノイドが肥大していると、そもそも気道が正常より狭くなっているため、やはり気道が狭くなりやすいです。
また、「睡眠時無呼吸症候群=中年の病気」と思われがちですが、扁桃肥大は小児でよく見られる解剖学的異常であり、一般的には6歳頃に扁桃のサイズが最大になると言われています。
ですので、たとえ小さな子供だとしても睡眠時無呼吸症候群を発症するリスクがあるということは認識しておく必要があります。
これらの原因疾患によっては外科的手術の適応になることもあるため、専門的な医療機関で十分検査を行うことを推奨します。
女性ホルモンのバランス
閉経に伴う女性ホルモンの分泌低下も大きく影響します。
閉経によって女性ホルモンであるエストロゲンの分泌が低下すると上半身への脂肪沈着が進行してしまうため、気道が狭くなりやすくなってしまうのです。
前述したように睡眠時無呼吸症候群は男性の方が女性よりも発症しやすい病気ですが、閉経後の女性では閉経前の約3倍、つまり同年代の男性と同じくらい発症しやすくなってしまうため注意が必要です。
睡眠時無呼吸症候群(SAS)の原因についてはコチラのコラムでもまとめていますので、ぜひチェックしてみてください。
肥満の方が行うべき予防法とは?
結論から言えば、肥満の方が行うべき予防法は減量であり、その柱は運動療法と食事療法です。
過去の研究では体重が約15%減量すると気道が広がることが報告されており、特に肥満度の高い方においては非常に有効な予防法となります。
睡眠時無呼吸症候群は睡眠の質の低下を招くだけでなく、長期的には心臓や脳などの重篤な病気の原因になるため、早期から対策を打っておくことが大切です。
また、睡眠時無呼吸症候群で発症リスクが上昇する糖尿病や高血圧などの生活習慣病の予防にもなるため、予防は非常に有効な治療法です。
そこで、運動療法と食事療法について詳しく解説していきます。
運動療法
運動療法には大きく分けて有酸素運動と無酸素運動の2つがあります。
有酸素運動とは、マラソンやランニング、水泳のように長時間、低負荷の運動を繰り返す運動のことです。
それに対し、無酸素運動とはダンベルやマシンを使って短時間で筋肉に高負荷をかけるような運動のことです。
有酸素運動を行うと脂肪細胞が燃焼されることで、無酸素運動を行うと呼吸筋が鍛えられることで、どちらも睡眠時無呼吸症候群に効果を示すと言われています。
それぞれ単独でも効果を示すと言われていますが、両方を併用することが最も推奨されています。
しかし、実際には運動だけで体重を減少させていくことは難しいため、運動療法と同時に食事療法によってカロリー制限を行うことが重要です。
食事療法
食事療法の基本は、脂肪の元となる糖質や脂質を最低限に抑えて、高タンパクでビタミンやミネラルなどが豊富に含まれる食事を摂取することです。
つまり、豆腐な納豆などのタンパク質や、糖質の少ない緑黄色野菜、肉ではなく魚を中心とした食事が好ましいです。
しかしながら、運動療法を行いつつ食事療法を続けるのはそう簡単ではありません。
そこで、ある程度の目標や目安を持ってダイエットに挑んだほうが効果的です。
気になる減量の目安とは?
結論から言えば、肥満を認める方であれば最低でも10-15%の減量を推奨します。
これはなかなかハードルの高い目標のように思えますが、実はある程度科学的根拠に基づいた数字です。
過去、アメリカで行われた大規模な研究において、10%の体重増加が症状を32%増悪させ、逆に10%の体重減少が症状を26%改善させたと報告されました。
参照:P E Peppard、Longitudinal study of moderate weight change and sleep-disordered breathing
しかし、これはあくまでアメリカ人の骨格でのデータですので、より気道の狭い日本人では10%以上の体重減少が必要だと考えられます。
周囲にいびきで迷惑をかけないためにも、ご自身の睡眠や健康を守るためにも、高い目標を持って減量に挑む価値はあるのではないでしょうか。
まとめ
今回の記事では、肥満と睡眠時無呼吸症候群の関係について詳しく解説させて頂きました。
肥満は睡眠時無呼吸症候群の原因の7割を占める最大のリスクであり、肥満度と睡眠時無呼吸症候群の発症頻度や症状の程度は正の相関関係にあるため、肥満の方はぜひ減量を検討してみてはいかがでしょうか?
肥満の減量には運動療法と食事療法の併用が最も好ましく、同時並行で体重の10%以上の減量を目指してみてください。
また、肥満がないから睡眠時無呼吸症候群を発症しない訳ではなく、それ以外のリスク因子を抱えている方も注意が必要です。
当記事で紹介したようなリスクをお持ちの方は睡眠時無呼吸症候群の可能性があるため、気になる方は一度専門の医療機関を受診してみてください。
よくある質問
Q.肥満だと睡眠時無呼吸症候群になりやすいってほんと?
A.肥満は睡眠時無呼吸症候群の最大のリスク因子です。
肥満によって頸部の脂肪が増え、それに加えて睡眠中は舌根が後方に落ちてしまうため、気道が狭くなりやすくなることで睡眠時無呼吸症候群を発症します。
そのため、肥満による睡眠時無呼吸症候群では減量が有効な治療法となります。
Q..睡眠時無呼吸症候群にはなってしまう肥満度は?
A.肥満度は基本的にBMI(体重(kg)÷身長<㎡)÷身長<㎡>)で表現され、BMI25以上の方は睡眠時無呼吸症候群の発症リスクが高く、BMIが上がるほど睡眠時無呼吸症候群の発症率や重症度は増悪していきます。 BMI25以上の肥満の方は一度専門の医療機関を受診することをオススメします。