睡眠時無呼吸症候群とはどんなもの?
睡眠時無呼吸症候群は、“Sleep apnea syndrome”(SAS)と表記されるものです。。
睡眠時無呼吸症候群とは、寝ているときに低呼吸の状態に陥ってしまったり、呼吸が停止してしまったりする症状のことをいいます。ちなみに「低呼吸」の定義は「1時間あたり5回以上あるいは7時間の睡眠のなかで30回以上低呼吸の状況に陥っていること」、「呼吸の停止」は「10秒間以上呼吸をしていない状態にあること」です。
睡眠時無呼吸症候群は寝ているときに起きるのですが、本人は息苦しさなどを感じることはほとんどありません。そのため、自覚症状に乏しく、治療の開始が遅れやすい疾患であるといえます。
睡眠時無呼吸症候群の原因とは
睡眠時無呼吸症候群のもっとも大きな原因は「肥満」です。太っていると、喉にも脂肪がつきやすくなります。この脂肪によって気道がふさがれるため、息がしにくくなるのです。ちなみに、睡眠時無呼吸症候群を患っている人の60パーセント以上に、この肥満が見られます。
ただし、太っていない人であっても、「もともと顎が小さい」「大きな扁桃腺を持っている」という人の場合は、睡眠時無呼吸症候群を患う可能性があります。また閉経を迎えた女性や、ご年配の人も睡眠時無呼吸症候群を患いやすくなります。ほかにも、アレルギー性鼻炎の人も、睡眠時無呼吸症候群に悩まされやすくなります。
ちなみにもっとも睡眠時無呼吸症候群を患いやすいのは、30代~60代の男性だとされています。
睡眠時無呼吸症候群によって起こりうること
睡眠時無呼吸症候群は、「無呼吸」とついていることから「これを患うと寝ているときに窒息死してしまうのではないか」と考えてしまう人も多いかと思われます。
しかし、睡眠時無呼吸症候群を直接の原因として窒息死することはありません。
ただ、睡眠時無呼吸症候群は大きないびきとともに、「日中の眠気」を招きます。そのため、日中に集中力が切れて交通事故や労働災害を起こしやすくなります。
また、睡眠時無呼吸症候群を患っている人は心疾患を極めて起こしやすく、健康な人に比べて発生リスクが2倍以上、重症の人の場合は4倍以上にもなるという研究結果が報告されています。
睡眠時無呼吸症候群の治療法その1~睡眠時の姿勢を見直す
このように多くのリスクを持つ睡眠時無呼吸症候群は、放置しておくと、自分自身の命のみならず人の命をも奪うことになりかねません。しかし、睡眠時無呼吸症候群は多くの人が悩まされる症状であることもあり、対策方法は確立しています。
その対策は、主に下記の5つのカテゴリーに分けられます。ちなみに、CPAPに関しては別に章を立てますので、気になる方はそちらも参考にしてください。
- ・眠る姿勢を変える
- ・生活習慣を見直す
- ・薬を使う
- ・器具を使う
- ・手術を行う
それぞれに特徴がありますが、ここではまずはだれでもすぐに取り組める「眠る姿勢を変える」から解説していきます。
仰向けでの就寝を避ける
睡眠時無呼吸症候群のもっとも簡単な対策として挙げられるのは、「仰向けでの就寝を避けること」です。
仰向けに寝ていると、舌や軟口蓋(いわゆる「のどちんこ」)が喉の奥に落ち込みやすくなります。この結果として気道が塞がる可能性が高くなり、睡眠時無呼吸症候群が悪化しやすくなります。横向けになって寝るようにすると、このリスクを軽減できます。
なお、「寝入り始めるときは横向きで寝ているが、しばらくすると仰向けになってしまう」という場合は、テニスボールなどを背中に仕込むとよいでしょう。仰向けになるとテニスボールが当たって不快ですから、意識しない状態でも横向きになって寝直すはずです。
他にも仰向けで寝る為のポイントを下記のコラムでもまとめていますので、ぜひチェックしてみてください。
自分に合った枕を利用する
自分に合った枕を考えることも、睡眠時無呼吸症候群の対策となりえます。
高すぎる枕を使っている場合、睡眠時無呼吸症候群に陥りやすくなります。そのため、まずは適正な高さの枕であるかどうかを見直しましょう。
なお上でも述べたように、睡眠時無呼吸症候群は仰向けに寝ることで発生リスクが高まります。そのため、従来型の枕をやめて、横向きで使える「抱き枕」などを採用してみるのもよいでしょう。
現在は自分の体に合った枕を作ってくれるオーダー枕プランを提供しているお店もあります。このようなお店に足を運んで、「睡眠時無呼吸症候群に悩んでいるが、どのような枕が良いか」と相談して、悩みを解消できる枕を選ぶこともおすすめします。
【補足】睡眠時無呼吸症候群と終夜睡眠ポリグラフィー検査について
睡眠時無呼吸症候群は、自覚症状に乏しい疾患です。そのため、「そもそも自分は睡眠時無呼吸症候群を患っているのかどうか確信が持てない」「横向きで寝れば睡眠時無呼吸症候群を改善すると言われているが、本当にそれで改善しているのかどうか分からない」という人もいるでしょう。
そのような人は、「終夜睡眠ポリグラフィー(ポリグラフィ)検査」を受けてみることをおすすめします。
これは、「その人が寝ているときの呼吸や脳波、いびきの状態、寝返り、心臓の様子」などを測るものであり、睡眠時無呼吸症候群の判定及び改善状況を把握するために役立ちます※基本的に医療機関での一泊検査入院が必要になります。
睡眠時無呼吸症候群の治療法その2~生活習慣の改善
上記では「睡眠時無呼吸症候群の治療方法」として、「睡眠時の姿勢を見直すこと」を取り上げました。
しかしこれ以外にも、自分だけでできることがあります。それが「生活習慣の改善」です。
- ・禁煙
- ・禁酒、節煙煙
- ・食事の見直し
- ・運動と、それによる減量
が、選択肢として挙げられます。
なおこの「生活習慣の改善」は、「睡眠時の姿勢を見直すこと」や、ほかの治療方法とも両立するものです。また。これらの生活習慣の改善は睡眠時無呼吸症候群だけでなく、ほかの病気のリスクを下げることにもつながりますから、積極的に取り組んでいくとよいでしょう。
禁煙
「煙草は百害あって一利なし」といわれていますが、睡眠時無呼吸症候群においても喫煙は非常に強い悪影響を及ぼします。
2001年に、アメリカでは、「閉塞性睡眠時無呼吸症候群を患っている人の喫煙率は、そうではない人の2倍近くにもなる」と発表しています。
これは、煙草を吸うことで鼻の粘膜や喉に炎症が起きやすくなることが原因のひとつだと考えられています。鼻や喉が腫れあがることで気道が狭まり、上手く呼吸ができなくなってしまうのです。
また、煙草に含まれる有害成分であるニコチンには低酸素状態を招く効果があるので、無呼吸症状が引き起こされやすくなります。
禁酒・節酒
「飲酒」もまた、睡眠時無呼吸症候群のリスク要因のうちのひとつです。アルコールを摂取することにより、気道の筋力の働きが鈍くなります。また気道も狭まるため、呼吸がしにくくなります。特に、寝るための飲酒、いわゆる「寝酒(ナイトキャップ)」は睡眠時無呼吸症候群を悪化させる要因となりえますから、避けるべきです。
睡眠時無呼吸症候群を改善しようとするのであれば、禁酒・断酒することが推奨されます。完全な禁酒・断酒が難しい場合は、飲む量をコントロールする「節酒」を心掛け、就寝直前の飲酒を避けるようにします。
なお、厚生労働省が掲げる「適度な飲酒」は、1日に平均純アルコール20グラム程度(ビール中瓶1本程度)」です。
食事の見直し
「食事」は、人間をかたちづくるもっとも重要な要素のうちのひとつです。特に、睡眠時無呼吸症候群は肥満・高血圧と結びつきやすいため、食事の見直しが求められます。
油物や炭水化物、菓子類を大量に取ることは避けます。下記の「減量」ともつながりますが、カロリーコントロールを行いましょう。なお「これだけの量では足りない!」という人は、野菜類や海藻類を増やして「かさ増し」をすることをおすすめします。かさ増しすれば満足感が出ますし、ミネラルやビタミン、食物繊維もとりやすくなります。
1人でのコントロールが難しい場合は、健康食の宅配サービスを利用するようにするとよいかもしれません。
運動と、それによる減量
すでに述べた通り、「肥満」は睡眠時無呼吸症候群をもたらすもっとも大きな原因のうちのひとつです。そのため、睡眠時無呼吸症候群を改善しようとするのであれば、運動と、それによる減量を考えなければなりません。また、適度な運動はストレス解消方法の手段としても有意義ですし、眠りを深くする効果も持っています。
まずは1日に5分程度でも構いませんから、踏み台昇降などのように「意識して行う運動」を日常のルーティンに組み込むようにしてください。それに慣れてきたら、15分、30分……と時間を延ばしていきましょう。学生時代などに打ち込んだスポーツがあるのであれば、再開するのも良いものです。
舌のトレーニングをする
舌が落ち込んで睡眠時無呼吸症候群(SAS)になってしまうのを防ぐために、舌のトレーニングをするのも有効です。
トレーニングについてはコチラの記事で詳細に解説していますので、ぜひ参考にしてみてください。
睡眠時無呼吸症候群の治療方法その3~投薬治療
睡眠時無呼吸症候群の治療方法として、「なんらかの薬や道具を使うもの」も挙げられます。
睡眠時無呼吸症候群を改善するための薬としては、鼻スプレーなどの外用薬もあれば、飲むことで効果を示す経口摂取薬類もあります。
ここでは、
- ・マウステープ
- ・鼻スプレー
- ・酸素量を増やす薬
- ・睡眠を深くする薬
以上の4種に分類して、「睡眠時無呼吸症候群と薬」について解説していきます。
マウステープなどのテープ類
睡眠時無呼吸症候群の改善方法のひとつとして、「マウステープなどのテープ類を使う」というものがあります。
マウステープとは文字通り、口に貼り付けるテープのことをいいます。マウステープを貼ることで口呼吸がしにくくなり、その代わりに鼻呼吸ができるようになります。口呼吸をすると喉の奥に舌が落ち込み呼吸が浅くなりますが、鼻呼吸ならばこの心配もいりません。また、マウステープを使うことでいびきを解消することもできます。特に、軽度の睡眠時無呼吸症候群にはこの方法が効果的であるとされています。
なお、マウステープは病院や薬局などで手に入れることもできますが、通信販売などで手に入れることもできます。
口閉じテープの効果についてはコチラの記事でも紹介しているので、ぜひチェックしてみてください。
鼻スプレーなどのスプレー類
花粉症などの対策として使われる「鼻スプレー(点鼻スプレー)」もまた、睡眠時無呼吸症候群の改善に効果的です。鼻の閉塞感を解消することのできる薬であり、これを使うことで鼻の通りを良くし、口呼吸への依存割合を減らします。
なお、睡眠時無呼吸症候群の改善方法としての鼻スプレーは、主に就寝直前に噴射します。
ただし、ここで紹介している方法や用法は、あくまで一般的なものです。鼻スプレーに限った話ではありませんが、薬や器具を使った治療は、医師の診療を受けたうえで医師の診断・指示に基づいて適切なタイミング・適切な量で使用してください。
酸素量を増やす経口摂取薬類
睡眠時無呼吸症候群を改善する薬のなかには、「貼る」「噴射する」以外にも、「飲む」というかたちで取り入れるものもあります。
睡眠時無呼吸症候群の解消には、血中の酸素量を増やすことが効果的であるといわれています。血中の酸素量を増やす薬を飲むことで、睡眠時の無呼吸・低呼吸が3割~5割程度減少するとされています。また、血中の酸素を増やすだけでなく、体重をコントロールする作用があるものもあります。たとえば、「ゾニサミド」と呼ばれる薬がそれにあたります。
ただしこのタイプの薬は、睡眠時無呼吸症候群の改善には効果的ではあるものの、眠気を取り除くことは不得意です。そのため、基本的にはほかの治療方法と並行して使われます。
睡眠を深くする経口摂取薬類
睡眠時無呼吸症候群を患うと、眠りが浅くなることが多いといえます。またその結果として、就寝中に何度も目が覚めてしまい、呼吸が不安定になることもよくあります。このため、この「睡眠の不安定さ」を改善することのできる睡眠薬が処方されることもあります。
ただし、もっともよく知られた睡眠薬のひとつである「デパス」は、たしかに睡眠の質を良くするものの、喉の筋肉を弛緩させて睡眠時無呼吸症候群を悪化させてしまいます。
そのため、睡眠時無呼吸症候群の改善方法として睡眠薬を飲む場合は、必ず医師の診断を受けて、適切な睡眠薬を処方してもらう必要があります。
睡眠時無呼吸症候群の治療方法その4~器具を使う
睡眠時無呼吸症候群の改善策として、「器具を使う」という方法があります。この代表例がCPAPなのですが、これに関しては後述します。
CPAP以外の器具としては、「マウスピース」などが挙げられます。マウスピースをつけることで下あごが前に向かって突き出るため、気道の広がりが確保できるようになります。気道が広がればその分空気もよく通るようになるため、睡眠時無呼吸症候群が改善するというわけです。
ちなみにこのマウスピースは、特に「スリープスプリント」と呼ばれることもあります。CPAPを持っていけない・持っていきにくい旅行先などで、このスリープスプリントは特に活躍してくれます。
睡眠時無呼吸症候群の治療方法その5~CPAP
睡眠時無呼吸症候群の治療方法としてもっとも有名なものは、「CPAP(シーパップ)」かもしれません。日本語に直すと「持続陽圧呼吸療法」となります。
これは、鼻~頭にかけてつける比較的大がかりな器具です。機械の力を利用して、圧力をかけた空気を鼻に流し込み、気道を広げることで呼吸をしやすくする器具です。
このCPAPは、1998年から保険適用で使うことができるようになりました。これにより、「経済的な負担が少ない選択肢でありながら、非常に有用性の高い治療方法である」として、多くの人に選ばれるようになりました。
CPAPのメリット
CPAPは、睡眠時無呼吸症候群を改善するための方法として非常に有用です。この器具を使った患者様と使っていない患者様の寿命を比較した場合、前者の方が明らかに寿命が長くなったとする研究結果もあります。また睡眠時無呼吸症候群は、中等程度までの人だけでなく、重症の睡眠時無呼吸症候群の人に対してもきちんと効果を示します。このため、ある程度重い睡眠時無呼吸症候群を患う人にとって、CPAPが標準的な治療方法として選択されるようになっています。
CPAPは、使用を続けることで、睡眠時無呼吸症候群の改善はもちろん、いびきや血圧の状態を改善する効果が見込めます。
CPAPのデメリット
CPAPは非常に有効なものですが、器具が比較的大がかりなものであるため、旅行先などに持参する場合はどうしても荷物になります。※「持っていけないほど重い」というものではありません。
また、使っているときに違和感を抱いたり、寝苦しさを感じたりする人もいます。
CPAPはその特性上、「レンタル」という形式をとることになります。チューブ類は消耗品であるため、定期的に取り換える必要があります。このため、確かにCPAPは医療保険内で利用することはできますが、当然ランニングコストはかさむことになります。
また、使い方を学ぶために1日病院に入院する必要がある場合もあります。
睡眠時無呼吸症候群の治療方法その6~手術
睡眠時無呼吸症候群の対応方法として、「手術」があります。
「手術」と聞けば「CPAPでも対応できないほどひどい状態のときに受けるものなのだ」「手術を受けさえすれば、睡眠時無呼吸症候群は治るのだ」「大がかりかもしれないが、手術が一番確実な解決策だ」と考えてしまう人もいるかもしれません。
しかし睡眠時無呼吸症候群の場合は、「手術=重症の人を治すためのもの」「手術=受ければどんな人でも睡眠時無呼吸症候群が治るもの」というものではありません。また、手術にはリスクもあります。
そのあたりについても解説していきます。
レーザー手術
美容外科の分野でも使われるレーザーを使った手術は、睡眠時無呼吸症候群においても有効です。レーザーを使って軟口蓋などの一部などを切り取ることで、睡眠時無呼吸症候群の改善を図ります。
このレーザーによる手術は、痛みが比較的少ないうえ、いびきも抑えられるというメリットがあります。日帰り(最短で15分ほど)で受けられるうえ、保険診療の対象ともなります。しかし、「体の一部を切除する」ということで、「出血はたしかに少ないもののゼロではないし、体に負担はかかるので、できるだけ避けるべきだ」と警鐘を鳴らす医師もいます。
口蓋垂軟口蓋咽頭形成術
口蓋垂軟口蓋咽頭形成術は、「UPPP」とも表記される対応方法です。口蓋垂軟口蓋咽頭形成術の歴史は非常に古く、1978年に日本人の医師によって確立された手術の方法です。
口蓋垂~軟口蓋を切除して、さらにその後に口と鼻の粘膜を縫い合わせる方法によって酸素が通りやすいようにする方法です。この口蓋垂軟口蓋咽頭形成術は、「扁桃腺が大きいこと」を原因とする睡眠時無呼吸症候群の患者様に、特に大きな効果を示します。手術をした人のうちの半数近くに改善が見られます。
しかし、言い方を変えれば「半分程度しか有効ではない」となりますし、強い痛みを伴います。また再発の可能性もあるため、現在では第一の選択肢とはなっていません。
まとめ
睡眠時無呼吸症候群は日中の眠気を招くものであり、放置しておくことは危険です。
しかし眠る姿勢を見直したり、生活習慣を改善したりすることで、ある程度は改善が見込めます。また投薬治療を行ったり、器具を使ったり手術したりすることでも対処ができます。。また現在は、睡眠時無呼吸症候群の治療は保険適用内で行えるものが多いため、治療にかかる金銭的負担も小さいといえます。
自覚症状に乏しい睡眠時無呼吸症候群ですが、家族などから指摘されたのなら病院の門を叩き、早めに治療にあたるようにしましょう。
よくある質問
Q.睡眠時無呼吸症候群の予後は?
A.治療をしなかった場合、中等症以上の場合は死亡率が3分の1以上です 睡眠時無呼吸症候群を8年間以上にわたって放置した場合、中等症以上の場合はそのうちの3割以上が死亡します。しかしきちんと治療すれば、病気を患っていない人と同等程度の生存率となります。
Q.市販薬は効果がある?
A.効果がないとは言い切れないが、一度は診断を受けることが推奨されます マウステープなどは市販もされています。ただし自分の睡眠時無呼吸症候群がどの程度なのかを独断で判断することは極めて難しいので、一度は医師による診断を受けることをおすすめします。